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経営者から若いITエンジニアへのメッセージ

第15回 世界標準を作るITエンジニアを目指せ

岩崎史絵
2008/2/6

企業各社にとって、人材戦略は非常に重要な課題だ。人材の育成に当たって、トップは何を思うのか。企業を担う若いITエンジニアに何を求めているのか。

ITエンジニアよ、国外へ出よう!

 もし「ERPパッケージの代表的な製品といえば?」と聞かれたら、何と答えるか。多くの場合、SAP ERPやOracle Applicationsを挙げるだろう。データベースなら、Oracle DatabaseやSQL Serverが挙がるかもしれない。いずれにせよ、ITツールで「代表的なものは?」と聞かれたら、スッと連想されるのは、ほとんどが外資系製品を挙げるのではないだろうか。

ディーバ 代表取締役社長 森川徹治氏

 ディーバ 代表取締役社長 森川徹治氏は、若手ITエンジニアに対し、「世界から見ると、日本のIT技術はまだまだ未熟で、海外製品を受け入れているという現状があります。まずはこの事実を謙虚に受け止めないといけないと思いますが、将来的には『世界標準を作っているITエンジニアと渡り合えるだけの技術力、ビジネス基盤を持ってほしいと思います』」と喝(かつ)を入れる。

 「目指してほしいのは、SAPやOracleの開発者と対等に渡り合えるITエンジニア。昔、メーカーが海外にどんどん技術者を派遣して技術力を磨いたように、ITエンジニアもどんどん海外に出て、優れた技術やビジネスモデルを吸収した方がいいのかもしれません。私見かもしれませんが、日本国内は内需が大きいので、やろうと思えば国内だけで十分ビジネスができてしまうんです。しかしそこに安住していては、いつまで経っても日本のITは未熟なまま。“世界標準を作る”“世界の名だたる技術者と対等に話せる”という目標を、夢ではなく現実のものとしてほしいですね」(森川社長)。

優れたITエンジニアには「チーム力」が必要

 日本のITエンジニアの技術が、世界に比べて低いというわけではない。むしろ、特定の要件を忠実に再現するスキルは非常に高い。だが「忠実に再現するだけでなく、よい製品を開発するためには、開発スキル、アイデア・企画力、ビジネスセンスなど総合的なスキルが必要になるでしょう」と森川氏は語る。では、その総合力をどのように身に付けるか。

 森川氏は「自分の持っている専門分野や能力を深く理解していること。同時に、『この分野はほかの人の力を借りたい』という弱い部分についてもしっかり認識していることが重要です。1人のマルチタレントではなく、チーム力を備えた専門家が必要なのです」という。折衝やマネジメントといったビジネススキルは誰もが持てないように、開発スキルも万人が持てるものではない。各人の持つ特性やスキルが合わさって、初めてより良いIT製品を作るためのアイデア、実行力が生まれてくるのだ。

 そのため、「間違っても、『この開発分野ができるだけで十分だ』と過信しないでほしいのです」と森川氏は続ける。1つの技術を極めることは非常に難しい。だが、1人ができること、やれる範囲には限界がある。そうした各人の特性を集めて、それぞれが力を発揮することが、「日本発・世界標準のIT製品を作るベストアプローチではないか」と森川氏はいう。

 「1つの技術を極めるというのは、誰にでもできることではありません。そうした“オタク魂”は持ちつつ、足りないところをチームで補っていこう、という発想が必要なのだと思います」(森川氏)

R&Dに積極的な企業を選べ

 森川氏は、そうしたITエンジニアたちが「日本発、世界標準」のIT製品を作るためには「IT企業のあり方も再考すべきだと思います」と続ける。

 繰り返すが、国内のITエンジニアは、世界と比べて「劣っている」というわけではない。ITエンジニアの開発力を引き出してこそ、優れた製品は生まれる。その1つの指標として森川氏が挙げるのが、R&Dに対する投資力だ。

 SAPやオラクル製品の価格は、確かに高い。だが、ソフトウェアの価値を正常に評価し、その質を維持するには、絶え間ないR&Dが要求される。そのため、必然的に高収益を目指すことになる。

 一方、国内のIT企業、特にパッケージベンダはどうだろうか。「外資系パッケージベンダに比べ、国内製品の競争力が弱いのは、国内のパッケージベンダの数が少なく、また、規模が小さい。その結果、業界全体の投資の金額が少なくなっているのではないか」と森川氏は見ている。

 R&Dに積極的ということは、企業がITエンジニアの能力を認めているということだ。国際標準を目指すには、国際的に通用するスキルが必要とされる。そのスキルを正当に評価し、例えば報酬という価値で提供することで、ITエンジニアのモチベーションも高まるはずだ。

 とはいえ、R&Dはやはり「高収益」あってこそ成り立つもの。高い報酬で好きなことだけを研究するのは、プロフェッショナルのITエンジニアではない。自分の開発した製品に対する満足度はどれくらいか、ユーザーは増えているのか。売り上げやユーザー数を意識し、その数値に喜びを感じられる感覚は、プロフェッショナルならばぜひとも兼ね備えておくべきセンスといえる。

“ビジネスエンターテインメント”を追求しよう

 「国際標準を目指すITエンジニア」に必要となる探究心、専門スキル、チーム力、ビジネスセンス。中でも、やはり新しい技術に対する「探究心」はITエンジニアの根幹を成すものだろう。なぜなら、世界では日々新しい技術が生まれるからだ。優れたR&D部門を持つベンダが積極的に採用に乗り出し、それが次の世界標準になる。この流れを自分たちで実現するには、やはり新しい技術への探究心が必要だ。

 森川氏が代表取締役を務めるディーバは、1997年に国内でいち早く、連結会計に特化した会計パッケージ「DivaSystem」の開発・提供を手掛け、現在ユーザー企業は約500社、連結対象子会社としてDivaSystemを使っているのは1万4000社超にのぼるという。そうした意味では、すでに「国際的なデファクト製品」として、着々と足固めを進めつつあるのだ。

 連結会計システムといえば、「技術的に面白みがない」「ガチガチの基幹システムなので、開発の自由度がない」という連想をするITエンジニアもいるだろう。

 森川氏は「会計システム=安定性や枯れた技術を最重視、といった見方をされますが、会計という世界はとても奥深いもの。われわれは、会計を1つの“技術”ととらえています。当社は、この技術を持っている。優れたエンジン技術を核に、ホンダがエンジン付き自転車からオートバイ、自動車、そして飛行機へとビジネスを広げていったように、われわれは“会計”という技術をいろいろな形で世の中に広めていきたい。その方向性として、会計という概念を、個人の人生に敷衍(ふえん)した形で啓蒙していくことも考えていますし、製品技術でいえば、“ビジネスエンターテインメント”とも呼べるような、これまでまったくなかった概念の連結会計パッケージを出していくことも考えています。それに必要な新しい技術は、どんどん出てきています。枯れた技術で安定性を保証するだけでなく、新しい技術をしっかり検証して安定性を保証し、なおかつ“楽しい”会計パッケージはできないものか。そういった“ビジネスエンターテインメント”という方向も見定めつつ、新しい技術をどんどん採用していこうと思っています」(森川氏)。

 「会計システム」は、決して面白みがないわけではない。むしろ、国際標準製品として飛躍できる力を持っているし、インターフェイスや機能を含め、改良していく分野は多数ある。短絡的なものの見方でなく、エンターテインメント性と新しい技術への探究心、そういう素質を持っているITエンジニアこそが、次世代の国際標準を作っていく可能性を秘めているのだ。

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