知人の紹介転職が意味するものは何?転職失敗・成功の分かれ道(18)

毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。

» 2006年06月13日 00時00分 公開
[鈴木麻紀@IT]

それは、ある日突然に

 「オレと一緒に働いてみないか?」

 ある日、知人に声をかけられる。その人は、学生時代の友人だったり、昔の同僚だったり、取引先の人だったり。声をかけてくれた理由は、人員増強だったり、新規事業の立ち上げだったり、その人が事業を起こすので手伝ってくれないかといった内容までさまざまです。

 説明を聞くと、仕事内容は魅力的、給与もアップしそうです。そして何より、自分の能力が評価された、自分を見込んで声をかけてくれた、ということが嬉しくて、あなたは思わず「Yes」と答えてしまいたくなるかもしれません。

 でも、ちょっと待ってください。即答するその前に、知人の紹介で転職することの意味とその注意点について考えてみましょう。

転職先探しの代表的な手段と特徴

 まず、転職先を見つける方法としてほかにはどのようなものがあるのか、代表的な転職/求職手段とその特徴を見てみましょう。

  • 公的機関:職安、ハローワーク。求人情報の掲載が無料なので多くの情報が集まっています。反面、個々の求人についての情報が少ないのが難点です。
  • 求人情報サイト・求人情報誌:求人企業が提供している求人情報の集合体。「リクナビNEXT」や「JOB@IT」などのインターネットサイト、「B-ing」や「type」などの紙媒体があります。公的機関より求人数は少なくなりますが、より詳しい情報を入手することができます。
  • 民間支援機関:人材紹介会社など。キャリアコンサルタントが企業とあなたの間に入り、お互いの希望や条件を刷り合わせるため、精度の高い転職先選びが可能になります。また、カウンセリングや書類の書き方の指導など、転職の各過程での支援を行ってくれます。
  • 直接応募:企業HPの採用情報などを見て、直接企業に応募する方法です。
  • 紹介:知人や親戚などの紹介。公募していない枠が多いため、ほかの手段よりライバルが少ないのが特徴です。

 上から下にいくにしたがって求人数は少なくなりますが、逆に採用につながる可能性は高くなります。

3種類の「紹介」

 では次に、紹介についてもう少し詳しく見ていきましょう。ここでは紹介で転職先を見つける方法を、大きく3種類に分けてみます。

 1つ目は、冒頭に紹介した例のような「知人に声をかけられる」というパターンです。あなたには転職の意思がなく、企業は人材を必要としています。需要と供給のバランスを考えるとあなたにアドバンテージがありますので、そのアドバンテージを生かして、納得がいくまで確認してから決断することをお薦めします。

 必ず確認すべきなのは、「どのような仕事に、どのようなポジションで従事するのか」ということです。そんなの当たり前だと思われるかもしれませんが、声をかけてもらったことがうれしくて、その時点で心が決まってしまい、後の確認が甘くなってしまうことは往々にして起こりがちです。

 求人サイトなどに掲載されている求人と違って、人づての話は仕事内容などが文章化されていないことが少なくありませんし、声をかけてくれた人が、実は仕事内容について詳しく知らない場合もあります。また、お互いにイメージが先行してしまい、断片的な情報から「こんな人に違いない」「こんな仕事だろう」と判断して(思い込んで)決断し、それが転職後にギャップとなって現れる可能性もあります。

 このような事態を防ぐためにも、声をかけてくれた人だけではなく社内のほかの方の説明を聞いたり、自分でも会社や仕事について調べることが必要です。

 そして忘れてはならないのは、「なぜあなたに声をかけてくれたのか」、その理由を確認することです。あなたの能力や人柄を見込んでくれてのことなのか、ある一定のスキルを持った人を探していてそれはあなたでなくてもよいのか、声をかけているのはあなただけなのか。「お友達紹介キャンペーン」でお礼欲しさに推薦している場合だって、ないとはいえません。この理由を確認することで、あなたの採用に関してどれだけ企業が真剣なのか、そして企業があなたに何を期待がしているのかが分かります。

 最後に確認が必要なのは、あなたの気持ちです。「なぜ自分は転職するのか」「転職してどのようなことを実現したいのか」をきちんと整理しておきましょう。ここがあいまいなまま転職をすると、入社後想定外のことが起こったときに気持ちがぶれてしまいます。転職を成功させるか否かの鍵を握るのが、あなたの気持ちです。

