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不定期コラム:Engineerを考える(13)

暴走人間からわが身を守ろう

加山恵美
2006/6/7

 人間関係が平穏であれば特に考えることもないのだが、奇異な人物に遭遇するとあらためて人間性について考えてしまう。「普通」の人に備わっている人間性、適切な態度や行動に気付かされる。さて、周囲を悩ます人間にはどう接したらいいのだろうか。

暴走人間がいると職場は悲惨

 少し前になるが、@IT自分戦略研究所に掲載されたTech総研による「第25回 やっぱり無視が一番? 自己中上司の暴走白書」はいろいろと考えさせられる。冒頭のアンケートでは「仕事中に被害に遭った自己中人間は誰?」という質問に対し、半分以上が「上司」と答えている。これは悲惨だと思った。

 自己中心的な人物がいても、たまたま電車で同乗した程度の人物なら目をそらして身を潜めれば何とかなる。だが上司ならかかわらざるを得ないだろうし、そんな人物に仕事を指揮されたら振り回されるのは目に見えている。たまったものではない。

 該当記事のコラムによれば、自己中心的で周囲を悩ませるタイプは専門的には自己愛性人格障害と分類されるそうだ。人格障害にもいろいろあるが、自分への過剰なこだわりが問題につながるタイプとも考えられようか。

 広く考えればこの「自分」には、自分の信条も含まれると思う。宗教や政治とは限らず、日々の自分を支えていると思えば該当するだろう。その思いが強すぎると執着となり、自分の存在意義や信条に危害を加えると思われる存在には過敏に反応する。本人に攻撃の意図がなくても激しく拒絶すれば暴走となり、結果的に他者を傷つける。それが記事にある暴走の数々だ。

暴走は自分を守ろうとする弱さ

 弱い人なのだろう。仕事を拒絶したり他者に交代してもらおうと画策するのは、自分にできないことだと心の奥底で分かっているからではないだろうか。利己的というよりは弱さを感じる。

 だからといって不当に他者を批判したり陥れたりすることが許されていいはずがない。だがこうした人は善悪の区別がないというよりは、自分の身を守ることが最優先だ。そして自分の取った行動が他者にどう影響を与えるかはあまり考えていない。

 自分を守ることを優先するあまり、他者への配慮は切り捨てて生きている。いや、自分以外の存在について考える能力がないともいえる。自分以外の人間には考えが及ばないのだ。だから他者が不利益を被っても無頓着でいられる。

 この弱さは自分の責任に直面する強さがないともいえる。「自分が悪い」と考えることは自分にとって不利であり、つらいからだ。そうしたことに耐えられないから「オマエが悪い」と転換して楽になる。これも自己防御なのかもしれない。どんなにむちゃな理屈でもその人の中では正しいことになってしまう。

正直な人間ほど傷つく

 そうした人間には逆に周囲も無頓着でいればいいのかもしれない。不誠実な態度は味方を失う。自業自得だ。

 ところが弱い人間は意外と世渡りが上手だったりする。それもそのはず。その人格、他者を踏み台にする性格でずっと生きているのだ。またむちゃな理論を正当化してしまうほど思い込みが強い。だから処世術にたけていたり、妙な神通力を持っていたりする。

 そうなるとまずいのはその人の部下だ。ITエンジニアには合理性を重んじ、誠実な人が比較的多い。不合理な理屈で指示されれば不快だし困惑する。また不誠実な態度を「許し難い」と思う気持ちは人一倍強いだろう。正直であればなおさらだ。

 だがその思いは打ち砕かれる可能性が高い。相手は自分が最優先であり、それを守るためなら手段は選ばないからだ。合理的な範囲からしか手段を選ばない正常な人間がかなう相手ではない。公正さなんてない。

 危険なのはその次だ。もし自己中心的な人間から「敵」と思われたら厄介なことになる。執着の強い人間に矛先を向けられたら、いじめは陰湿になる。だからうまく自分の身を守るようにしてほしい。職場で生き延びるために。ITエンジニアとして続けていくために。

反撃は賢明ではない

 暴走の被害に遭わないようにするにはどうしたらいいか。可能な限りかかわらないのが一番だが、上司では逃げようがないときもある。だからせめて矛先が自分の方に向かないように、暴走のスイッチが入らないように考えるのもいいだろう。被害を受けなければ相手は加害者にならなくて済み、相手のためにもなる。

 先の記事にもあるが、反撃は賢明ではない。好意からであっても忠告や更生を試みるのは危険である。何せ相手は自分の正当性を何よりも信じている。上司であればプライドも高い。理論で間違いを指摘すれば、相手はこちらを敵と見なすだろう。刀を上段に構えて「討ち取ったり!」と猛突進してくる姿が浮かんでくるのかもしれない。相手は瞬時に戦闘モードに切り替える。そこで部下は無残にも返り討ちに遭う可能性が高い。

 よほど理論武装しても、よほど攻撃に耐えられる強さがあっても、そうした人と敵対するのはお勧めしない。傷つけ合うことになるからだ。それではあまりに不条理で気が治まらないと思うかもしれない。だが反撃しない代わりに、うまくかわしてほしい。あまりに自己中心的な人間ならいつか自滅するからだ。自ら手を下す必要はないと考えてはどうだろうか。

ストレスが人間性をゆがめる

 逆の立場で少し考えてみよう。先の記事にあるような暴走は周囲だけではなく、当人も「社会的な信用の喪失」という形で不利益を被っている。それに誰しも多少は自己愛の気質を持っているものだ。だが周囲または本人に害を及ぼすほどコントロール不全となる場合は問題だ。

 常軌を逸するほどであれば、その人はすでに強いストレスにさらされていると考えていい。例えば技術への不適応がその一因にあるのかもしれない。これはつまり一種の適応障害だろう。本人は内心で「もう、ついていけない」と叫んでいるかもしれない。

 日進月歩であるIT技術を駆使する現場を指揮するのは容易なことではない。それがストレスとなり、極端な言動を生むのかもしれない。心の中では「もうできない」と叫んでいるのかもしれない。もし不適応を自覚できるなら転職するなり、別の職種になるなり、それなりに対処できる。だがそれができず、悪循環になると暴走になるのかもしれない。

 周囲としてはたまったものではないが、こうした相手には特効薬や必殺技はないように思う。だがよく人間を観察して護身術を身に付けるといいと思う。また反面教師にしてもいい。

 強いストレスは人間性をゆがめることがある。誰がいつそうなるか分からない。またコントロール不全となると人間は思いも寄らぬ行動を取る。部下を傷つける以上に悲惨な結果を生むかもしれない。できれば早いうちに気付いておきたい。もし早めに気付けば、周囲は何か対処できるかもしれないからだ。

筆者紹介
加山恵美(かやまえみ) ●茨城大学理学部化学科卒業。金融機関システム子会社とIT系ベンダにてシステムエンジニアを経験し、グループウェア構築や保守などに携わる。そのかたわらで解説書を執筆していたが、それが本業と化す。技術資料を提供することで、日夜システムと格闘しているエンジニアをサポートできればと願う。幼少からバレエを始め、現在コンテンポラリーダンスを習っているが、いまだに身体が硬いのが悩みとか。双子座A型。

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