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不定期コラム:Engineerを考える(10)
サンのJava新資格、SJC-Aの狙いは?

加山恵美
2005/8/5

Java登場から今年で10年目を迎える。その間にJavaは多岐にわたり発展した。そうした中、従来とは少し違う認定資格試験が今年8月下旬以降に始まる。β試験の応募もすぐに満杯になったという注目の新資格試験の概要と、その制作背景を探る。

Javaといえばケータイか?

 確か数年前、外出してお茶でもしていたときだったと思う。周囲から学生の話し声が聞こえてきた。ちょうどIT系企業への就職活動について話をしていたので、職業柄か、つい聞き耳を立ててしまった。そのうちJavaに話が及んだら、仲間の1人が軽くこういった。

 「ああそれ、ケータイ(携帯電話)でしょ」

 うっ。とっさに頭を抱えたくなった。違う……。いや、そうともいえない。だがどこか釈然としない。確かに当時は携帯電話で動くアプリケーションが普及し始めたころだった。携帯のチラシによくJavaという文字が躍っていたので、それを見て記憶にとどめたのだろう。そこでしばし「いまJavaといえば携帯電話なのか」とあらためて思い悩んでしまった。

 そんな記憶をサン・マイクロシステムズを訪問したときにふと思い出した。新しいJava認定資格が出る背景について尋ねると、サン・マイクロシステムズ サービス統括本部の井口利律子氏がこの言葉から切り出した。

 「今年はJavaが誕生してちょうど10年です」

 それで「ああ、そうか」と気付いた。だから携帯電話をきっかけにJavaに出合う人間と、Javaで携帯を連想することに驚く人間に分かれるということか。それだけJavaが多様に発展したことの表れなのかもしれない。

敷居を下げた資格ではない

 試験に話を移そう。今年の夏から新しい資格試験「サン認定Javaアソシエイツ(Sun Certified Associate for the Java 2 Platform」(以下、SJC-A)が始まる。SunのWebサイトにあるJava認定資格の全体図を見ると、Sun認定Javaプログラマ(SJC-P)の下に位置する。それで最初は「SJC-AとはSJC-Pから難易度を落とした試験なのだろうか」という疑問がふとわいた。

 情報処理技術者試験に当てはめると、ソフトウェア開発技術者試験と基本情報技術者試験、マイクロソフトの試験であればMCPとMCA、ORACLE MASTERならSilverとBronzeのような関係だろうかと想像してしまう。しかし、SJC-Aは単に難易度を変えたものではないらしい。先の井口氏はこう話を続けた。

「10年過ぎて、Javaはあらゆるところで使われるようになりました。そのためIT企業ではプログラマではなくてもJavaで何ができるか、どのような技術があるかなど、概要を知らなくてはならないのが現状です。一方、従来の認定資格は開発者向けが主で一般的な知識を問うものがありませんでした。そこで新しく作りたいということになりました」

 例えるなら、これまでの認定試験はJavaという森の中でどれだけ優れた技術を持つかが指標とされてきた。それに対してSJC-Aは森を高いところから見渡し、森の全体像だけではなくその周辺の地理にも通じるような広範な理解が指標とされる。そのため、試験の趣旨や対象者もやや違う。

SJC-Pの試験をおさらいしておこう

 SJC-Aについて詳しく見る前に、SJC-Pがどのような試験であるのかをいま一度確認しておこう。

 SJC-Pは、「他言語での経験はあるが、オブジェクト指向プログラミング言語の経験がなく、アプリケーションをJavaに移植ないし、Javaを守備範囲に加えたいと思っているプログラマの方向けにプログラミングコンセプト、開発知識とともにJavaの文法、基本的なライブラリを使用したプログラミングの作成能力についてなど、包括的な知識についてテストします」とサンのWebページで説明されている。

