転職理由は何ですか?転職失敗・成功の分かれ道(30)

毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。

» 2007年04月10日 00時00分 公開
[橋川久美子ウェブドゥジャパン]

必ず転職希望者に聞くこと

 次に挙げる項目は、私が転職支援の仕事をしていて、転職希望者に必ずお伺いしていることの1例です。

  • 今回転職をしようと考えたきっかけ
  • 表向きの転職理由だけでなく、裏側の本当の理由
  • 過去に転職を経験されている場合には、その際の転職理由

 求職者が挙げる転職理由には、まだ漠然としていることが多いものの、ご本人の仕事に対する考え方、キャリアの志向、お人柄など、今後の転職活動、キャリアプランを立てるうえで生かせるヒントがたくさん潜んでいます。

 企業での採用面接においても、質問されることが多いのも、実はこの転職理由です。おそらく多くの企業の採用担当者も、おおむね私と同じように、転職理由から分かることが多いと考えているのではないかと思います。

 転職回数や就業期間などが明確でないと、その求職者が本当に自社に定着し、活躍してもらえる人材になってくれるのか、懸念されることが多いのです。

自身のキャリアを掘り下げよう

 そこで、転職活動の第1段階として、まずはこの転職理由を足掛かりに、ご自身のキャリアを掘り下げ、自己分析の材料にすることを私は提案します。

  • スキルアップやキャリアアップを望んで
  • 残業や休日出勤、年収などの待遇
  • 人間関係や職場の環境など
  • 業績悪化、事業部閉鎖など
  • 自分のやりたい仕事ができない

 転職理由として考えられることを挙げたら、どんな理由であっても、1度立ち止まって振り返り、「希望する方向に変えるような努力をしたか」「問題を防ぐことはできなかったのか」など、これまでのことを自己分析してみましょう。そうすると、ご自身が仕事についてどう考えているのか、今後どうしていきたいのか、どのような方針で転職活動をすることが今後の自分にとってプラスとなるのか、おそらくいままで以上に具体的に見えてくると思います。

 その結果として、いまの会社に残るという選択をされることもあるでしょう。

 こういった自己分析やキャリアの棚卸しをしていくことで、会社を選ぶ基準も明確になり、転職先の企業で、より働きやすい環境を築くことにもつながっていくと思います。

会社選びのポイントやキャリアプラン

 面接などで多くの企業に足を運ぶ中で、企業を選ぶポイントやキャリアプランが変わることがあります。企業研究をしながらさまざまな会社の人と話す機会を持つうちに、人により程度の差こそあれ、考え方に変化が生まれるのはむしろ当然のことです。

 しかし、それにより、事前にご自身の転職について分析し、決めた方針が無駄になることはありません。まずは事前にじっくり自己分析を行ったうえで転職活動に入り、転職活動の中でさらにご自身の考えを固めていってください。

企業への転職理由の伝え方

 最初に書いたように、面接で転職理由を質問されることは多いと思います。このとき、求職者が考えているよい転職理由と、企業が考えるよい転職理由には、評価にズレを感じることがあります。

 具体的に挙げれば、例えば以下のような転職理由(求職者にはプラスのイメージを抱く人が多い転職理由)に、マイナスイメージを抱く企業、採用担当者は少なくありません。

「スキルアップ/キャリアアップのため」

  • 望みながらもいまの環境でキャリアアップできないとしたら、それはなぜか
  • いまの環境では本当にスキルアップできないのか
  • 勉強などによって、自らスキルアップする努力をしているか
  • 採用しても、スキルアップできないと感じたらすぐに辞めてしまうのではないか

「業績悪化に伴い、将来に不安を感じたため」

  • 入社前のリサーチ不足、もしくはリサーチ力がないのではないか
  • 業績が悪化したのは会社のせいなのか
  • 業績が思わしくない場合、一緒に盛り立てていくことができない人なのか

「やりたい仕事ができない」

  • 上司や会社に、企画の提案をしたのか
  • 現在のポジションでも、しっかりと前向きに業務に取り組んでいたのか
  • 別部署で希望がかなうのであれば、根気よく異動願いを出しているか

 転職活動をされる場合には、上記に挙げたようなことが転職理由の場合、改善するためにどのような取り組みをしてきたのか、より明確な答えを持っておく必要があります。

 企業は採用をするために面接をするのであり、落とすためにするわけではありません。

 しかし、企業も数回の面接や筆記試験、職務経歴書などの資料だけで長く一緒に働く相手を採用するわけです。そのため、とても慎重になっているのです。そんな企業の不安を払うためにも、事前にしっかり自己分析を行い、面接で相手を納得させられる回答ができるようにしておきましょう。

納得できる転職に向けて

 ここまで読んでこられて、「転職してはいけない」と私が述べていると思われた方もいらっしゃるかもしれません。そうではありません。転職自体はその目的と道筋さえ間違っていなければ、決して悪いことではありません。求職者の希望と企業の求める人材とが一致すれば、お互いにとって素晴らしい出会いとなります。そのお手伝いをさせていただくのが私たちの仕事です。

 とはいえ、1つの会社で長く働き続けることにより得られること、身に付くことが多くあるのも事実です。社内外で得られる信頼関係や評価、任される仕事内容など、多くのメリットがあります。

 それを踏まえたうえで、転職することを選んだのであれば、自己分析、そして事前準備と下調べなどの情報収集を十分に行うこと。そして、業務内容や待遇といった表面的に見えるものだけではなく、「納得のうえで働き続けられそうな会社か」という視点を持って、ご自身に合った、安心してご活躍いただける環境を見つけてほしいと思います。

 一方、自己分析をしっかりされていない方やキャリアプランが明確でない方が、安易に環境を変えて問題を解決しようとした場合、短期間での転職を幾度となく繰り返してしまうケースがままあります。そういった悪循環を招く転職活動は避けたいところです。

 転職活動に関するすべてのことを、お1人だけで行うのは大変なことです。ご自身を掘り下げ、本気で転職先を探すほど、さまざまな点で迷い悩むのは当然のことです。結論の出ない堂々巡りにはまり、どうしていいのか分からなくなってしまうケースがよく見られます。

 また、あまり公にせずに転職活動をなされる方が多い現状では、信頼できて転職について何でも話せる相談相手が周囲にいる方は少ないものです。そんなときはぜひ、人材紹介会社のキャリアアドバイザーにご相談ください。

 企業の情報を含めて、転職市場に精通し、数々の求職者の転職支援を経験しているアドバイザーであれば、転職活動の参考になる話もできるでしょう。何よりも良き相談相手になるはずです。お1人では結論が出なくなってしまったことでも、一緒に転職に関する考えを整理して、適切な転職活動プランを立てることができます。ですから積極的にキャリアアドバイザーを活用していただければと思います。

著者紹介

橋川久美子(ウェブドゥジャパン キャリアアドバイザー)

大手IT企業での営業/ユーザーサポート業務のリーダー経験と、自身の転職体験からキャリアコンサルタントを志す。以後、数多くの求職者の転職をバックアップ。1人ひとりに合ったカウンセリングや情報提供を心掛け、その方の魅力を引き出すことを心掛けているという。



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