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キャリアコンサルタントが見たエンジニアの転機

人材紹介会社を利用して自分を客観視しよう

キャリアコンサルタントが見たエンジニアの転機

加山恵美
2005/10/14

人生の岐路で苦悩するエンジニアを支えるキャリアコンサルタント。どんなエンジニアと会い、どんな話をしているのか。すべてのエンジニアに伝えたいこととは何か。あるキャリアコンサルタントに聞いた。

キャリアコンサルタントの日常

 あるときは朝7時からファミリーレストランでモーニングセットを一緒に食べながら。またあるときは夜23時から終電ぎりぎりまで。あるキャリアコンサルタントはエンジニアの都合に合わせ、いつでもどこにでも足を運んで面談をする。

お話を伺ったテクノブレーン 人材紹介本部 ITセクション キャリアコンサルタント 服部泰三氏

 面談相手となるエンジニアは多忙を極め、時間に余裕がないことが多い。そのため、出勤前や終業後の時間帯に面談を依頼されることも珍しくない。だが多くの場合は終業後の夜、人目を気にせずゆっくり話ができるようにホテルのラウンジを使って面談する。

 毎日何人ものエンジニアと会うというテクノブレーン 人材紹介本部 ITセクションのキャリアコンサルタント 服部泰三氏はこう語る。「土日に面談をすることもしょっちゅうです。代わりに平日の午前に半休を取るなどして勤務時間を調整しています」

 エンジニアに時間を合わせるだけでなく、面談時の飲食費も人材紹介会社が負担する。だが初めて会うエンジニアはよく「相談料はいくらですか」と不安そうに質問してくるそうだ。心配はいらない。人材紹介会社とエンジニアの面談では相談料は発生しない。人材紹介会社はエンジニアを企業に紹介することで、企業から紹介料を得る仕組みになっているからだ。エンジニアには1円たりとも請求することはない。

エンジニアと人材紹介会社の接点

 エンジニアはどのように人材紹介会社と接点を持つか。これには2通りある。能動的なエントリ型か受動的なスカウト型かだ。

 エントリ型は、転職を希望するエンジニアが人材紹介会社のWebサイトにプロフィールなどを登録し、転職相談を申し込むもの。これが大半を占める。一部がスカウト型で、人材紹介会社が独自に収集したデータを基に、求人企業の求人ニーズに見合うエンジニアに声を掛ける。

 人材紹介会社にとって、エントリ型なら話は早い。エンジニアに明確な転職意思があるので、転職の理由や意向を聞くことから始めればいい。だがスカウト型だと、本筋に入る前に趣旨を説明するのに苦労するという。「いきなり見ず知らずの人から面談を申し込まれたら警戒するのが普通です。ですからなぜ声を掛けたのかを丁寧に説明し、理解していただくことから始めています」と服部氏は話す。

 スカウト型だとエンジニアに転職意思がなく、空振りに終わることもあるし、相手の転職意識を高揚させなくてはならないなど、より多くの労力がかかる可能性もある。だがエンジニアの中にはスキルや実績があり、より良い条件の職場に移れる可能性があるのに、忙しくて転職活動をしない、または転職に目を向けない人もいる。

 この転職潜在層に声を掛けることで、当人が見えない課題に気付くこともある。もともと転職意思はなかったが、面談で自分の課題を認識し、キャリアを積み上げて数年後に転職するケースもあるそうだ。だから人材紹介会社はスカウトで転職を促すことも行うようにしている。

まずは転職意向を確認する

 エントリ型とスカウト型で話の切り出し方は違うものの、本筋の転職の話になると、まずは転職意向を確認する。転職意思は強いか、弱いか。転職の理由や目的は何か。現在の職場でどんな問題を抱えているのか。この先どんな職場で働きたいのか。こうした事柄を明確にしていく。

 「転職意向は企業の面接で必ず質問されます。ここをしっかり回答できるかどうかが転職の成功を左右します。もしあいまいなら、面談の中で徐々にブレイクダウンしていきます」と服部氏。

 中には転職を経験して、慣れている人もいる。転職意向はすでに明確であり、先方との面接もきちんとこなせる人なら、この段階には時間をかけない。「転職先の候補を早く見せてくれ」と単刀直入に要求する人もいるという。

 だが20代のエンジニアの初めての転職となると、そう手際良くいくものではない。「転職は……したい……んですけどね」と語尾がぼやけることもある。そういうときは漠然としている転職理由を明確にすべく、いろいろと質問を投げ掛けるという。

 転職を考えているということは、現状に打破したい何かがあるということだ。だが「不満は何ですか」と聞かれてもあいまいなことしか話さないエンジニアもいる。何かを隠している場合もあるだろうが、大抵は自分の状況を客観的に把握しきれていないためだと服部氏は指摘する。そこで根気強く質問していく。問題はお金なのか、仕事の内容なのか。人間関係なのか、会社の体制なのか。それとも自分自身なのか。

 質問するだけでなく、エンジニアに好きなだけ語らせるときもある。語る過程で本人が何かに気付くこともあるからだ。生い立ちから現在までの二十余年の人生について語られるのを聞いたこともあるそうだ。ひととおり語り尽くして内心のもやが晴れ、「転職は必要ない」と気付くエンジニアもいるという。キャリアコンサルタントとしては骨折り損だが、服部氏は快く受けとめる。

