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「転職でキャリアアップ」のウソ・ホント

第13回 「前向き」な転職理由じゃないとダメでしょ?

アデコ
高野和幸

2008/1/24

発想の転換。本当のことを話してみる

 面談の中で私は、キャリアアップに前向きに取り組もうとする多賀さんの意欲をひしひしと感じました。そして娘さんのお迎えという課題さえクリアできれば、企業からの評価を十分に得られる人だと確信しました。

 そこで、多賀さんに1つの提案をぶつけてみました。「転職理由は、思い切って本当のことをお話ししてみませんか?」。多賀さんが大変驚いたことはいうまでもありません。

 確かに、自宅から近くてある程度勤務時間をコントロールできる企業が見つかれば、わざわざ事情を伝えなくてもどうにかやっていけるのかもしれません。しかし私には、どんなに素晴らしい条件を提示してくれても、娘さんの件を理解してくれない企業なら、それは多賀さんにとって素晴らしい企業だとは思えなかったのです。

 面接の場で多賀さんが「仕事も生活も大切にしたい」という気持ちにうそをつくことを、残念に思う気持ちもありました。それが良い結果に結びつかないのであればなおさらです。

 私はこうも付け加えました。「転職理由を聞かれて、多賀さんのいまの状況を率直に説明してしまえば、それを受け入れない企業では当然残念な結果となりますよね。受け入れてくれるところだけが『縁のある』企業なのだと考えれば、むしろ早い段階で選別ができて、転職活動を効率化できるかもしれませんよ」

 初めはびっくりしていた多賀さんも、今回の転職には譲れない目的があったということをあらためて認識し、楽しそうに作戦会議に参加してくれるようになりました。

 私は、転職理由を企業に話した後のフォローとして、「企業から見てマイナスとなる部分について、どのような対策を講じるかという具体的なプランを立てておくこと」「多賀さんのキャリアアップへの意欲が、企業にしっかりと伝わるよう準備しておくこと」をお願いしました。多賀さんは「本音を隠しながら、面接官のツッコミにビクビクするよりずっといいです」と、綿密な準備をしてくれたのでした。

働く女性のモデルケースに

 大きな方針転換をした多賀さんですが、事態が急に好転することはありませんでした。転職理由が影響して残念な結果になったこともあり、私も先行きに不安を感じていたことは否定できません。

 しかし、多賀さんは企業と本音で話せることをとても喜んでいて、厳しい結果にもかかわらず、以前よりもずっと前向きに転職活動に臨めている様子でした。育児制度の充実をWebサイトでうたっていたため注目していた企業が、実際は女性の採用に積極的ではなく、制度の利用実績もほとんどないことが面接の場で分かり、「こうした企業に入社していたら後で困ったかもしれない」と安心したケースもあったのです。

 はたから見ると苦戦の連続だった多賀さんの転職活動ですが、大きな転機が訪れたのは、従業員数1000人を超える大規模なシステム開発会社の面接を受けたときのことでした。転職理由についての質問にいつもどおり回答した多賀さんは、面接官から意外な言葉を聞いたのです。

 「当社には女性のITエンジニアも数多くいるものの、お子さんができるのを境に退職してしまうなど定着率が悪く、何とかしなければいけないと思っていたんです。娘さんの件にも会社として協力しますので、ぜひわれわれの会社に来て、彼女たちの良き先輩、モデルケースになっていただけないですか?」

 この企業ではクライアント企業に常駐するプロジェクトがほとんどでしたが、勤務時間の融通が利く現場へのアサインとお客さまへの事情説明を約束してくれるなど、非常に誠意ある対応を受けられたそうです。「この企業であれば」と強く感じた多賀さんは、内定後、すぐに入社を決めました。

 「正直に自分のことを話さなければ、企業が働く女性のモデルケースを求めていたことを知ることはありませんでした。私たちの判断は間違っていなかったと思います」。ひと言お礼をと足を運んでくれた多賀さんは、笑顔ではなくまじめな表情で転職活動を振り返っていました。

「大切にしたいもの」を整理することから始めよう!

 キャリアアップしたいという希望だけでなく、「給料を上げたい」「趣味の時間を増やしたい」「人間関係を改善したい」など、転職を考えたときの「本音」は人それぞれです。もちろん、すべて正直に話せばうまくいくというわけではありません。面接でいきなり「給料を上げたいんです」とだけ伝えてしまったのでは、評価が厳しくなるのも当然です。

 私は面談の中で、「今回の転職活動で、大切にしたいものは何ですか?」と、しつこいくらいに質問します。そして、大切にしたいものを大切にできる選択肢を整理して、それを手に入れるために最も効果的な方法を一緒に検討していくのです。

 今回紹介した多賀さんは、ご自身としっかりと向き合い、大切なものを見極めることができたからこそ、大胆な戦術でも前向きに活動ができました。それが成功の大きな要因です。

 転職を考えている人もそうでない人も、ぜひ「大切なものは何だろう?」と自分に問い掛けてみてください。そしていま、大切なものを大切にできているかどうかを考えてみてください。

 意外な発見、新しい刺激を得ることができると思いますよ!

 

今回のインデックス
本当の理由を隠しての転職活動。しかし、うまくいかず……
発想の転換を行い、見事転職に成功!

筆者プロフィール
アデコ 人材紹介サービス部 コンサルタント
高野和幸
1974年埼玉県生まれ。大学卒業後、テレビゲーム雑誌、パソコン雑誌の編集・ライターを経て、2001年アデコに入社。スーパーバイザーとして、通信キャリアや大手航空会社のユーザー系システム開発企業にて派遣スタッフの管理を担当し、厚い信頼を得る。現在はキャリアコンサルタントとして、IT関連職種を中心に転職希望者のサポートを行っている。日本産業カウンセラー協会認定 産業カウンセラーおよびキャリアコンサルタント資格取得。

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