派遣エンジニアから正社員へキャリアシフト!
若手SEが狙える「新キャリアアップ術」
〜採用基準の“ボーダーライン上”の技術者にオススメ
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中村京介
2004/2/6
ある一定の派遣期間を経てから、正社員で入社する「紹介予定派遣」 が、最近エンジニア・採用企業側双方の関心を集めている。エンジニアが紹介予定派遣を活用すると、どのようなメリットがあるのか。また活用する際に注意すべき点とは……。大手人材派遣会社2社のコンサルタントらに、その実態を聞いた。 |
■紹介予定派遣を人材マッチングに活用 |
「採用する側とされる側も実際に働いてから決められるので、スキルや知識面でのミスマッチの可能性が減ります」
人材派遣会社リクルートスタッフィングでエンジニアの派遣業務に携わる田中智巳氏は、「紹介予定派遣(Temp To Hire)」のメリットについてこう語る。2003年12月に導入された紹介予定派遣とは、ある一定期間(最長1年、通常2〜3カ月)の派遣後、正社員として採用することを前提とした制度である。
通常の人材派遣では、派遣社員がそのまま正社員になるケースはまだ少ないが、この紹介予定派遣では、派遣から2〜3カ月後に、派遣社員と企業の双方が正社員になるかどうかの意思確認をすることができる。どちらかが「正社員での採用はNO!」といえば、社員にならなくてもいいという仕組みだ。すでにアメリカでは、「Temporary to Hire」の制度が一般化しており、働きたい人と採用したい企業とのマッチングに活用されている。
「紹介予定派遣で社員になった人の半年後の離職率は、一般的な採用制度よりも明らかに低くなっています。通常1時間の面接時間で採用に至るものが、2カ月または3カ月になるので、お互いを正確に見極められるからだと思います。要するに、この制度を使えば社員、企業ともに人材採用のミスマッチを防ぎやすくなるのです」(田中氏)
●紹介予定派遣(Temp To Hire)のシステム |
図1 2〜3カ月の派遣期間終了後に、正社員になるかどうかを決める。紹介予定派遣で正社員になった人の離職率は、通常の正社員採用よりも低いという |
近年、企業にも紹介予定派遣の認知度は高まっており、田中氏が担当するIT関連企業においても、「6〜7割の企業は知っている」という。また、派遣会社にとっても、派遣での仕事を希望している人材や企業だけでなく、正社員を求めている人材や企業のニーズにも応じることができる。
この点について、パソナテックの人材紹介事業部でシニアコンサルタントを務める長宮隆雄氏はこう語る。「紹介する人材・企業のバリエーションが広がるなどのメリットがあるため、積極的にこの制度を活用しようとしている企業が増えている。今後、紹介予定派遣がさらなる広がりを見せる可能性は高いのではないでしょうか」。
■採用基準の“ボーダーライン”にいる技術者へ |
もっとも、紹介予定派遣は誰にでも適しているというものでもないようだ。紹介予定派遣は、「企業の採用スペックのボーダーライン上にいる人」、あるいは「ギリギリで採用基準からモレてしまうような人」などに向いている制度といえるだろう。
逆に、楽々と採用試験に通るような人は、派遣期間である2〜3カ月の時間がリスクになる恐れもある。その期間の働きぶりがネックとなって、派遣期間終了後の正社員採用を見直されることもあり得るからだ。いわば、「自分にとってこの会社はやや背伸びかな……」というレベルの企業を狙うときに有効な制度だ。
「実際、ある大手の研究所に紹介予定派遣で入り、契約社員になったエンジニアがいます。この方の場合、スキル面ではこの会社が要求するレベルにやや届かなかったのですけれども、派遣期間中の仕事振りが良かったので、期間終了後に契約社員として採用され、現在は正社員での採用を目指し、非常に恵まれた環境で働いています」(田中氏)
また、紹介予定派遣は、未経験者を含むITのスキルが低い人にも有効だと田中氏は指摘する。
「通常の派遣や公募では、やはり実務経験が重視されますが、紹介予定派遣の場合には、今後の本人の伸びしろ、つまりポテンシャルを見てくれます。例えば、ITの実務経験はないけれども、半年間でJavaの試験に2つ合格し、コミュニケーション能力も非常に高いというような人だと、紹介予定派遣で知名度のある会社にすんなり行けちゃったりすることもあります。仮に実務経験はなくても、企業は資格試験を実務能力の証明というよりも、やる気とポテンシャルの証明として見ることがあるのです」(田中氏)
そういう意味では、技術資格を持って紹介予定派遣を活用するという方法は、未経験者がIT業界に入るには良い方法だといえる。また、数年のエンジニア経験のある人が、働く領域をチェンジしたいケースでも同じことがいえるだろう。
