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広がれ エンジニアの輪

第13回 和田卓人――TDD伝道師を生んだ読書会と「心の師匠」

岑康貴(@IT自分戦略研究所)
2009/9/18

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インプットからアウトプットへ

 巨大プロジェクトが一段落し、多忙な生活が落ち着いたころ、和田氏は永和システムマネジメントのXP(eXtreme Programming)プロジェクト「チームかくたに」にXPのコーチとして招かれた。

 「XPユーザ会の『XP祭り』でお会いした平鍋(健児)さんや懸田(剛)さん経由で、どうやらわたしに白羽の矢が立ったようです。いま考えると、XP祭りは休日開催だったので、仕事の忙しい時期でも何とか参加できたんだと思います」

 少しずつTDDを始めとしたアジャイル開発の手法を仕事に取り入れ始めていた和田氏だが、それでもやはり現場へ一気に投入するのは難しかった。だが、「チームかくたに」への参加時に和田氏は「全開でやってほしい」といわれたという。TDDもペアプログラミングも、和田氏がそれまで多忙な時期にインプットし続けた知識やノウハウがすべて投下された。このころから、和田氏の「インプット」の時代が終わり、「アウトプット」の時代が始まる。

本をひたすら読む「インプット」の時代から
講演や執筆活動を行う「アウトプット」の時代へ

 「チームかくたに」プロジェクトに参加したころから、比較的時間に余裕が出始めた和田氏は、再びさまざまな勉強会に顔を出すようになる。

 「角谷(信太郎)さんのPofEAA読書会や、角田(直行)さんのJavaEE勉強会などに定期的に参加しました。いま有名になっているようないろいろなエンジニアが参加していて、すごく刺激的でしたよ」

 そんなあるとき、JavaEE勉強会でちょうど1冊の本が読み終わり、次に何を読むかを決めるまでの空き時間ができてしまったという。空いた回でなにか話そう、ということになり、和田氏はTDDとリファクタリングについての発表を行った。これが後の「TDD普及活動」のきっかけとなった。

 「発表して、ブログにも資料をアップしたら、すごくたくさん反響をいただきました。それだけでなく、その発表がきっかけで、WEB+DB PRESSに寄稿することになったり」

 WEB+DB PRESS Vol.35「実演!テスト駆動開発プログラマのための設計技法」はこうして実現する。これ以降、和田氏の下にはTDDに関する講演依頼が舞い込むようになったという。「Developers Summit(デブサミ)」や「Developers [Test] Summit(テストサミット)」での講演、gihyo.jpの連載「[動画で解説]和田卓人の“テスト駆動開発”講座」などを始め、さまざまな形でTDDの普及活動を行うようになった。

 「最初はなりゆきでした。発表したら評判が良くて、記事や講演を頼まれて。……TDDを広めていく、というのを意識しだしたのは、いつごろだったんだろう……」

 筆者の「いつごろからTDD普及を意識し始めたのか」という質問に対し、和田氏は少し考え込んだ。「きちんと考えたことはなかった」と漏らす。

「TDD普及活動」3つの理由

 和田氏は少し考えたあと、「3つの理由があって、本格的にTDDを広めていこうと思うようになった」と語った。

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 1つ目は「テストという言葉だけを見て、『品質保証の話でしょ? オレ関係ないね』という開発者が多かった」こと。これを受けて、和田氏は「TDDの誤解を説く」という内容の講演を重ねていく。

 2つ目は「『有用なのは分かったけど、難しい。どうやったらいいの?』という、取っ掛かりをつかめない人たちが多かった」こと。これを解決するため、和田氏は現在「コーディング道場」という企画を携え、さまざまな企業の社内勉強会の講師を行っている。最初に和田氏が30分ほど説明し、ペアプログラミングとTDDの実演を行う。その後、参加者全員に実際に体験してもらい、最後にコードレビュー大会を行う(もちろん、その後は飲み会もある)。

 TDDは実際に体験しないと分からない、というのが和田氏の考えだ。もともとは、本連載で前回登場した庄司氏が主催するコミュニティ「java-ja」で、和田氏が上記のような内容のイベントを行ったのが始まりである。思いのほか評判が良かったため、現在はパッケージにしてさまざまな会社の勉強会に訪問している。

 「有志の勉強会に参加すると、そこで知り合ったエンジニアの方が、『今度うちの会社でやってください』といってくれるんです。そういうつながりで、いろいろな会社で『道場』を開いています」

 そして3つ目。和田氏は「こんなことをいうのは、おこがましいかもしれないけど」と前置きをしながら語る。「石井さんの遺志を継がないと、というのもきっとあるんだと思います」。

 「TDDには、呪いを解いてくれた恩があります。TDDと石井さんに恩返しをしたいんです。石井さんが亡くなって、TDDを伝えていく中心人物がいなくなってしまった。いろんな人が石井さんに影響を受けていて、皆さん引き継いでいこうとしているものがあると思います。わたしは、TDDを伝え広めていくというのを、石井さんに代わってやっていかないといけない。そう思ったのが、きっかけとしては大きかったのかもしれません」

すべては読書会から始まった

 こうして勉強会やイベントを通じてTDDの普及活動をするようになった和田氏。TDDに関する書籍の読書会も続けている。

 「わたしがあるときブログで『Working Effectively With Legacy Code』(マイケル・C・フェザーズ著。邦訳『レガシーコード改善ガイド』)について書いたら、角田さんがコメントで『読書会フラグですね』って。それで、この本の読書会をしましょうという話が盛り上がって、実際にやることになっちゃった。幹事は別の方にお願いしているのですが、わたしも中心メンバーの1人として進めています」

『Working Effectively With Legacy Code』
すでに存在する「テストがないコード(Legacy Code)」を前にして、
あきらめずにどう立ち向かうか、という本だ

 この読書会には、同書の翻訳を担当した平澤氏もゲストとして参加した。和田氏が初めて参加した読書会で出会った「雲の上の人」との再会である。

 現在、同書は読み終わり、2冊目として『xUnit Test Patterns』(ジェラルド・メスザロス著)を読んでいるところだという。この2冊と『Refactoring Databases』(スコット・W・アンブラー、ピラモド・サダラージ著。邦訳『データベース・リファクタリング』)の3冊を合わせて「現実と戦うシリーズ」と和田氏は呼んでいる。

 「わたしをITの世界に引き込んだのも、いまの多くの活動も、どれも読書会やコミュニティ活動がきっかけになっています。そういう意味で、いまのわたしにコミュニティ活動は大きな影響を与えていますね」

 自身が学生時代に読書会に参加した経験を持つためか、勉強会で若い人を見るとテンションが上がってしまうのだという。

 「いまはTwitterがあるから、『雲の上の人』との精神的な距離が縮まりましたよね。どんなスーパーエンジニアともつながることができる。人のつながりは本当に大きい。この価値を、次世代の人たちにも伝えていきたいです」

 肩肘張らずに、「なんか面白いことやろうよ」というくらい、ゆったりしたもので構わない。和田氏はそう笑った。

 

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