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ITエンジニアの経験はいらない!
ユニークな中途採用から見えるエンジニアの資質とは

三浦優子
2003/7/25

 中途採用を行うに当たって、経験者(ITエンジニア)でなくていいと考える企業があると聞いて、どう思うだろうか。エンジニアとしての経験やスキルではなく、それ以外の能力や資質がエンジニアとしての能力に重要だというのだ。この採用方法はエンジニアに、何かを問うているのだろうか。

 業務用パッケージソフト「COMPANY」を開発、販売するワークスアプリケーションズは、非常にユニークな求人を行っている。「テクノロジスト養成特待生」という求人では、大学卒以上の23〜29歳までの中途採用を行うものの、コンピュータやソフトウェアの業界、職種経験は一切問わず、むしろ業界外の人材獲得を想定し、採用活動を行っている。

 その理由を管理部 人事・総務グループ 小島豪洋 人事担当マネージャーは、「新しい発想でソフトウェアを開発するには、既存の経験がむしろ邪魔になってしまうことがある」と説明する。重視するのは、「論理的思考力と発想転換力の2点」だという。さらに、入社後もコミュニケーション能力、経営者的視点と、通常のエンジニアの資質として挙げられるものとは違う要素が必要だとする。同社がユニークな人材採用を行う背景はどこにあるのだろうか。

経験者はいらない! 過激な求人

 「当社も創業時は、他社と同じように中途採用者の求人を行っていた。だが、よりポテンシャルの高い人材を獲得することを目指して、1999年、思い切ってIT業界外の人材の獲得を意識した新しいタイプの求人を開始した」

ワークスアプリケーションズ 管理部 人事・総務グループ 小島豪洋 人事担当マネージャー 小島豪洋氏

 ワークスアプリケーションズの小島マネージャーの発言は、IT業界のエンジニアにとっては刺激的で、挑戦的である。同社が実施する「テクノロジスト養成特待生」は、中途入社社員を募集する求人ではあるものの、習熟したプログラミング言語、かかわったプロジェクトといったIT業界での経験は一切問わない。むしろ、未経験を前提にしている。

 「当社は、ほかの企業にはない、独自の経営理念でソフトウェアを作り上げることを目指している。すでにIT業界で経験を持ち、ルーティンワークで仕事を進めてきた人は、既成概念にとらわれ、新しいソフトウェアを作り上げるのは逆に難しい。そこで業界での経験を持っている人ではなく、潜在能力の高い人材を採用し、新しい発想でソフトウェア開発を進めていきたいと考えた」

 その代わり、本人のやる気、論理的思考力、発想転換力を持った素材を選出。しかも、入社後の6カ月の研修を通じて能力の見極めを行い、能力があると認められた人材のみが正式配属されることになる。

 6カ月の研修期間は、プログラム開発という経験のない作業に取り組まなければならないうえに、出される課題は抽象的なもので、「こちら側のあいまいな投げ掛けを、どう受け取り、答えを見つけ出していくことができるのかということを試す」という、研修を受ける側にとっては非常に過酷なものとなる。

 これまでは1回の特待生募集に対し、40人程度が入社。このうち6割程度が研修を卒業し、正式配属となっているという。

 入社した人の前歴は、公務員、金融、メーカー系営業、ITとはまったく高尾となる分野の開発業務に携わった人など、まさに千差万別だ。

 ただし、共通しているのは、やる気を持った人材だということだ。

 「テクノロジスト養成特待生の募集は、非常に特徴的な募集内容となっているだけに、これを見て、われこそはと思う人は、やる気を持った先端的な尖った人材であることが多い。募集内容を見て、違和感を覚えるような人は応募してこない。最初の段階で、こちらが欲しいと思う人材だけが応募してくるため、採用効率も上がった」

求めるのは専門知識ではない

 同社のユニークな人材採用の背景には、パッケージソフトに関する独自の考え方がある。

 「受託でソフトを開発している際には、発想転換力は必要ないかもしれない。しかし、パッケージソフトは、A社でも、B社でも、どんな企業でも使えるように多種多様な機能を盛り込む必要がある。そうしたあらゆる会社で使えるような機能性の高いソフトを開発するためには、従来の考え方を打ち破るブレークスルーによって発想や、見方を変えられる能力が必須だ」

 「COMPANY」は、商法、税務などの知識が必要な業務エリアをカバーするソフトであるため、「確かに、税務の知識が必要な場面があるが、当社の基本的な考え方は、『業務のことはお客さま自身が一番よく知っている』ということ。お客さまの声を取り入れ、汎用的なニーズを開発に反映していくという能力の方が必要なことが少なくない。そういう意味で、エンジニアにも高いコミュニケーション能力が必要だろう」と、開発エンジニアに求めるのは、専門知識以上にコミュニケーション能力だという。

 それも、「単に相手のいうことをうのみにするのではなく、相手の言葉に応答する、説明責任をベースとしたコミュニケーション能力が必要」だという。そのためには、相手から与えられるばかりでなく、常に自分自身で物事を考える癖をつけて、それを発信できるエンジニアが必要だという。

 例えば、今後取り組んでいく技術課題についても、「会社側からこの言語が必要になったから勉強するようにと指示を出して、学習会をするといったことは一切しない」そうだ。エンジニアは、経営陣から出されたサインを自分でキャッチし、今後必要なことは何かを見極め、自分自身で学習していく能力が必要となる。

新卒採用でもユニークな人材採用を活用

 このユニークな募集は、新卒採用でも動揺である。新卒者については、「インターンシップ」という形態で、エンジニアとしての自分の資質に向き合ってもらい、それを評価して最終的に決定している。

 「就職時期になってから慌てて将来のことを考えだしたというのでは、大学で学んでいる時間がもったいない。インターンシップを青田買いととらえる向きもあるようだが、当社としては自分の能力を見極め、磨く場として活用してもらい、大学生が将来を考える触媒となる場として提供している」

 そのため、インターンシップは、学生を中途採用向けの特待生と同様の研修に参加させることで、企業と学生の双方がマッチングしているのかを、見極め合う場となっている。

 しかし、同社がエンジニアに求める、論理的思考力、発想転換力、コミュニケーション能力、相手のサインを見つけて自分で動く能力といったキーワードを並べてみると、書店に並んでいるビジネスマン向け書籍や経営者向け書籍の中で、「必要」とされているものばかりである。エンジニアへのリクエストとしては、特殊なものと思えるキーワードも、実は現代のビジネスマンに必要とされているベーシックなものばかりだ。エンジニアにとって必要なスキルという狭いところにとらわれず、「現代のビジネスマンにとって必要なスキルとは何か」という視点で、自分磨きに挑戦してみることが必要なのではないか。

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