自らアピールする

 2つ目は、あなたが転職の希望や現職の不満を周囲に相談したり、「いい話があったら紹介してほしい」とアピールした結果、そのことを直接もしくは人づてに聞いた知人から誘われるというパターンです。あなたに転職の意思があり、企業も人材を必要としています。需要と供給のバランスが取れているので、両者の利害が合えば話が比較的早く進むことや、企業とあなたの間にあなたのこれまでの仕事ぶりや人柄を知っている人が入ることでミスマッチが防げること、などがメリットとして挙げられます。

 注意しなければいけないポイントは、自主的に転職活動をするときと違って声をかけてもらった範囲で転職先を探すことになるので、選択肢が少なくなること。複数社の話を聞いてみる、自分でも転職したい企業や仕事を捜してみるなど、視野が狭くならないよう気を付けることが必要でしょう。1つ目のパターンで挙げたポイントを確認するのはもちろんのことです。

 3つ目は、先に「ターゲット」=行きたい会社や携わりたい仕事があり、そこへつながる「人脈」=コネを探していく、という方法です。このパターンを成功させるためには、「この会社でこんなことを実現させたい」というあなたの熱意が何より必要です。

 何せあなたには転職の意思はありますが、企業が人材を必要としているかどうかは不明なのですから。だからこそ、たとえ求人の予定がなかったとしてもそれをくつがえさせるほどの熱いパッションをあなたが持っていれば、存在しなかった扉が開くこともあるかもしれません。

 このパターンの肝は、人脈の作り方、見つけ方です。もちろんターゲットへの直接のルートがあれば幸運ですが、そういうことは極めてまれです。しかし、たとえ直接のルートがなかったとしても、知り合いの知り合い、そのまた知り合いまでたどれば、何とか細い糸が見付かったりするかもしれません。

 逆説的ないい方かもしれませんが、「人脈をつくろう」と思って行動したり各所に顔を出すことを、私はあまり薦めません。

 逆の場合を考えてください。「人脈にしよう」という下心丸見えで近づいてくる人とは、あまりお近づきになりたくないでしょう?

 私が考える人脈づくりとは、人と人とのつながりを常日頃から大切すること、他者に誠実であることです。その積み重ねから自然に生まれる信頼関係が、いざというときに大きな力になったり、思い切ってお願いごとができるような良好な関係につながると思います。人のつながりの大切さについては、自分戦略を考えるヒントの「夏休みは『人とのつながり』に投資しよう!」で解説されていますので、ぜひ参考にしてください。

入社後に影響する紹介者

 次は、ちょっと現実的なお話です。それは「誰の紹介で入社するか」が実は重要だということです。

 転職は入社してからが本番です。そのときに少なからずあなたに影響を与えるのが、紹介者の評判やポジションです。紹介者の評判は、入社後しばらくはあなたにもついてまわりますし、逆にいえばあなたの活躍如何で、紹介してくれた人の評判も変わってきます。

 ポジションについては、例えば転職先の社員の紹介の場合、入社時点であなたに紹介者より上のポストや給与が与えられることはまずないでしょう。

 具体的な例を挙げると、あなたを紹介した人がリーダークラスであれば、あなたの入社時のポストはリーダー、もしくはそれ以下。部長クラスの紹介であれば、部長までの可能性があるということです。あまり計算高くなるのもどうかとは思いますが、入社すべきか迷ったときなどには、紹介者をあなたが尊敬できるか信頼できるかという視点で検討してみるのもいいかもしれません。

 そして、縁あって尊敬できる人の紹介で入社することになったら、せっかく紹介してくれた人の評判を落とさないよう、今度はあなた自身が人から尊敬されるような人になるべく努力することです。

いかにそのチャンスを生かすか

 いろいろと書きましたが、自分に声をかけてくれる人がいるということは、本当にありがたいことだと思います。それだけですでに、あなたにはHappyになる資格があります。あとは、いかにそのチャンスを生かしてあなたが活躍するかだけです。あなたが転職先で活躍することは、あなたを紹介してくれた人への何よりの恩返しにもなるのですから。

著者紹介

アイティメディア 鈴木麻紀

GCDF-Japanキャリアカウンセラー。ITサービス系人材ビジネス会社で、人事採用とキャリアカウンセリングに約6年間従事。2004年春、アットマーク・アイティ(現アイティメディア)入社。現在@ITジョブエージェントを担当している。



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