
堀内浩二
2007/3/29
こんにちは、堀内浩二です。そろそろ4月。「新人」が入ってきます。初めて「先輩」になる方も少なくないでしょう。
リーダーシップは、「組織行動論の中で最も研究されていながら最も解明されていない分野」だそうです。ですから「これさえ読んでおけば大丈夫」というマニュアルのたぐいを推薦することも難しいのですが、あえて1冊といわれれば、神戸大学の金井壽宏教授が書かれた『リーダーシップ入門』(日本経済新聞社刊)という新書を挙げます。いま書いた「組織行動論の中で〜」という部分も同書からの引用です。
そこで今回のコラムはこの本に寄りかかりつつ、初めて部下を迎える人のための「リーダーシップ超入門」と題してお送りします。
■リーダーとは会社が決めるもの、リーダーシップとは仲間が認めるもの
「次のプロジェクトでチームリーダーやってくれないかな」
「来期、君の下に1人付けるから、よろしく」
おめでとうございます。あなたがリーダーを予告された瞬間です。
おめでたいかどうかは別にして、せっかくの機会ですから「良いリーダーになる」ということについて考えてみましょう。
リーダーとは、単なる役割の名前です。会社がそう決めれば、あなたはリーダーです。
では、良いリーダーとは何か。実はこの点すら定まった定義があるわけではないのですが、ここでは「組織としての成果を高められる人」とします。リーダーという肩書きは、独りの仕事には使われません。リードされる人がいてこそのリーダーですから、リーダーは必ず複数人からなる組織として仕事をします。リーダーはその組織としての成果に責任を負う立場と考えれば、妥当な定義といえるでしょう。
リーダーの良しあしが組織としての成果で測られるならば、良いリーダーにはどんな能力が求められるのか。ここで出てくるのが今回のテーマである「リーダーシップ」です。リーダーシップさえあれば成果が出る(リーダーシップは成果の十分条件である)わけではないものの、リーダーシップは組織としての成果を高めるための必要条件であると、ここでは定義をしておきます。
さて、そのように重要なリーダーシップがあなたにあるかないか、それを決めるのは誰でしょうか。それはリードされる人、当コラムの文脈でいえば新人です。新人があなたのリーダーシップを認めて自発的にあなたについていくのを見て初めて、同僚も上司もあなたのリーダーシップを認めてくれるのです。
この「リーダーシップはリードされる人によって測られる」という点は、よくよく肝に銘じておく必要があります。人によっては、社会人になって初めて出会う大きな価値転換かもしれません。
それ以前は、仕事の評価もシンプルでした。個人として成果が出せればマル、そうでなければバツです。知識を蓄えたりスキルを磨いたりすることは自分の努力で何とかなりますから、自分の努力と成果と評価が割とストレートに結びついていました。しかしリーダーシップの物差しは、「人がついてくるか」ということ。知識の蓄えも重要ですが、「物知りなのは認めるけど、2度と仕事をしたくない上司」と思われるとすれば、リーダーシップがあるとはいえないでしょう。
■だからといって、迎合もダメ
ではリードされる人に意見を聞き、その多数決に従うのはどうでしょうか。それは迎合であり、リーダーシップではないとわたしは考えます。仕事の中には、単純に多数決で決められない選択があります。例えば短期的な成果と長期的な成果のどちらを追うべきか、個人の幸福と組織の利益が相反する状況をどう解決するか、利益を追求することと倫理的に高潔であることのバランスをどう取るか。
ほとんどの場合、どちらかが正しくどちらかが間違っていると簡単にはいえない選択ばかりです。
このような難しい選択を迫られた際には、複数の立場から総合的に考えるべきです。リードされる人は特定の立場に立っていますから、「組織としての成果」という最終的な物差しから見て最善の選択をするとはいえません。もし「組織としての成果」が出なければ、多数決型リーダーは「自分たちのいうことを聞きすぎる」という皮肉な理由で支持されなくなるでしょう。
よく「会社の論理と個人の論理の間で板挟み。中間管理職はつらいよ」といわれます。実はそれこそが企業におけるリーダーの役割ではないでしょうか。リードされる人から見れば個々の局面では不満があったとしても、その重圧と選択に伴うリスクとを負う姿勢が、常に最善の選択を模索してくれるリーダーとしての信頼につながるのだと考えます。
■持論を育てよう
独裁はもちろん迎合もダメ、万能理論もないとなると、何をよりどころにすればいいのでしょうか。いわゆる名経営者の自伝を読んだり、尊敬できる先輩から話を聞いたりしていくと、その人なりの一貫した考え方があることがうかがえます。誰にでも、いつでも使えるというわけではありませんが、時間をかけて育ててきたその人なりの判断基準、つまり「持論」です。わたしが『リーダーシップ入門』を推薦したい理由の1つは、この「持論」の育て方に大きなボリュームが割かれているからです。そしてリーダーとしての持論を育てることは、当研究室のテーマである自分戦略を考えることにも通じます。
持論は突然出来上がるわけではありません。新人が仕事を休みがちになってしまった、どう声を掛けようか……といった具体的な経験の積み重ねでつくられていくものだと思います。
考えは言葉にすることではっきりし、強化されます。本を読んでハッとした文章を抜き書きしておく、座右の銘を考えてみるといった「言葉集め」からスタートして、自分なりの「リーダーシップ○カ条」にまとめていくとよいと思います。言葉を収集するだけでなく収れんさせていくことは、自分が重要視するものをはっきりさせる効果もあります。
一例として、『リーダーシップ入門』からリーダーシップ持論を1つ引用します。これは松下幸之助氏の考えを松下電器産業の方がまとめられたものだそうです。
1.志を立てる(仕事の意義と意味を掴む)
2.好きになる(興味が熱意と工夫を生む)
3.自らを知る(自分の力、相手の力、自然の理を知る)
4.衆知を集める(多くの人の知恵を集める)
5.訴える(繰り返し訴える)
6.まかせる(徹底してまかせる)
7.要望追求する(成功するまでやらせる)
8.叱る、ほめる(寛厳自在、信賞必罰)
9.責任を自覚する(原因、責任は常に内にある)
10.部下に学ぶ(指導しつつも教わり学ぶ)
11.愛嬌
(同書190ページの「図表4-13 指導者の心得」より。<補足>は省略)
言葉に込める意味は、人それぞれです。例えば「まかせる」という言葉。「徹底してまかせる」と書いてあったからといって、まさか松下幸之助氏が「仕事は丸投げする」ことを持論としていたとは思わないでしょう。氏なりの意味がそこには込もっており、これを借りるとしたら借りた当人なりの解釈を込めることが必要になります。
言葉を選んだとしても、自分の仕事へのスタンスやこれまでの経験を鑑みてその言葉に意味を乗せていかなければ持論の意味がありません。新人を迎えるに当たり、まずはバージョン0のリストを作ってみてはいかがでしょうか。
| 筆者紹介 |
| 堀内浩ニ●アーキット代表取締役、グロービス経営大学院 客員助教授。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。シリコンバレーに移り、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。帰国後、ベンチャー企業の技術および事業開発責任者を経て独立。現在は企業向けにビジネスリテラシー研修を提供するほか、社会人個人の意志決定支援にも注力している。 |
自分戦略を考えるヒント バックナンバー
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