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コラム:自分戦略を考えるヒント(51:最終回)
新人を迎える準備をする――魚を与えず釣り方を教える

堀内浩二
2008/3/28

 こんにちは。堀内浩二です。

「堀内さんには想像もつかないと思いますよ」
と、某企業の人事部で新卒の採用を担当しているAさん。

「何がですか?」
「いまの新卒にはわれわれの常識が通用しないってことが。何しろ……」

 この後いろいろな「新人はわれわれと違う」話が続きます。確かにわたしは新社会人との接点はないのですが、Aさんと同じ立場の方から同じ話をいろいろと伺っています。

 そこで今回は「新人を迎える準備」について考えてみたいと思います。とはいえ、今年の新人諸君のタイプがどうこうという話ではありません。あくまでも上司としての「自分戦略を考えるヒント」という文脈で。

「新人」というロードテスト

 新卒の後輩を迎えることを「ロードテスト(Load Test)」といっていた友人がいます。最初のうちは純粋な育成モードなので、自分の仕事にとっては負荷以外の何物でもない、だからロードテストのようなものだ、というわけです。ひどいいい方ですよね。自分がそのようにして育てられてきたことをすっかり忘れています。

 とはいえ短期的に見れば、いま抱えている仕事に新人の面倒を見るという仕事が加わるわけです。アウトプットが期待できるのはしばらく先の話。となると、ロードテストという例えも、あながち間違いとはいえません。

 ロードテストという比喩(ひゆ)はまた、別のポイントに気付かせてくれます。それは「負荷に備えて現在の自分の仕事の最適化を図る」必要があるという点。新卒が配属になったから負荷を減らしてやろうという会社も、あるかもしれませんが、まあ多くはないでしょう。

 となると、よりたくさん働くか、より賢く働くかによって、生産性を高めておかなければ、育成はおぼつかないということになります。今回はもちろん後者を選び、新人を迎える準備として何ができるかを考えてみましょう。

「魚を与えず、釣り方を教える」

 例えば、

「最近の新人は、手取り足取り指示しないと次の作業ができない」
「(新人教育のための)研修で教わったとおりに『分からないことはいつでも聞きにおいで』といったら質問攻めにあった」

 どちらも、よくある問題です。ただ、これは上司である皆さんにとっての「問題」であって、当の新人は問題だとは思っていないのではないでしょうか。実は誰しも、迷いながら、学びながら、試しながら、仕事を進めているのだということを実感するまでは、やることはすべて指示されて当たり前と思っていてもおかしくありません。

 「質問」を例に挙げましたが、わたしが社会人になって最初に教わったのは、奇しくも「質問の仕方」でした。簡単なフォーマットの質問シートがあり、1日のうちで質問タイムが決められています。例えばAについて分からないことがあってもすぐに聞くわけにはいきません。となると、そこはメモしておいてBの仕事を、Bで詰まったらCを……というように、質問をためておく一方で、できることをいろいろやってみることになります。

 質問をためておくことで、上司に聞くまでもなく解決できる質問が意外に多いことを発見しました。少し先に進んでから振り返ることで、全体像が見えることもありますし、時間をかけることで意識下で思考が進んだのかもしれません。単に冷静になって考え直すだけで、問題が問題でなくなることもあります。同じ分からない者同士ではありますが、同僚との議論によって解決できたこともあります。

 とても簡単なルールながら、新人のわたしにとっては以下のようなことが学べる賢い仕組みでした。

・与えられた時間を大事にする
・個別に分からないところがあっても、全体を見渡して仕事を先に進める
・質問は事前に整理し、自分なりの答えを用意しておく

 そしてもちろん、上司にとっては質問攻めに遭うことを避けられ、仕事の効率を高めることができます。質問タイムも、最初はこまめに・短めに設けることが必要でしょう。徐々に頻度や1回当たりの時間を調整することで、新人が「迷子」にも「おんぶにだっこ」にもならずに成長していける状態を維持できます。

 いいたいことは、上記の方法を導入しましょうということではありません。わたしの上司(というか組織)は「新人からの質問が多い」という問題に対して、「とにかく付き合ってやろう」あるいは「質問を抑えつけよう」と発想しなかった点に注目してください。そうではなく、質問が多くなる構造を考え、仕組みで解消しようと発想していたのです。

・1つ疑問が生じると、全体がストップしてしまう→複数の仕事を与える
・自分で考えず、上司に頼ってしまう→質問タイムを設ける

といった具合です。教育の心得として「魚を与えず、釣り方を教える」という格言がありますが、上記のやり方は「答えを与えず、自分で考える仕組みを与える」といえますね。

「魚」とその「釣り方」を考える

 新人を迎えた皆さんが実際に直面する問題は、1人ひとり違います。ですから基本的にはその場その場で考えていく必要があります。

 いままで見てきた例でいえば、魚は「自分の問題に対する答え」ということになります。その釣り方を教えるとは、「自分で答えを出そうと努める」方法を教えることです。具体的にどんな方法で釣り方を教えればよいかは、個々の新人が答えを求める理由によって違ってくると思います。

 単に「質問する前に一拍おいて自分で考える習慣がない」ならば、上で紹介したような「質問シートと質問タイム」が有効でしょう。あるいは、皆さんが、「彼(女)は学習意欲が高く質問してくるのはよいが、他者が自分のために時間を割いてくれていることへの配慮が欠けているようだ」と感じたとしましょう。どのような仕事を用意してあげたらよいでしょうか?

 質問に答えるということの負荷に気付いてもらえばいいわけですから、例えば新人同士でチームを組んで問題解決に当たってもらったりするなどして、お互いに教え合う環境を用意する方法が考えられます。

 なんだか面倒だと感じられるかもしれませんが、上司の仕事とは実に「人やチームを観察して、その人(たち)が高いパフォーマンスを発揮できる仕組みを用意する」ことばかりだと思います。とりわけ社会に出て初めて働く新人は自分なりの仕事のパターンを持っていないわけですから、成果だけを管理するのではなく、その仕事のプロセスを支援してあげてこそ大きな成長が期待できるのではないでしょうか。

筆者紹介
株式会社アーキット 堀内浩ニ●アーキット代表取締役。早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。転職や起業など自分自身のチャレンジを題材にして、「速く」「後悔しない」意志決定を学ぶプログラム「起-動線」を運営。

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