第1回 「残業したくない」に隠された、本当の転職理由
ITエンジニアは、どのような理由で転職を考えるのか。いくつかの事例から、転職者それぞれの課題と解決のプロセスを紹介する。似たような状況に陥ったときの参考になるだろう。 |
日本経済は好景気に沸き、求人市場も1990年代前半のバブル全盛期を彷彿(ほうふつ)とさせる売り手市場。数年前の転職市場とはうって変わり、転職者が何社も内定を獲得するといった光景をしばしば目にします。近年まれに見るチャンスの到来に、転職でのキャリアアップを狙うITエンジニアも少なくありません。
求職者にとっては、選択肢が広がる絶好の機会であるといえます。しかしそれと同時に、転職の動機がこれまで以上に大きな意味を持つようになっているのも事実です。
この連載では「転職を考えたきっかけ」をテーマに、それぞれの転職志望者の動機、抱えていた課題とその解決のプロセスを紹介します。
第1回である今回は、表面的な転職動機に隠された真の問題点を探り、それを解決した事例について考えたいと思います。
■加山さんの多忙すぎる毎日
加山優子さん(仮名・26歳)は、中堅ソフトウェアハウスに勤めるITエンジニア。情報系の専門学校を卒業してすぐに入社し、それ以来一貫してビジネス系のシステム開発に従事しています。システムインテグレータ(SIer)がユーザーから請けたプロジェクトに派遣されるケースが多く、業務としては主に詳細設計以降の工程が中心でした。
飲み込みが早く依頼された仕事を確実にこなす彼女は、ユーザーから高い評価を受け、常に新しいプロジェクトにアサインされていました。それにつれて社内での評価も高まり、業務での開発経験や先端技術を社内にフィードバックする教育担当に任命されるほどでした。
しかし、加山さんは入社以来ほとんど定時に帰ったことがありません。プロジェクトはいつも火を噴き、帰宅時間はますます遅くなります。次第に彼女は「もっとプライベートを充実させたい」と考えるようになりました。そこで、人材紹介会社(つまり筆者)の元へ相談に訪れたのです。
■「残業のない会社に転職したい」
こうして私は加山さんにお会いしました。加山さんの第一印象は、「はきはきとして活発そうな性格」というもので、非常に好感が持てました。ところが相談内容を尋ねたところ、彼女は「残業のない会社に転職したいので、どのような仕事なら可能性があるか教えてほしい」というのです。明るく前向きな性格に見える加山さんがこういう話をすることに、私は少し違和感を覚えました。そこで、そのような考えに至った経緯を聞いてみることにしました。
彼女はこれまでの経緯(前述の内容)と、業務に忙殺されている現在の状況を話してくれました。さらに話を聞くと、趣味で作曲とバンド活動をしており今後も続けていきたいが、いまのままではどうしても時間をつくることができず、そのために転職を考えたいというのです。私にもかつてそのような時期があっただけに、彼女の思いはよく分かりました。
私は趣味の活動について聞いてみました。「バンド活動に強い思い入れがあるようですね。どんなところが楽しいのですか」。加山さんは作曲の話や、楽器のテクニック習得のため徹夜をしたことなど、苦労した経験を楽しそうに話してくれました。
■加山さんの気付きのプロセス
続けて私は、加山さんの希望についてこのように話をしました。
藤田(筆者) IT関連の仕事で残業のない会社を探すことが相当難しいのはご存じですか。
加山 はい、分かっています。
藤田 それでは、これまでとまったく異なる仕事をする心構えはありますか。
加山 何ともいえませんが、あまり自信がありません。
藤田 そうですね。仕事を変えるとなると一から始めることになりますし、給与も下がるでしょう。好きなバンド活動を続ける資金にも苦労するのではないですか。
加山 そのとおりです。機材やスタジオ代もばかにならないんです。
藤田 なるほど、趣味の音楽を続けるにも資金が必要なのですね。ところで、これまでは残業が多くても一生懸命仕事に取り組むことができたのに、どうして急にそれができなくなったのでしょうか。これまで、加山さんが仕事に没頭できていた原動力は何だったと思いますか。
加山 それは……。
加山さんは、ITエンジニアになりたいという希望を持って情報系の専門学校に進学し卒業したこと、高い志で仕事に没頭し、楽しかったときのことを思い出します。そして現在の自分と比較します。
加山 最初は何もかもが新しいことばかりで刺激が多く、とても楽しかったのです。残業も苦になりませんでした。ところがいまは同じことの繰り返しになっていて、目標とすべきものが見えていないような気がします。
藤田 本当は、もっと熱中できる仕事がしたいのではないのですか。
加山さんは、今回の問題が、残業ではなく、目標が見えなくなったことによるものであることに気付きます。
加山 そうかもしれません。
藤田 新しいことに取り組める環境に身を置けば、仕事をもっと楽しむことができるのではないですか。音楽であれば徹夜をしても苦にならないのですものね。
加山 そのように思います。でも、そんな仕事はあるのでしょうか。
藤田 それを一緒に考えましょう。
勉強熱心で飲み込みも早い加山さんは、数々のプロジェクトで経験を積み、順調にスキルアップしてきました。しかし、日々の仕事はSIerからの指示に基づくものがほとんどで、詳細設計〜プログラミング〜テスト、あるいはプログラミングのみの繰り返しです。これ以上の新しいスキルを身に付けることが難しい状況になり、モチベーションを保てなくなってしまっていたのです。
こうして加山さんは、質問の回答を考えるうちに問題の本質に気付き、ネガティブであった転職動機を、前向きなものに変えることができました。
今回のインデックス |
なぜ、彼らは転職を考えたのか(1) (1ページ) |
なぜ、彼らは転職を考えたのか(1) (2ページ) |
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