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コラム:自分戦略を考えるヒント(38)
本当に悩んだときの「相談」相手

堀内浩二
2007/2/28

 こんにちは、堀内浩二です。今回は「相談」について書いてみたいと思います。

 相談といっても、ここで考えたいのは、知識を教えてもらうたぐいの相談ではありません。できるだけ情報を集め、自分なりに分析して、それでもなお迷うような決断。どちらを選んでも、客観的には差がない(あるいは分からない)ような選択。当研究室のテーマである「自分戦略」に関していえば、転職するかしないか、するならばA社かB社か、といった決断を典型例として挙げることができます。そういった局面での相談を、誰にどのようにすることができるでしょうか。

 よく「人は、自分で発見したことにしか納得しない」といいます。個人の意志決定を研究していて、また講師として学びの現場に立ち会っていて、これは確かな原則だと感じています。そこで、自分の進むべき道をどうやって自分に発見させるかという観点から、「他人への相談」「自分への相談」「自分の中の他人への相談」という3つのパターンに分けて考えてみました。

他人への相談

 他人に相談する前に意識しておきたいのは、自分の決断を自分の代わりに下してもらおうとしないこと。当たり前のようですが、重要な心掛けだと思っています。つい「背中を押してほしい」「専門家の意見を聞きたい」「一般的な(ほかの人の)傾向を知りたい」などといいながら、重要な決断の核の部分を誰かに決めてもらいたくなってしまうからです。自分の決断がもたらす結果の責任を取るのは自分でしかないと、頭では知ってはいても、そのような誘惑を感じます。

 今回は、自分で考えるときに選択肢を発見することを促してくれる相談相手は誰かという視点から、3種類の相談相手を考えました。

(1)答えを教え(ようとし)てくれる人

 一般的には、2つの理由で望ましくありません。1つ目は、相談相手への依存心が高まってしまうリスクが高いこと。自分で下した決断ではないので、似て非なるケースに直面したときに、また頼りたくなってしまうということです。相手があなたを操作しようとしている場合はもちろん、善意のアドバイスであっても同じ結果を生む可能性があります。

 2つ目は、もっと良い答えを持っている人がほかにいるのでは、と思ってしまい、アドバイザー巡りに陥ってしまうリスクがあること。これも、決断を他人に依存する限り起こり得ることです。

 ただし、常に望ましくないというわけではありません。より深く考えさせるために、あえてどちらかの道を勧めてくる相談相手もいるでしょう。どちらかを選べと決めつけられて初めて、具体的に考えることができるケースもあるからです。自分が上述の「重要な心掛け」を意識しており、相談相手もそれが分かっている方であれば、お勧めの選択肢とその理由を聞いてみるのは有効だと思います。

(2)ただ聞いてくれる人・問うてくれる人

 門外漢でも、いっそ人形でもいいから、聞き手をおいて話してみるというアプローチもありますね。ただ聞いてくれるだけでなく、適切に問い返す技術を持った相談相手なら、自分の決断を確かなものにしてくれると思います。これについては後述の「自分への相談」に譲ります。

(3)問い方(考え方)を紹介してくれる人

 ここでいう問い方(考え方)とは、とにかく相談者の思考を深めてくれる情報ということです。例えば、「決断を下す4ステップ」のような何らかのメソッドかもしれません。よい相談相手ならば、相談者の困り具合を観察し、適切な思考のフレームワークをいくつか紹介してくれるでしょう。あるいは、経験談かもしれません。

 ただ経験談とはいっても、重要なのは決断の結果でなく決断に至るプロセスです。相談者と同じような境遇にあった人が何をどのように考えて決断に至ったか、その思考プロセスからは、きっと何らかの発見があると思います。

自分への相談

 上述の「(2)ただ聞いてくれる人・問うてくれる人」への相談は、意味としては「自分への相談」に近いので、こちらで考えてみたいと思います。

 アイデアをまとめるために誰かに話を聞いてもらうことを、友人のマーケターは「思考のカベ打ち」と呼んでいました。アイデア出しに煮詰まると、誰でもいいから「ちょっとカベ打ちに付き合って」といって会議室に引っ張り込んで聞き役になってもらうそうです。このような「思考のカベ打ち」は、多かれ少なかれ皆さんも実践しているのではないでしょうか。

 わたしの知る限り、話すことで考えがまとまるメカニズムは分かっていません。ただ、雑多な考えを口に出していくうちに、話に一貫性を持たせようとする不思議な能力が発揮される気がします(よね)。ですので、「考え切ったうえで」「一気に」「大量に」アウトプットすることがコツだと思います。

 「話す」といえば、インタビューに答えることが自分への相談になった記憶があります。会社を退職して独立してしばらくしてから、あるWebサイトからインタビューのお申し込みがあり、ありがたく受けました。意気込んでいたこともあって自社(自分)のサービスについて喋りまくってしまったのですが、結果として自分で当初考えていた以上にしっかりしたストーリーになり、自分なりのキーワードを発見することができました。それを編集して文章にしていただけるというオマケ(こちらが本来の成果物ですが)も付いてきました。

 同じように、スピーチやプレゼンテーションもよい「相談」のツールととらえることができます。転職する仲間の最後のあいさつがびっくりするほどしっかりしていたとすれば、その方はスピーチの練習を通じて自分なりの転職シナリオを練っていたのかもしれません。

自分の中の他人への相談

 特定の相談相手を想定した「自分への相談」ということです。伝記や自伝で主人公が難しい決断を振り返って、

「こんなとき、父ならどう振る舞うかを考えた」

などと書いている例をいくらでも思い出せるでしょう。一番多いのは肉親だと思いますが、著書や講演を通じて、その考えに親しんでいる人でもいいでしょう。

 多面的な見方を強いるために、あえて「ステレオタイプ」を何人か用意するやり方もあります。マキャベリ(打算的な戦略家)ならどういうか、ガンジー(非暴力的な人道主義者)ならどう答えるか……と考えるわけです。

 どちらにせよ、ある価値観を特定の人格に託し、その人に相談するというのは強力な手法ですので、活用しない手はないと思います。

 また、応用(?)として、「80歳の自分への相談」というやり方も紹介しておきましょう。これは当コラムの「シリコンバレーで感じた自分戦略の大切さ」でも書いた方法です。

個人的に大きな決断をするための、いくつかの問い

 最後に、わたしが個人的に使っている相談用のリストをご紹介します(「個人的に大きな決断をするための、いくつかの問い」より)。

  • 完全に合理的な人は、どう決断するだろうか?
  • 80歳になった自分が過去を振り返ったとき、この決断をどう思うか?
  • あと3年で死ぬとしたら、どのような決断になるか?
  • (尊敬する人の名前)なら、どう決断するだろうか?
  • (尊敬を失いたくない人の名前)に自分の決断が間接的に伝えられたとき、この決断をどう見るだろうか?
参考文献
「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために(ジョセフ・L.バダラッコ著、金井寿宏、福嶋俊造翻訳、東洋経済新報社)

筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役、グロービス経営大学院 客員助教授。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。シリコンバレーに移り、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。帰国後、ベンチャー企業の技術および事業開発責任者を経て独立。現在は企業向けにビジネスリテラシー研修を提供するほか、社会人個人の意志決定支援にも注力している。

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