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不定期コラム:Engineerを考える(9)
「会社は誰のものか」で揺れる心理

加山恵美
2005/6/2

会社は誰のものか

 少し前までM&A関連のニュースの背景として、「会社は誰のものか」という問答を方々で目にした。だがこの質問はどこか漠然としていて、答えを出すことは不毛とさえ思う。一方、この質問に対する意見には個々人の会社に対する世界観がにじみ出ていて興味深い。

 とはいえ、正答は決まっている。経済理論的に考えれば答えは「株主」となる。ニッポン放送をめぐる一連の攻防を見守りながら、日本が資本主義であることを再認識する人も多くいた。これはこれでよい契機になったと思う。

 だが問いが単純な表現のせいか、何か含みを感じてしまう。会社に対する多様な思いが生じてしまうようだ。少なくとも上記の答えでは「どこか釈然としない」と感じる人もいる。

違和感は何か

 それでは何に違和感があるのだろうか。ギャップは例えば「実権の在りか」だろうか。掲題の質問は「会社は誰が掌握しているのか」と解釈できるかもしれない。つまり「誰の命令が絶対か」、より端的にいうと「誰が一番偉いのか」だ。だから社内の指揮系統で上位にいる人物を思い浮かべてしまうのかもしれない。そう考える人にとって、最高の権威と信じていた存在よりもほかに高い地位があること、それが社外のまったく無縁と思える存在がなり得ることに衝撃と困惑を覚えるのだろうか。

 いや、どうだろう。会社は誰のものかという問答を方々で見掛けた当時、どことなく漂っていた無常感に思いをはせると「貢献」も鍵であるような気もする。掲題の質問を大胆に意訳するなら「会社は誰がつくっているのか」だろうか。そこから考えると「会社はそれを築いた人のものだ。だから功労者である従業員それぞれのものだ」と思えるのかもしれない。こうした気持ちを「正答ではない」と否定するのは酷なようにも感じる。

 今回のテーマにまつわる釈然としない気持ちは、従業員としての日々の貢献を否定または軽視されたように感じたからではないだろうか。「会社に奉仕する自分にそれなりの自負を感じていたが、実は株主という大きな手のひらの上で動いていたにすぎなかった。自分はちっぽけな存在だったのか」と無力感を覚えてしまったのかもしれない。

 そうした「やるせなさ」につい呼応したくなる世相もあると思う。社員が一体となり、一喜一憂しながら苦難を乗り越えていく――。そんな光景に郷愁を感じる人からは、現代の会社はあまりに殺伐として見えるのだろう。業務のアウトソースや派遣社員は当たり前、カネにものをいわせて経営層を一掃することすらできてしまうなんて信じがたい暴挙なのだろう。

それでは、会社とは何か

 すると「会社とは何か」にもあらためて思い悩むことになる。有名な技術者はあるテレビ番組で「モノですよ」と話していた。とてもさばさばしていて、こうした悩みとは無縁な人物だ。だが、これはこれで解釈に困る。この「モノ」とは製品やサービスなのか、はたまた概念なのか、悩ましい。恐らく趣旨は「そんなに崇高な存在ではないから、大げさに考えることはない」なのだろう。だからもし「モノですよ」をいい換えるなら、苦しいかもしれないが、「ブランドですよ」があたらずとも遠からずではないかと推測している。

 1つだけ指摘するなら、モノというと権利のない存在のようにも聞こえる。だが会社は法人であり、自然人と同様に権利能力がある。

 さて、先述したように「会社は株主のもの」と気付いて無力感を覚える人もいれば、また一方で会社をモノと割り切る人もいる。学術的な解釈はどうあれ、会社に対する気持ちは人それぞれでいいと思う。だが、少なくとも自分の立場を卑下することは有益ではない。

 会社をカネの動きでドライに割り切ることに抵抗感があるとしたら、それは会社から人間味を切り離して見ることへの違和感だろうか。困難な業務を同僚と乗り越えた体験とか、そこで得た結束とか信頼とか、または一回り成長した自分とか、そんな人間ドラマを無視してほしくないという気持ちがあるのだろう。

 従業員はこうした気持ちに素直でいてもいいと思う。これは経済の仕組みとは別次元だからだ。だが会社の経済的な仕組みは概略的に理解しておくべきだろう。そして自分はどのような立場で関与しているのかも冷静に把握しておくべきだ。無力感を抱えても何もいいことはない。悲観はやる気を減退させてしまう。仕組みを客観的に理解し、自分なりの役割を見いだせれば不安は減るはずだ。

筆者紹介
加山恵美(かやまえみ) ●茨城大学理学部化学科卒業。金融機関システム子会社とIT系ベンダにてシステムエンジニアを経験し、グループウェア構築や保守などに携わる。そのかたわらで解説書を執筆していたが、それが本業と化す。技術資料を提供することで、日夜システムと格闘しているエンジニアをサポートできればと願う。幼少からバレエを始め、現在コンテンポラリーダンスを習っているが、いまだに身体が硬いのが悩みとか。双子座A型。

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