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なぜ、彼らは転職を考えたのか

第5回 社長、もうついていけません……

アデコ
高野和幸

2007/9/26

ITエンジニアは、どのような理由で転職を考えるのか。いくつかの事例から、転職者それぞれの課題と解決のプロセスを紹介する。似たような状況に陥ったときの参考になるだろう。

「ネガティブ」転職は危険?

 団塊世代の大量退職、少子化の進行など、優秀な人材の確保が企業にとって重要なミッションとなっている現在。空前の「売り手市場」の中で、転職希望者も増加傾向にあるようです。もちろんITエンジニアにおいても同様です。

 ITエンジニアは、何を期待して転職を目指すのでしょうか。よりスキルを磨ける環境を得るため、これまでできなかった経験を積むため、年収をアップさせるためなど、前向きな理由を持つ人は多くいます。

 一方で、人間関係が劣悪、会社の雰囲気にどうしてもなじめないといった、一見後ろ向きな理由で転職を考えざるを得ない人も少なくありません。

 こういったネガティブな理由での転職は、望ましくないものととらえられる場合が多々あります。同じ理由での転職を繰り返し、自身のキャリアに傷を付けてしまうリスクが高いからということのようです。

 しかし、いわゆる「ネガティブ転職」は本当に危険なだけのものなのでしょうか。今回はあるITエンジニアの転職動機と解決策を通じて、このことを考えてみたいと思います。

カリスマ社長に賭けたキャリアアップの夢

 小塚沙織さん(仮名・30歳)は、従業員100人弱のシステム開発会社にて、クライアント企業のWebサイトの構築に携わるITエンジニアでした。

 社内の雰囲気はとても良く、仕事の内容や条件面もそれなりに満足できるものでした。しかし小塚さんは、周囲の友人たちがさらなるキャリアアップを目指して次々と転職していることに対して大きな焦燥感を覚え、漠然と「チャンスがあれば、私ももっと大きな仕事がしたい」と考えていたとのことです。

 そんなある日のこと、以前同じ職場にいた先輩から「折り入って相談がある」との連絡が。なかなか優秀だと一目置かれていた先輩で、現在はベンチャー企業の技術部長を任されているとのことでした。小塚さんはちょっとした好奇心から、会いに行ってみることにしました。

 すると先輩から「ぜひわが社に入社して、開発セクションの一翼を担ってほしい」との熱心な誘いがあったのです。

 先輩が所属する企業は、社長が長年構想を練っていたという金融機関向けのあるWebシステムの販売を事業の軸としており、社員数はまだ十数人とのこと。小塚さんは説明を聞きながら、「これは相当リスクが高いな」と感じたそうです。

 しかし説明の中で、社長が以前、大手のシステム開発会社にて「金融システムのカリスマ」とうわさされるほどのスーパーエンジニアだったことを聞かされました。必ず成功して急成長するという夢のようなストーリーが、ずっと「大きな仕事がしたい」と考えていた小塚さんにとって、とても魅力的なものに感じられたのです。

 誘いを受けた後にタイミング良く(悪く?)、学生時代の友人が大手システム開発会社に転職を成功させたとのうわさを耳にしたこともあり、1週間ほど悩みぬいた末に転職を決意。業務の引き継ぎも順調に終了し、期待と不安で心をいっぱいにしながら新しいスタートを切ることになりました。

あまりに厳しい現実。そして……

 企業が命運を賭けていたシステムは、金融業界にあまり詳しくない小塚さんでも「何となくスゴそう」と思えるもので、社長のITエンジニアとしての名声も上々。社長にあこがれて集まった少数精鋭のITエンジニアたちも優秀なことこの上なく、学べることも多くありそうでした。入社直後の生活は、いたって順調に滑りだしたように思えました。

 しかしその後、小塚さんは徐々に企業の中に重大な問題があることに気付き始めます。それはズバリ、社長の「暴君」ぶりでした。

 システム開発チームは社長直下の部隊だったのですが、社長の気が向けば、夜中でも休日でも突然の召集命令がやってきます。一度、デート中に呼び出しコールを無視したところ、翌日は小塚さんだけでなくチーム全員が、社長の説教を正座で聞かされることに……。その日から小塚さんは、常に携帯電話の着信音におびえ続けるようになってしまいました。

 その後も、気に入らない発言をしたITエンジニアに数時間にわたって罵詈(ばり)雑言を浴びせたり、朝令暮改どころか数時間おきに開発仕様の変更を命じたり、カリスマ社長のわがままはとどまることを知りません。

 そして小塚さんに決定的なダメージを与えたのが、「愛人」とうわさされる派遣社員を社長が正社員として引き抜き、人事部長のポストに大抜てきしたことでした。人事の経験もなく給与計算さえままならない女性が、社内の業務に何かと口を出すようになり、さすがの小塚さんも我慢の限界。

 入社の誘いをくれた先輩に相談し、退職も考えていることを告げたものの、「前の転職からわずか数カ月後の、しかも職場の人間関係などというどこでもあり得る理由での転職なんて、絶対に成功しない。考え直せ」と、冷たく突き放されてしまったのです。

 確かにインターネット上の情報を調べても、「ネガティブな理由での転職は成功しない」と書かれていることが多いのです。キャリアアップを願っている小塚さんは、自分の経歴に消えない傷が付いてしまうことが怖く、どうしても転職に踏み切れなかったそうです。

 しかし、どうにか仕事に集中しようとしても、社長が社内で公然と、人事部長とのアツアツぶりをアピールする始末。精神的にも肉体的にも疲れ切ってしまった小塚さんの様子を心配したお友達からの紹介で、私は小塚さんに会ったのです。

「人間関係を理由に転職してはダメ」。本当にそうなの?  


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