堀内浩二
2007/11/28
こんにちは、堀内浩二です。先日のランチで「いまの環境は気に入っているが、ぬるま湯になっているのではないか」と思っている人と話をしました。確かに、仕事は順調なのに、なぜか自分が成長している感じがしない。むしろ、不満だらけだったあのときの方が「伸びている感」があったなあ。そう思うことはありますね。そこで今回は、そういった自己成長を阻害する「ワナ」について考えてみます。
■いい調子=成長ではない
やりたいことを楽しくやっていて、成果も出ていて、安定していて、報酬もいい。そんな仕事をしていても、いや、しているが故に、陥りがちなワナ。考えてみればいろいろあります。例えば……。
・忙しくて充実しているというワナ
「忙しく充実している」状態には、長期的なことを考えなくなってしまうワナがあります。忙しさは、それだけで充実感をもたらしてくれることがあります。本来なら「この仕事の先」、もしかしたら「この会社の先」を考えることに一定の時間を割いてしかるべきなのに、目の前の仕事が忙しいが故に考えられない。
考えたいけど考えられないというのはまだいい方です。考えるのが面倒(あるいは恐ろしい)ので、無意識のうちに忙しさに逃避してしまうというパターンもあります。「怠惰な多忙」「仕事への逃避」といわれる状態です。『リーダーシップの旅 見えないものを見る』という本(野田智義、金井壽宏著、光文社刊)では、そのような状態を「アクティブ・ノンアクション」として紹介しいました(以下は同書より引用)。
毎日を多忙に過ごしているにもかかわらず、本当に必要で意義があり、真の充足感をもたらしてくれる何かについては、まったく達成できていない状態。行動しているように見えて(アクティブ)、実はなんの行動もしていない(ノンアクション)という危険な落とし穴です。
・上司に頼られているというワナ
「上司に頼られている」状態には、挑戦の機会が少なくなってしまうワナがあります。(自己中心的な)上司からすれば、部下の成長が常に好ましいとは限りません。先を見ずに現在の仕事を黙々とこなしてくれるだけでいいと思っているかもしれません。そのような上司は、あなたに新しいチャレンジを提供しようとはしないでしょう。しかし現在の仕事には、高い評価を与えてくれます。あなたからすると、少々ぬるま湯かなと思いつつ、上司が認めてくれる居心地の良い状況からあえて抜け出す理由も見当たりません。
・上司がよく話を聞いてくれるというワナ
「上司がよく話を聞いてくれる」状態には、「甘やかされた子ども」になってしまうワナがあります。「どう、最近は」「何か困っていることないか」と問いかけ、相談に乗ってくれる上司はありがたい存在です。しかしともすると、その問いかけを待つようになってしまいます。上司に心理的に依存すると、最終的には自分のキャリアの判断まで上司に委ねてしまいたくなってしまいます。
・正社員であるというワナ
「正社員である」状態には、挑戦の意欲をそぐワナがあります。親が自営業で生活が安定しなかった友人は、会社に勤めて初めて給料が振り込まれたときに感動したそうです。クビにさえならなければ毎月こうやって給料が振り込まれる。なんと恵まれた生活だろうか、ということです。
会社は自分の働きに見合った報酬を払っていないと思うこともあるかもしれませんが、逆に成果が出ないときでも給料を支払ってくれます。この安定感を捨ててまで何かに挑戦しようとはなかなか思えませんし、挑戦したところでリスクに見合うリターンがあるようにも思えません。
・大きな会社にいるというワナ
「大きな会社にいる」状態には、自分ブランドを育てる意識が薄れるワナがあります。顧客は、あなたに仕事をお願いしますが、あなた個人に仕事をお願いしているわけではありません。「もしダメでも、大きな会社だから代わりがいるだろう」と思っているかもしれません。大企業を離れて初めて、会社の看板で仕事ができていたことに気が付いたという話はよく聞きますよね。
・プランに沿ってキャリアを伸ばしているというワナ
「プランに沿ってキャリアを伸ばしている」状態には、偶然を生かせないワナがあります。思ったとおりにキャリアを伸ばせている人は、わざわざ偶然を拾う努力をする必要がありません。
思いどおりになっていない人は、どんな小さなきっかけでも拾ってやろうと待ち構えます。布石を打ち、偶然やってくるかもしれないチャンスに備えます。偶然を生かすというのは1つのスキルですので、それはやがて自信につながります(参考記事「偶然を起こし、偶然を生かす方法」)。
・夢をかなえているというワナ
「夢をかなえている」状態には、さらなる目標を見いだせないというワナがあります。例えば独立して働きたいと願い、その夢をかなえた人。会社を上場させることを目標とし、見事成功させた人。そういう人たちがその後フッと停滞してしまい、しゃにむに頑張っていた時代を懐かしんでいたりします。
・自己成長ばかり考えているというワナ
「自己成長ばかり考えている」状態には、最高の自己成長の機会を逃すワナがあります。例えば、現場に張り付けられて勉強の時間が取れないという理由でそこから逃げてしまうと、仕事をやり遂げる経験と自信を身に付ける機会を逸するかもしれません。また、自己成長ばかり考えて他人を助けることをしなければ、他人が助けてくれることもないでしょう。
■成長への意欲をかきたてるものは何か
上に書いてきたことは、「そういうリスク(ワナ)もある」ということです、念のため。仕事はヒマな方がいいとか、上司はオニな方がいいとか、そういうわけではありません。
ただし、こうやって考えてくると、恵まれているが故に手に入らないものもあることが見えてきます。恵まれないが故に成長の機会がもらえることも見えてきます。
@ITジョブエージェントのサービスの1つである「転職アドバイスメール」には、大変な状況にある人からのご相談も寄せられます。どなたも、上司に掛け合った、ものすごい勢いで資格を取った、などなど、その状況を打開すべく試行錯誤を重ねておられます。ご本人としてはもちろんやりたくてやっているわけではないのですが、「この方はいま急成長しておられるのだな」と感じずにはいられません。現状に特に不満のない方は、「本当はもっと○○できるはず!」と考えてみると、ワナが見つかるかもしれません。
筆者紹介 |
堀内浩ニ●アーキット代表取締役、グロービス経営大学院 客員准教授。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。シリコンバレーに移り、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。帰国後、ベンチャー企業の技術および事業開発責任者を経て独立。現在は企業向けにビジネスリテラシー研修を提供するほか、社会人個人の意志決定支援にも注力している。 |
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