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「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント

第1回 転職すれば給料上がるよね?

アデコ
大田耕平
2006/12/21

数年前と比較すれば、転職は身近なものになってきている。だからこそ気を付けたい「転職でキャリアアップ」の思い込みについて、「ウソ・ホント」の視点で考えてみたい。

転職で何を重視するか?

 「『転職でキャリアアップ』のウソ・ホント」と題し、転職の常識のようにいわれていることが事実なのかどうか、キャリアコンサルタントが現場で体験した事例を基に解説します。今回は、「転職で給与アップ」は本当かどうか考えてみましょう。

 就職情報誌や人材紹介会社の広告には、「転職による給与アップ」の事例が多数掲載されています。転職をすれば必ず給与が上がるように書かれているものも少なくありません。

 しかし、実態はどうなのでしょう。大幅に給与がアップすることもありますが、現状と同程度のこともあります。場合によっては給与はダウンすることもあります。転職すれば必ず給与が上がるとは限りません。

 転職後の給与は、その転職で「できること」を重視するか「やりたいこと」を重視するかによって変わることが多いのです。そのことを表したのが図1です。

図1 できること・やりたいことと給与の関係

 縦軸に給与(上に行けばアップ、下に行けばダウン)、横軸に転職者の志向(左に行くほどできること重視度が、右に行くほどやりたいこと重視度が高い)を取ります。図の中のA〜Dのグループについて、給与アップ、給与ダウン、現状維持の3つのパターンとともに解説したいと思います。

できることを生かして給与アップのAさん

 Aさんは入社3年目、あるソフトウェアハウスに在籍するITエンジニアです。大学では情報系の学部に在籍し、当時からITエンジニアとしての道を考えていました。就職活動ではシステム会社数社から内定をもらい、十分検討したうえで現職を選びました。選んだ理由は、将来的に大規模システム開発でプロジェクトマネージャを目指すキャリアパスがあることでした。

 入社後、保険会社の営業支援システム開発のプロジェクトで主にユーザーインターフェイス部分を中心とした開発を任され、開発チームのリーダーを務めていました。業務には特に問題はないのですが、残業が多く、それに見合った給与が支給されていない点に不満を持っていました。

 そんなとき目にしたのが、ある外資系IT企業の求人広告。業界標準のソフトウェア製品を扱うパッケージベンダで、エンタープライズ向けの製品の国内シェア拡大のため、優秀なITエンジニアの採用強化を行っているところでした。Aさんはもともとこの製品のユーザーだったこともあり、実績がダイレクトに評価されるらしい同社の体制に興味を持つようになりました。学生時代に留学経験があり、英語には自信があったのでなおさらのことです。

 ある日、人材紹介会社のコンサルタントと会う機会があり、この会社について詳しく話を聞いてみました。採用要件が高いものがほとんどでしたが、中に現在Aさんが扱っている開発ツールのサポート職の求人がありました。これならAさんの経験で応募ができそうです。サポート職ということに少し抵抗はありましたが、グローバルスタンダードの最新技術が身に付くこと、成果を出せば正当に評価してくれるうえに給与が良いという点に引かれ、応募することにしました。現場マネージャの面接、英語面接、部門長との面接ともに高い評価を得て、順調に内定まで進みました。

 そして内定告知の日、Aさんは提示された給与の額に喜びを隠せなかったそうです。何と年俸制の500万円、これまでは目いっぱい残業しても400万円程度にしかならなかったのが、100万円の給与アップです。これまで目指してきたプロジェクトマネージャからサポートエンジニアへの方向転換にためらいはあったものの、充実した教育体制と給与体系を考え、転職を決断しました。

できること=やりたいことで給与アップのBさん

 33歳のBさんは、中小規模のソフトウェアハウスに在籍するシステム開発部門のマネージャ。専門学校を卒業後、新卒で入社しました。大手のシステムインテグレータ(SIer)や中堅のソフトウェアハウスを顧客に持ついわゆる2次〜3次請けのソフトウェアハウスですが、実力を正当に評価し、できる人にはどんどんチャレンジさせてくれる社風で、Bさんが入社したのもその点に大きく引かれたためでした。

 Bさんは入社後、汎用機系のプロジェクトをはじめ、数々のプロジェクトを経験しました。そこでの実績を評価され、入社3年目で5人のメンバーを率いるプロジェクトリーダーに、さらに2年後には金融系セクションのクレジット関連を核に複数のチームを統括するプロジェクトマネージャに昇格しました。マネージャとしての業務は、複数チームの採算管理、生産性管理、納期管理、品質管理を行うかたわら、自分もプロジェクトを持つというものでした。

 マネージャに従事して約5年が経過し、Bさんは社内でも中核的な存在になりました。同時にITエンジニアとしてのキャリアを考えたとき、プロジェクトの中心で仕事をしたいという思いも募っていました。しかし2次〜3次請けである会社の位置から考えて、そのような業務に就ける可能性は低いとBさんは考えました。

 そこで、転職によるキャリアアップにチャレンジすることを決意。人材紹介会社に相談し、クレジット系のユーザーを顧客に持つ大手システム開発企業に応募しました。面接では業務知識とマネジメント能力を高く評価され、内定を得ることができました。年収は現在の500万円から100万円アップの600万円。仕事内容・年収ともに申し分なく、ためらうことなく入社を決意しました。

 ともに大幅な給与アップを実現したAさんとBさんですが、2人には大きく異なる点があります。

 Aさんは給与アップを重視し、これまでの業務で培った技術を最も高く評価してくれる会社に転職しました。図1ではAのグループに属します。Aさんがサポートエンジニアに転換したように、Aグループの人は転職後のキャリアの方向をどうするかが大きな課題となります。

 Bさんも、企業から高い評価を得て給与アップした点はAさんと同様です。Aさんと明確に異なるのは、「できること」と「やりたいこと」が同一であるBグループに属している点です。つまり長期的なキャリアパスを考えやすいのです。Bグループは、キャリアアップと給与アップを両方かなえられる理想的な例といえます。

 次に、給与ダウンの例、現状維持の例について紹介しましょう。

   

今回のインデックス
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