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転職活動前に雇用対策法の基本を押さえよう

佐川明生(弁護士)
2008/1/22

昨年、雇用対策法が改正され、施行された。エンジニアも知っておきたいのは、「求人における年齢制限の禁止」だ。改正ポイント、年齢制限の禁止の意味、例外規定など、転職活動をする前に知っておきたい点を解説する。本記事でエンジニアも、転職活動時に損をしないよう法律武装しよう。

 雇用対策法が6年ぶりに改正され、昨年(2007年)の10月1日から施行されました。

 今回の雇用対策法の改正の目玉は、「求人における年齢制限の禁止」にあります。

 少子高齢化が着実に進んでいる日本において、将来的に労働力が不足するは必至であることからすると、子育てを終えて子どもに手の掛からなくなった女性や、定年を迎えた中高年層、あるいは新卒時の就職難で正社員になれなかった年長フリーターなど有為な人材が、その能力や経験とは関係ない「年齢」を理由に、就職の機会が閉ざされてしまうのは、社会全体の損失です。

 アメリカなどでは、雇用における年齢差別は、人種や性別による差別と同じようにタブーとされており、日本では当たり前の「定年」という制度もありません。

 しかしながらこれまでの日本では、求人広告などで年齢制限が行われるのは、むしろ当たり前でした。

■改正ポイントが「年齢制限の禁止」

 ところで雇用対策法は、平成13年にも改正されていて,その際にも「年齢制限の禁止」が盛り込まれていました。しかし、その年齢制限の禁止はあくまで求人者の「努力義務」にすぎませんでした。

 年齢制限をしない義務ではなく、年齢制限をしないように努力する義務が課せられていたにすぎなかったのです。あまり大差ないと思われるかもしれませんが、結果として年齢制限したとしても、年齢制限しないように努力さえしていれば違法ではないので、やはり、これは大きな違いです。そして、義務でない以上、仮に年齢制限をしたとしても、何らとがめを受けることはありませんでした。

 また、後で述べますが、平成13年の改正では、年齢制限の禁止が努力義務だっただけでなく、その例外が幅広く認められていたために、年齢制限の禁止の趣旨が骨抜きになっていました。

 そのため、平成19年4月におけるハローワークでの年齢不問の求人の割合は、50.8%程度にとどまっていました。

 このような状況を改善し、労働者の1人ひとりに、より均等な働く機会が与えられるよう、平成19年改正により、単なる努力義務ではなく、募集・採用における年齢制限の禁止そのものが義務化されたのです。同時に今回の改正では、前回の改正で幅広く認められていた年齢制限の禁止の例外を、以下の6事項に限定しています。

(1)定年年齢を上限として、当該上限年齢未満の労働者を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合

 例えば、「60歳未満の方を募集(定年が60歳)」との記載は認められますが、定年が60歳でも「60歳未満の方を募集(契約期間6カ月)」との記載は、期間の定めがある労働契約に該当しますので認められません。

(2)労働基準法等法令の規定により年齢制限が設けられている場合

 「18歳以上の方を募集(労働基準法62条の危険有害業務)」との記載がこれに該当します。

(3)長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合

 ただし、i)対象者の職業経験について不問とすること、ii)新規学卒者以外の者にあっては、新規学卒者と同等の処遇であること、という要件を満たす必要があります。

(4)技能・ノウハウの継承の観点から、特定の職種において労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定し、かつ、期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合

 「特定の年齢層」については、30〜49歳のうち特定の5〜10歳幅の年齢層とする必要があります。また、「相当程度少ない」については、同じ年齢層の上下の年齢層と比較して労働者が2分の1以下であることが必要になり、これに該当するか否かは原則として企業単位で判断することになります。

 例えば、電気通信技術者が、20〜29歳が10人、30〜39歳が2人、40〜49歳が8人のA社において、「電気通信技術者として30〜39歳の方を募集」との記載については、「30〜49歳のうち特定の5〜10歳幅の年齢層」となっていますから、「特定の年齢層」ということができ、また、30〜39歳が2人という数は、20〜29歳(10人)、40〜49歳(8人)のいずれと比較しても2分の1以下に該当しますので、「相当程度少ない」ということもでき、例外として認められることになります。

 これに対し、「電気通信技術者として25〜34歳の方を募集」との記載については、「30〜49歳」の範囲に収まっていないので認められないことになります。

(5)芸術・芸能の分野において表現の真実性等の要請がある場合

 「演劇の子役のため、10歳以下の方を募集」との記載がこれに該当しますが、「イベントコンパニオンとして、30歳以下の方を募集」との記載については、単に、特定の年齢層を対象とした商品やサービスの提供などが目的であり、芸術・芸能の分野に該当しないので認められません。

(6)60歳以上の高年齢者又は特定の年齢層の雇用を促進する施策(国の施策を活用しようとする場合に限る。)の対象となる者に限定して募集・採用する場合

 この場合は、「60歳以上の方を募集」との記載は認められますが、「60歳以上70歳未満の方を募集」のように、上限を設定した記載は認められません。

 ところでこれらの例外の多くは、「期間の定めのない労働契約」を前提にしています。「期間の定めのない労働契約」とは、正社員のことです。これに対し、6カ月とか1年とかの期間の定めがある労働契約が、契約社員であり、正社員と違ってその期間が満了すれば労働契約は終了します。従って、例外的に年齢制限が許される場合の多くは、正社員を募集・採用する場合に限られることになります。