 試験問題は61問で多岐選択式/記述式で、時間は120分、合格ラインは52%(61問中32問正解)。主な出題範囲は、(1)クラス定義とアクセス制御、(2)制御文、アサーションと例外処理、ガーベッジコレクション、Java言語の基礎、演算子とデータのメモリ割り当て、オーバーロード、オーバーライド、実行時のデータ型、スレッド、java.langパッケージのJava言語の基礎、コレクション・フレームワークとなっている。

受験対象者はプログラマに限らない

 SJC-AとSJC-Pは試験として独立している。SJC-WCやSJC-BCのような上位試験はSJC-Pの取得が必須となるが、SJC-PはSJC-Aを取得してなくても受験できる。スタート地点をSJC-Aにするのも、SJC-Pにするのもどちらも好きに選ぶことができる。またSJC-Aの受験料は未定だが、ほかの試験科目より安くなる見込みだという。

 SJC-Aが従来のJava関連の認定資格と異なる点は、主たる対象をプログラマに限らないということだ。例えば客先で将来の戦略などを提案するコンサルタントや営業なら、数ある技術の違いや性質を理解したうえでないと説得力がない。またJavaを使う開発部署の上司や、委託先から提出された成果物を評価したり先方と調整を図る立場なら、秀でたコーディング技術は必要ないが、せめてJava技術の性質を知らないと意思疎通に困るだろう。さらにいえば、成果主義の企業において技術職の部下を評価する側が技術に疎いとなると、査定内容の信頼性が疑われかねないし、評価される側との不和も生じかねない。

 だからといってすべての管理職が取得するべきとまではいいにくいが、Javaプログラマの周辺にはJava技術の概要をそこそこ知っていると望ましい立場がある。SJC-Aとはそうした人物らが持つべき知識を問い、それにお墨付きを与えるものと考えるといいようだ。

 もちろん、これからプログラマを目指す人が挑戦してもいい。最初にJava技術の概要を把握し、そこから深く極めていくのもいいだろう。ちょうどこのSJC-Aは一般的な技術職の新入社員が新人研修で習得する範囲のJava知識が問われるレベルになる。新人研修後にどれだけ一般的な知識を習得したかを図る目安ともなりそうだ。またJavaの基礎研修後に「SJC-Pを取るほどではないが」という進路を持つ人にも適しているかもしれない。つまり営業に近いことをしたり、Javaではないがそれに近い技術を専門にする技術者などだ。

 新人なら最初に基礎とほかとの接点を概略的に把握しておけば、将来の方向性を見極めるときや将来ほかの技術に手を伸ばすときにも役立つかもしれない。そう考えると、もしかしたらエンジニア志望の学生が就職活動前に取得することもあり得そうだ。

日本発のワールドワイド試験

 もう1つ、SJC-Aには従来と違う特徴がある。SJC-Aは日本の企画が発端で、日本で制作が進められた点だ。サンは外資系企業ということもあり、これまでの認定試験は米国の本社が主導して企画・制作し、日本でローカライゼーションを行うのがほとんどだった。だが今回は違った。「いい出しっぺ」になったというカスタマーサービス統括本部の高橋弘行氏はこう述べる。

 「今回は日本のエデュケーションチームが企画して、私が米国の本社でプレゼンしました。当初は日本でパイロット的に開始して後に世界展開を考えていましたが、思いのほか米国側にも好印象で、最初からワールドワイドな試験にすることになりました。日本における認定試験の関心の高さも良い影響を与えたのかもしれません」

 日本発の全世界向け試験である。しかも試験開始は日本先行ではなく全世界同時だ。日本から提案したこともあり、試験制作の場は東京の用賀にあるオフィスが使われた。米国スタッフと日本スタッフがカンヅメとなり共同制作したという。ちなみに会話は英語が主だったそうだ。

 サンの日本メンバーにとって、今回のSJC-Aは開発に深くかかわったという自負がある。先に述べたように構想は高橋弘行氏、プロジェクト全体のコーディネートは井口氏、技術的な具体化や出題範囲を確定するのは同部署の橋ひさに氏が中心となり準備を進めてきた。最初に徹底的に要件定義を固めるなど、まさにシステム開発のような流れだったそうだ。

