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学生が知らない組み込み開発の現場

千葉大輔(@IT自分戦略研究所)
2007/12/5

就職活動を間近に控えた大学3年生を中心とした対象者に、企業における業務の取り組み方などを紹介する講演会が行われた。今回はこの講演会の内容から、組み込み製品開発の概要の紹介や組み込み開発を行うエンジニアとして、これからの若い人材にはどんな能力が求められているのか探る

 「就職は結婚と似たようなものです。何か縁があると思ったらトライしてみたらどうでしょう」

 11月16日、法政大学で行われた講演会で、日本テクトロニクス シグナル・ソース事業部 テクトロニクス・フェロー 酒井良一氏は、集まった学生たちに向かってこうエールを送った。

開発のプロセスとスキーム

 
  日本テクトロニクス シグナル・ソース事業部 テクトロニクス・フェロー 酒井良一氏

 「製品開発は企画、計画立案、設計、試作、生産立ち上げ、販売というプロセスで行われます。それぞれのフェイズの間には必ずマイルストーンを設けて、いくつものテストやレビューをクリアしないと先に進めません」。酒井氏はまず、製品開発の大まかな流れを示す。

 「まず、どういう機能や性能が顧客から求められているかを実際に話を聞きながら調査し、そこから要求分析をしたのち、製品仕様に落とし込んでいきます」。

 テクトロニクスでは、エンジニアも必ずこうした調査や要求分析の場に同席し、さまざまなメンバーで顧客の要求からアイデアを練るのだという。その後、基本仕様を基に要求仕様を作成し、開発の期間や人員、コストを含めて開発計画を立案。経営陣のレビューが行われる。組み込み開発の場合は、実際に機器の製造を行うため、ソフトウェアやハードウェアの開発のコストだけではなく、生産ラインの立ち上げや維持にもコストが発生する。それだけに投資判断は厳しく行われるという。

 「計画が承認されると設計が始まり、ソフトウェアやハードウェアなど、実際の開発作業に入っていきます」

 開発チームは、ユーザーインターフェイス(UI)やネットワークなど、それぞれ担当分野を持ったエンジニアたちが集まって構成される。こうした開発チームのメンバーはどこか1個所に固まっているのではなく、世界中に分散しているのだという。「ソフトウェアとハードウェアを合わせて動作確認をしようと思っても、ハードウェアが届いていないため、思うようにいかないこともあります」と酒井氏。遠く離れた場所で互いに開発を進めるためには、チーム間の連携が重要となる。

チームワークを維持するためのコミュニケーション

 「製品開発はチームワークです。まずは製品に合ったチームを作り、目標や製品のコンセプトを明確にして、メンバーと共有する。これが非常に重要だと考えています。そして、役割分担と責任をはっきりとさせる」と酒井氏は話す。開発プロジェクトでは、チームワークが非常に重要な鍵だが、実際に若いエンジニアがチームに配属されたら、どう振舞えばいいのだろうか。

 「チームメンバーとして開発を行う中では、報告・連絡・相談、つまりホウレンソウが大切。企業が一番嫌うのはサプライズです。小さな異変のうちから報告していれば、サプライズはないし、問題に対して対処が取れます」。酒井氏はチームメンバー間のコミュニケーションの重要性を説く。そのほか、コミュニケーション面では「自分の思いを言葉にすることです。企業ではあうんの呼吸というのは通用しません。自分の考えをロジカルに相手に伝えることが大切ですね」

製品開発で最も重要なこと

 試作とテストを重ねて、製品は洗練されていく。バグフィックスと生産ラインの立ち上げ時に起こる問題に対処すると、あとは価格の決定を経ていよいよ販売となる。

 酒井氏は製品開発を行ううえで最も重要なことは「コミットメント、つまり『いつまでに何をするのかを約束すること』」だと学生たちに語りかける。

 「企業で行われる仕事は、スケジュール管理が厳格です。スケジュールが遅れるとそれだけ開発コストは大きくなり、販売時期が遅くなるので売り上げが減ります。つまり、スケジュールの遅れはビジネス的にダブルパンチを食らったようなものなんですね」。それだけに、企業では、いつまでに何をやるのかをしっかりとチームメンバーと会社に対して約束することが求められる。

 そして、2番目に重要なこととして「リスク管理」を挙げる。

 「誰もが簡単に作ることができる製品を開発しても、そこに価値はありません。リスクを取ってチャレンジをしないと、競争力のある製品は開発できません」と酒井氏。リスクをうまく予見し、開発に影響がでないように考えておくことが重要だという。

これからのエンジニアに必要な能力と心構え

 酒井氏は、これから組み込み開発者を目指す若い人に対して4つのアドバイスを提示した。

 1つ目は「マーケティングやファイナンスの知識を身に付けること」。会社は利益を上げないと存続できない。企業にいる以上必ず利益のことは考えなければいけない。そうしたときにマーケティングやファイナンスの知識は必ず役立つという。これらの能力を身に付けておいて損はない。

 2つ目は「視点を世界に広げること」。企業は思った以上にグローバル化している。世界に目を向けて物事を考える必要がある。そのためにも英語をはじめとする外国語の学習は必要不可欠だという。

 3つ目は「組み込み開発は他分野の技術の理解が必要なこと」。組み込み開発で使われる技術は非常に多岐にわたる。そして、それらの技術が密接に関連しているため、自分の領域の周辺にある領域についても、ある程度の知識が必要になる。

 4つ目は「企業に頼らない生き方を考える必要があること」。企業に入っても、その会社がずっと続くという保障はない。あまりに企業に依存してしまうと、そこでしか通用しない人間になってしまう。「できれば社外で名前を上げるくらい頑張ってほしいと思います」と酒井氏はいう。

 最後に酒井氏は「企業に入っても必ずしも自分が希望するところに配属されるとは限りません。しかし、企業の中には、組み込み開発ひとつ取ってみてもさまざまな仕事があります。まずは目の前の仕事にトライしてみることが重要です」と締めくくった。

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