志望動機は直球勝負ばかりが能じゃない転職失敗・成功の分かれ道(21)

毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。

» 2006年09月08日 00時00分 公開
[山本直治キャリアコンサルタント]

 今回は、転職のための面接の対策として留意すべきポイントとして、最低限押さえておくべき重要ポイントについてお話しさせていただきます。

不採用となる場合

 「スキル・人物ともに合格レベルですが、面接で志望動機をお伺いしたところ、ご本人の希望される仕事と弊社の必要としている職種とは合わないと判断されますので、残念ですが不採用となりました」

 キャリアコンサルタントとして、企業にご紹介した候補者に関して、こんな不採用連絡を受けた経験は少なくありません。

 こういう連絡が来るときは、(1)公表されている(あるいはヒアリングした)求人要件・背景自体が正確ではなかった、(2)キャリアコンサルタントの理解不足・応募者へのアドバイスミス、(3)キャリアコンサルタントのアドバイスまでは適切だったが、応募者の面接での発言に問題があった、のどれかに原因があるものです。

応募理由で実際に落とされた経験

 この話に熱が入ってしまうのには訳があります。お恥ずかしい話ですが、私自身がキャリアコンサルタントとなるべく人材紹介会社に転職活動を行っていた際、「ある志望理由」をずっと職務経歴書に書き、面接でも述べていたところ、それを理由に落ち続けていた(らしい)経験を持っているからです。

 私はそのとき、ある大手の人材紹介会社を使っていました。その会社のキャリアコンサルタントに頼んでその会社に応募することにしました。同社だけが「面接の結果は、人物面は問題ないが、志望動機がビジネスとしてちょっと……」という不採用理由を教えてくれました。ほかの会社は1次面接や書類選考ですべて落とされましたが、自己応募だったからか、不採用理由は教えてもらえませんでした。おそらく、同じ理由だったのではと想像しています。

 その後、知人のアドバイスを受け入れて書類を書き換え、面接での発言も修正したところ、応募した会社はすべてから内定を得られたことからも、その思いは強まりました。

 そのとき私が思ったことがあります。それは、人材紹介会社でコンサルタントとして働いてみて確信に変わりました。

本当の転職理由を語らないという戦略

 冒頭の不採用理由を思い出してください。本当の転職(志望)理由を企業に伝えるべきかどうかは、ITエンジニアの転職でも考えなければならないことです。

 自分のキャリアパスを自分で形成するという強い意志を持ち、具体的な社歴・職歴を含めたキャリアプランニングができているなら、個別の採用面接において、必ずしも本当の転職理由を述べる必要はないでしょう。

 なぜなら、その人にとって今回の転職が、キャリアアップのためのステップアップ転職という位置付けの場合、転職活動の中で自分の最終目標を述べることが必ずしも本人の利益になるとは限らないからです。

 転職活動で、一般的にいってはいけないとされる典型的なNGフレーズをいくつかご紹介しましょう。定着率が売りの会社に「将来は起業したい」、2次請けの会社に「将来は1次請けでやりたい」、コンサルティングをやっていない会社に「将来はコンサルタント志望」とぬけぬけといっていいものでしょうか。

本当のことをいって印象が悪化

 例外がないとは申しません。しかし、面接担当者から、「この人は腰掛けで当社を受けているのか」と思われた瞬間に、その方の印象は急速に悪化します。次の転職が最後なのか、次の次を考えるのか、本音はともかくとして、1回ごとの転職は戦略的に行うべきです。面接を受けている間だけ自分の最終目的(本当の志望動機)を封印し、後で気が変わったことにしましょう。決してうそをつくわけではないのです。

 ただし、このような形での応募をするためには、上記の強い「意志」と「キャリアプラン」が絶対必要条件になります。それなくして、単にその会社に入りたいがための薄っぺらい虚言だけで面接をクリアしてしまうと、いずれどこかでしっぺ返しが来てもおかしくありません。

重要なのは意志とキャリアプラン

 この「意志」は、まさにご本人次第ですが、「キャリアプラン」は、ご自身の今後の職業生活の運命を決める作戦立案そのものですから、場合によってはほかの人に相談してでも慎重に決めるべきものでしょう。

 このキャリアプランとは、ひと言でいうと「何歳ぐらいでどの仕事を何年ぐらい経験を積むと、次はどこのどのような仕事に転職できるか」ということを客観的に分析するということに尽きます。

 私はSE出身ではありません。しかしキャリアコンサルタントになる前に、基本情報処理技術者試験を受験し合格しました。そのときの受験勉強を思い出して考えると、「ITエンジニアのキャリアアップは、PERTのアローダイヤグラムに表すことができるのではないか」と思うのです。

 自分でキャリアプランを立てたはいいが、転職してみた後、それが間違っていたことが分かったら、戦略的転職もへったくれもありません。そんなことで社歴だけ重ねて経歴書がボロボロになってしまった方に何人もお会いしたことがあります。

鯉の滝登り作戦による転職も

 例えば現在は3次請け、4次請け企業で働いているが、将来は絶対1次請けの企業に転職したいという志向をお持ちの方は、少なくありません。しかしこういう方がいまのポジションから直接1次請け企業を狙うことは極めて難しいでしょう。それでいて3次請けからもなかなか脱出できない――。そういうときは、まずは2次請けに飛び移る鯉の滝登り作戦で行きましょう。

 能ある鷹が爪を隠すのは当然です。しかし、能ある鷹になりたい人も、(上昇志向という)爪を隠さなければならないこともあるのです。

 固い意志をお持ちでありながら、キャリアプランについてお悩みの方は、人材コンサルタントがいつでも相談に応じてくれるはずです。そんなときは、気軽にお声を掛けください。

著者紹介

山本直治

労働市場の限界と格闘しながらITエンジニアのキャリア形成をサポートする公務員出身の異色キャリアコンサルタント。 現在はロード・インターナショナルで活躍中。



「転職失敗・成功の分かれ道」バックナンバー

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。