 「それでもいいのです。むしろお勧めします。本人が納得することが大事ですから。でも、動いた方がいいと思えるエンジニアなら転職を促すこともあります」

どんなときにエンジニアは転職を考えるのか

 エンジニアは、どんなときに転職を思い立つのだろうか。これは人それぞれのようだ。だが少なくとも自分のキャリアを考え直し、「このままではいけない」と方向転換の必要性を感じるきっかけはあるようだ。

 自分の身に起きた変化が引き金となることも多い。一般的に新年度が始まったばかりの時期は相談が増えるという。例えば自分が異動になった、同僚が異動したなどの職場環境の変化、給料の切り下げや手当の変更など雇用条件の変化が起こりやすいためだ。若手のエンジニアなら希望とは違う仕事が割り当てられた、逆に仕事内容に変化がなさすぎるなどのこともきっかけになる。

 時には仕事に行き詰まりを感じて転職を思いつく人もいるという。仕事がうまくいかずに自信をなくし、転職が現実逃避に近い場合もある。逆にプロジェクトの合間の閑散期に転職を考える人もいる。こちらは仕事が少なすぎることがストレスになる場合だ。業績が伸びないことに危機感を覚える人もいる。「このままでいいのか、自分は」と焦るようだ。転職に成功して勢いづき、もう一段ステップアップを図ろうと再度の転職を考える人もいる。人によって千差万別のようだ。

 「転職で成功するかどうかは、本人にどれだけ向上心があるかが大きなポイントとなります」と服部氏は指摘する。例えば「新しい目標が見つかった。挑戦したいことがある。しかしいまの職場ではかなえられない」といったことを、説得力と自信を持って語れるかどうかが転職で成功する鍵となる。

何が成功かは本人次第

 転職という人生の岐路に立つエンジニアと毎日のように会っている服部氏は、転職の形は十人十色だと痛感している。

 あるエンジニアは、英語力に格別のこだわりがあった。一般的にエンジニアなら英語力はあった方がいい。しかし、英語を使う職場を最優先に求めてはいたが、「なぜ英語力を向上させたいのか」と質問しても彼から明確な答えは出なかった。最終的にはそのエンジニアは、英語は多用するものの以前より技術レベルが落ち、開発の現場からも離れてしまう職場を選んだ。

 はたから見れば「それでいいのか」と疑問の残る転職だ。成功事例のイメージとはかけ離れている。服部氏も再三念を押したという。だが本人の決意は変わらなかった。

 転職は最終的には本人が自分の価値観に基づいて決断することである。他人が口出しできる範囲には限りがある。それにエンジニアとしてのキャリアの道を歩むだけが正しい道とは限らない。もしエンジニアが性に合わないとしたら、いつかストレスで支障が出てくるかもしれない。エンジニアとしてのキャリアパスから外れたとしても、違う成功への道が開けるかもしれない。

 英語を選んだエンジニアも英語を足掛かりに何かが起こるかもしれない。選ぶのは本人なのだ。だがこれは特殊な例だ。服部氏は何人ものエンジニアの焦りを見て、「キャリアアップにこだわり過ぎてしまう人もいる」と懸念している。エンジニアならもはや転職は珍しいことではなく、メディアには転職の成功事例が華々しく飾られている。「触発されてキャリアアップを目指すのはいいのですが、目標を明確にしていない人もいます」

 服部氏は、「できること」と「やりたいこと」をきちんと把握し、橋渡しができる範囲でステップアップしていくべきだと説く。例えば、プログラマから突然コンサルタントを目指そうとするのは無謀に近い。もちろん、プログラマはコンサルタントを目指してはいけないという意味ではない。現在のスキルを生かせる範囲で、将来への足掛かりとなる方向へ無理なく着実に進んでいくべきだという意味だ。

自分を客観的に見る助けに

 自分のことだからといって、「できること」と「やりたいこと」を適切に判断できるとは限らない。むしろ理想が交じり、飛躍が生じてしまうこともあるだろう。自分を正確に見極めるのは難しい。

 特に転職では、自分の意思や能力をどれだけ客観的に把握できるか、それを他人に語れるかが重要となる。「自分に足りないのは何かを知ることも大事です。例えばコミュニケーションスキル、ヒューマンスキルかもしれません。しかし他人の欠点はよく見えても、自分の欠点は分からないこともままあります。家族や友人は近すぎて気付かなかったり、遠慮して指摘できなかったりすることもあります。キャリアコンサルタントならまったくの他人なので、本人について客観的に話ができます」

 ここにキャリアコンサルタントの存在意義がある。自分で自分を客観的に分析できるなら理想的で、キャリアコンサルタントに相談する必要もないだろう。だが現実は簡単ではない。社会経験が少なければなおさらだ。だから転職意思の確認や自己分析をする際に、適度にキャリアコンサルタントに頼るのもいい。ただし人任せではいけないし、結論は自分で出すことを念頭に置いたうえのことでなくてはならないが。

 転職という岐路において、キャリアコンサルタントは有益な助言をしてくれるだろう。最後に服部氏はこうアドバイスを残した。

 「転職はゴールではありません。スタートですから」

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