 なお、平成13年改正においては、平成19年改正での上記例外に加えて、下記のような例外が認められていました。何らかの理由をつけて年齢制限を可能とし得るもので、年齢制限の禁止が骨抜きになっていたというゆえんです。

(1)体力、視力など、加齢により一般的に低下する機能が業務遂行に不可欠のため、特定の年齢以下の者を募集・採用する
(2)取り扱っている商品などがある特定の年齢層を対象としており、顧客との関係で業務が円滑に遂行されるよう、特定の年齢層を募集・採用する
(3)賃金が年齢で決定され、そのことが就業規則に明示されており、年齢に関係なく一定の賃金で募集・採用した場合に就業規則違反となることから、特定の年齢以下の者を募集・採用する
(4)労働災害の発生状況などから、労働災害防止や安全性確保のために特に考慮が必要な業務について、特定の年齢層の者を募集・採用する

■実際の求人情報の記載はどうなるのか

 このように、平成19年改正では、原則として求人の際の年齢制限が禁止され、その例外も限定されたものになっています。そのため、求人者としては、年齢ではなく、職務の内容や、職務の遂行に必要な労働者の適性、能力、経験、技能などをできる限り具体的に明示して募集することが必要になります。

 では、実際の求人情報の記載は、どのように変わるのでしょうか。

 例えば、「長距離トラックの運転手として、45歳以下の方を募集」という記載は、平成13年改正では「体力、視力など、加齢により一般的に低下する機能が業務遂行に不可欠のため、特定の年齢以下の者を募集・採用する」に該当するとして許容されていましたが、平成19年改正ではこのような記載は許されず、「長時間トラックを運転して、札幌から大阪までを定期的に往復し、重い荷物(30s程度)を上げ下ろしする業務であり、この業務を継続していくためには持久力と筋力が必要である」というように、業務内容と必要な能力などを明示した記載がなされなければなりません。

 また、「若者向けの洋服の販売職として、30歳以下の方を募集」との記載については、平成13年改正では「取り扱っている商品などがある特定の年齢層を対象としており、顧客との関係で業務が円滑に遂行されるよう、特定の年齢層を募集・採用する」に該当するとして許容されていましたが、平成19年改正では、「10歳代後半から20歳代前半までの若者向けの洋服の販売であり、宣伝を兼ねてその商品を着用して店舗に出る業務である」というように、具体的な業務内容を明示した記載がなされることになります。

 求職者からすれば、年齢を理由に募集や採用の際に門前払いをされることがなくなり、求人広告などに記載された具体的な業務内容や能力などにより応募し、面接などで自分の能力やこれまでの実績をアピールする機会が確保されたということができます。

 そして、平成13年改正では、年齢制限の禁止(努力義務)に違反した場合については、罰則はもちろん、何ら制裁がありませんでしたが、平成19年改正では、年齢制限の禁止に違反した場合には、厚生労働大臣による助言、指導、勧告などの措置が規定され、年齢制限の禁止を実効性あるものにしています。

■年齢制限の禁止はどこまで及ぶか

 この年齢制限の禁止は、会社が募集する場合だけでなく、個人が募集する場合にも適用されます。そして、求人者が、ハローワーク(公共職業安定所)を利用する場合や民間の職業紹介事業者(いわゆる人材紹介会社)を利用する場合だけでなく、求人広告などを通じて募集・採用する場合や、求人者が直接募集・採用する場合を含め、広く「募集・採用」を行うに当たって適用されます。

 従って、求職者からすれば、誰から、どのような形で募集・採用されようとも、年齢制限を受けないことが保証されたことになります。

 ただし、求人者にしては、年齢に関係なく募集の機会を与えればよいのであり、年齢に関係なく「雇用」する義務まではありません。

 そのため、求職者からすれば、履歴書を出し、面接まで受けたが、求人者の「暗黙の年齢制限」により採用が拒否され、かえって無駄な労力を使わされただけではないかとの懸念が指摘されています。

 しかし年齢制限の禁止は、「募集」だけでなく「採用」についても及びますので、「採用」において年齢制限を行っていることが内部告発などで明らかになった場合には、指導や勧告などの処分を受ける可能性があります。このあたりから、求人者の意識が改革されることが期待されているといえます。

 なお、雇用対策法は、あくまで期間の定めのない労働契約の労働者(正社員)として雇用される場合を前提にしておりますので、例えば、フリーエンジニアとして、クライアントと業務委託契約や業務請負契約を締結する場合には適用されません。年齢を理由にクライアントから契約を断られたとしても、そのクライアントに対して「雇用対策法違反だ」と訴えることはできないのです。

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筆者プロフィール
佐川明生(弁護士)◆1973年生まれ。ベンチャー企業の創出育成を支援する弁護士法人古田&アソシエイツ法律事務所のパートナー弁護士。IT企業を中心に、数多くのベンチャー企業に対する法務・人事労務を主な業務とし、2005年からは主幹事証券会社と協力して、上場申請を予定している企業の法務デューデリ(調査・分析)も担当している。アイティメディア社外監査役。

 

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