 試験の配分を決めるに当たり、一般ユーザーを対象に重要度や難易度などをアンケート調査した。さらに6月にはβ試験を実施して合格レベルを見極めるなど、より完成度を高めた。β試験はかなりの人気で、日米共にあっというまに応募枠が埋まってしまったそうだ。まだ試験は開始されていないが、関心はかなり高いことがうかがえる。

 日本が制作に深くかかわったことで、将来の受験者にとって喜ばしいことがある。設問にある日本語が難解ではなさそうだということだ。各種ベンダ試験を受験したことのある人なら想像がつくだろう。翻訳された試験問題だといかにも翻訳文らしいぎこちなさがあり、元の英文が想像できてしまうことさえある。設問が難解だと意図がうまく把握できず、回答に窮することもある。橋ひさに氏は苦笑いしながらこう答える。

 「試験問題の制作は特殊なメソドロジーに沿って遂行されます。一般的には最初は英文で、後に翻訳し、日本側でレビューします。直訳だと不自然なので表現を変えた方がいい場合もあるのですが、試験問題は原文に忠実に訳さなくてはならないという指針があるのです。しかし今回は制作段階から日本人が交じっています。まずは英文で問題を作成するのは従来と同じですが、その段階で日本語化した場合のことを配慮して問題文を作成しています。そのため、SJC-Aでは日本人に優しい文章になるのではないかと思います」

Java10年の実績が生んだ試験

 最後に高橋弘行氏は再びJava10周年を振り返りながらこう語る。

「思えばJavaが米国で発表されたのは1995年5月で、日本は同年7月。本格的に話題になったのは翌年以降でしょうか。当時私はインストラクターをしていました。あれから10年。Javaはかなり浸透してきました。空気のように当たり前の存在になりつつあります。またJavaは言語という側面はあるけれど、言語とはいいがたいところもあります」

 高橋氏が語るようにJavaは多岐にわたって発展し、多様な側面を持つようになった。そのため立場により、まったく異なるJava像が浮かび上がる。ある意味、とらえどころのない存在にもなりつつある。ここに複雑な心境が見え隠れする。空気のように透明で気付かれない存在となってしまうのは惜しいというような気持ちがありながら、だからといって、サンの立場で大々的にJavaを主張するのは微妙で難しいようだ。

 だが、Javaがどんなに水蒸気のように拡散してもその行方を把握することや、把握できる存在は重要ではないだろうか。さらに高橋氏は続ける。

 「だからこそ従来のSJC-Pなどの試験では言語として問い、新しいSJC-Aでは広く浸透した技術の全体像を問うようにしているのです」

 繰り返しになるが、ここが従来の試験との決定的な違いである。従来の認定試験ではプログラマや開発者としての技能を問う試験だった。それに対してSJC-Aでは現状の発展したJavaについて、把握してもらいたい範囲を凝縮して問うように作られている。橋ひさに氏はSJC-Aを一言でいうなら「Javaのコモンセンス(常識)を問う試験」だという。

 考えると、SJC-AとはJavaの10年間に及ぶ実績が生んだ資格試験のようにも感じる。折しも6月末には米国で恒例の「JavaOne」が開催された。会場で配られたTシャツには、ろうそく10本立てられたケーキと風船を手にしたJavaのマスコットのデューク君が描かれていた。10周年を祝えてさぞかしデューク君もJavaを支えた多くの人も感慨ひとしおだろう。

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筆者紹介
加山恵美(かやまえみ) ●茨城大学理学部化学科卒業。金融機関システム子会社とIT系ベンダにてシステムエンジニアを経験し、グループウェア構築や保守などに携わる。そのかたわらで解説書を執筆していたが、それが本業と化す。技術資料を提供することで、日夜システムと格闘しているエンジニアをサポートできればと願う。幼少からバレエを始め、現在コンテンポラリーダンスを習っているが、いまだに身体が硬いのが悩みとか。双子座A型。

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