
堀内浩二
2007/5/29
こんにちは、堀内浩二です。何かを判断し選択するときに使う「意思決定」という言葉がありますね。これは「意志決定」と書くこともでき、わたしは当研究所のテーマのような個人の生活上の事柄に関しては、好んで「意志」の字を当てています。
先日「なぜ『意志決定』の方を使うのですか」という質問を頂戴しました。意思は「思い」ですが意志は「こころざし」であり、こうしたいという主観的な要素を多く含んでいるように思えるからです。
では、なぜ個人の決断は主観的に行われるべきと考えているのか、今回はそのあたりについて書いてみたいと思います。
■仕事上の意思決定には客観性が求められる
通常、仕事における意思決定というものは、以下のような論理的なステップを踏んで行われます。
- 目標設定(何を決めるかを決める)
- 情報収集
- 分析
- 選択肢の比較(シミュレーションを行い、結果を予測する)
- 判断
なぜエイヤで決めてはいけないのか、あらためて確認しておきましょう。
個人事業など、結果に対する責任を負うのが1人であれば、エイヤで決めてしまっても構わないわけです。しかし組織で動く場合には、仕事を執行する人間も複数いますし、執行する人間と責任を負う人間が別だったりします。ですから、期待する成果は何か、そのためにどれだけの経営資源を割くか、どのようなリスクがあるか、誰が何について責任を負うかなどを明らかにし、合意を取り付けておく必要があります。
その合意の根拠となるのが、論理的な意思決定のプロセス。情報収集は十分か、分析は客観的か、選択肢の洗い出しと比較は妥当か。こういったプロセスが透明であり、かつ筋が通っていることが、合意形成の条件になります。
■決断がよい情報収集を促す側面もある
根拠をそろえて、決断する。上記は極めて妥当な順序に思えます。しかし、この論理的なアプローチには落とし穴もあります。
Aという車(自動車)を買おうと思った途端に、Aという車をよく見掛けるようになった。
誰しもそんな経験があると思います。例えば、わたしは最初の子どもが生まれた途端に、赤ちゃん連れの人が使っているだっこひもやベビーカーのたぐいが目に飛び込んでくるようになりました。
そういう運搬道具(?)を買わなければならないことは生まれる前から分かっていたはずですが、いよいよ現実に買わなければならない段になって初めて脳のどこかのスイッチが入ったようです。ただ「見る」だけでなく、文字どおり「目に飛び込んでくる」ようになったのです。
これは、重要な情報をフィルターして意識させる脳の機能のなせるわざで、脳幹網様体賦活系という組織がその役割を担っているそうです。
重要な情報は「目に飛び込んでくる」くらいよく見える一方、重要でない情報は「見れども見えず」状態になってしまう。ということは、よい情報収集のためには、その対象を「重要」と思う必要があります。では、脳は何をもって「重要」とするのか。それは、「やると覚悟する」こと。「やろうかな」では十分ではありません。このあたりは、目標設定とその効果についての書籍でもよく書かれていますし、多くの皆さんが経験されていることでもあるでしょう。
論理的には、情報収集を経て決断すべきです。とはいえ、人間には先に決断してしまうことで、情報収集の質・量が深まるという特性もある。これが、個人の決断については「意志決定」という字を当てている理由です。仕事でも同じメカニズムは働くのですが、情報収集に時間を割くためにも合意が必要であり、担当者が思い込み先行で行動するのは難しい。しかし、それを乗り越えて大ヒットを生み出した事例がしばしば紹介されます。
■大きな決断へのアプローチ
決断と情報収集がニワトリとタマゴのような関係にあることは、われわれのキャリア選択においても多くを意味します。例えば起業・転職・移住といった大きな決断を、ただ並べて比較検討することはできない(できるが浅いレベルでしかできない)としたら、できるだけよい選択をするために何ができるでしょうか。
並列でなく直列に試してみることが、1つの解になるのではないでしょうか。優先順位を決め、順に試してみるということです。起業について熱狂的に研究する時期、転職を前提として人材紹介会社のキャリアコンサルタントに会ったり経歴書をまとめたりしてみる時期などを、意識的に作りだしてみることはできます。もちろん実際に起業なり転職なりをして得られる経験には及びませんが、できるだけ本気モードで臨めば、脳幹網様体賦活系も反応してくれるでしょう。
われわれはよく年ごとに目標を立てます。複数年にわたって考えてみて、今年はこれ、来年はあれに挑戦しようと考えるのも面白そうですね。
| 筆者紹介 |
| 堀内浩ニ●アーキット代表取締役、グロービス経営大学院 客員助教授。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。シリコンバレーに移り、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。帰国後、ベンチャー企業の技術および事業開発責任者を経て独立。現在は企業向けにビジネスリテラシー研修を提供するほか、社会人個人の意志決定支援にも注力している。 |
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