■高まる「SEの正社員願望」 |
リクルートスタッフィングでは、いままでに紹介予定派遣を使って実際に派遣社員から正社員になった人は6〜7割にも上るという。このことは、派遣会社に登録する人の中には“潜在的には正社員になりたい”と考えている人が少なくないことを意味している。
派遣社員でキャリアを積んだ場合、結局どこに“キャリアの出口”を持っていくのかという問いに対する答えを見つけるのは難しい。「ずっと派遣社員のままでいいのか?」という疑問は多くの人が抱いているだろう。確かに、派遣社員でいると責任ある仕事を担当できなかったり、あるいは技術力だけではなくてマネジメントのキャリアを積みたいと思っても、難しい場合も多い。
「そうしたキャリアへの不安を解消する1つの手段として紹介予定派遣があるのではないでしょうか。紹介予定派遣を使えば未経験、もしくはわずかな経験でエンジニアの道を歩み始め、2〜4社目で正社員になるというサクセスストーリーが描きやすいのです」(田中氏)
ちなみに、紹介予定派遣を使って社員にならなかったケースでは、企業側よりも社員側から断りを入れる方が多いという。その理由は、「職場の雰囲気が悪い」「仕事内容が自分のイメージしていたものと異なる」といったものが中心だ。
一方、企業が断わる理由は、「能力不足」や「仕事に対するスタンスが前向きでない」など明確なものが多く、「社風に合わない」など抽象的な理由はほとんど見られないようだ。前出の長宮氏によれば、「入社後すぐに仕事で成果を挙げられる人はあまりいません。企業側もそこまで明確なパフォーマンスを求めません。派遣期間で企業が見るのは、応募者の人柄や働く姿勢などのヒューマンスキルの部分ではないでしょうか」。
また、紹介予定派遣を使って社員にならなかったとしても、「なぜ正社員採用を断られたのかをしっかりと伝えられれば、その人の今後の転職活動に際して大きなネックになることはない。この数カ月は“お見合い期間”ですからね」(長宮氏)という。
■派遣よりも「通常の正社員採用」に近い |
だからといって、「通常の派遣と同じ気持ちで紹介予定派遣を利用するのは危険」だと田中氏は警鐘を鳴らす。「派遣」という文字から通常の派遣と混同している人も多いようだが、そのプロセスは正社員採用に近い。通常の派遣では、派遣会社が単純に仕事のリストと人材のリストを照合し、仕事の紹介をする。一方、紹介予定派遣では、仕事のリストと人材のリストを照合する際に、正社員になった場合の条件の説明が入る。
さらに、本人が働きたいという意向を持った場合には、派遣会社は企業から求職票をもらって、本採用のおよそ1月半前から、本人、企業双方の間に入って条件面での調整を行う。このプロセスは、人材派遣というよりも人材紹介会社のプロセスに近い。
「紹介予定派遣は大多数のエンジニアにとっては便利な制度と思います。ただ、派遣会社と接するとき、公募で仕事を探すときと違って、派遣会社にすべてを任せてしまう人が多い。紹介予定派遣では、公募で仕事を探すのと同じスタンスでやらないと、悔いを残すことになる危険性は十分にあります。例えば企業との最初の面談時、私たちも同席するのですが、通常の派遣のつもりで、自己PRせずに黙っている人が結構多い(笑)。職務経歴書も控えめに書く人も多いので、これでは、企業側から『あの人は本当に仕事をやる気があるのか?』と思われても仕方ないですね」(田中氏)
■正社員になると年収ダウンのケースも…… |
また、紹介予定派遣を使う場合には、年収についても正しい認識が必要だ。例えば派遣のプログラマで月収40万円、年収ベースで480万円程度をもらっていても、紹介予定派遣で正社員になると、年齢やポジションによっては、年収が350万〜400万円にダウンすることもあり得る。それは企業の正社員の給与テーブルは年齢・経験などに応じて定められており、正社員の場合はそれに従って年収が決まるからだ。給与だけに限らず、人事・福利厚生制度なども含め、正確に理解しておく必要があるだろう。
例えば、「正社員時の年収が300万円で派遣期間の時給2500円のA社」と、「正社員時の年収が400万円、派遣期間の時給が1500円のB社」を選ぶ際、正社員になったときの年収を理解せずに、派遣社員時の時給が高いA社を選んでしまう人も少なくないようだ。
派遣と名が付いているものの、紹介予定派遣はあくまで採用手段、転職手段の1つだ。そのことをどれだけ認識しているかどうかで、せっかくの便利な制度も、「宝の持ち腐れになりかねない」ことを肝に銘じておく必要があろう。
紹介予定派遣は、キャリアの浅い若手SEや、キャリアチェンジを狙うSEが、その活用方法を十分に理解すれば、キャリアアップの新たな手法の1つとして利用できるのではないだろうか。
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