新卒でITエンジニアは選ばない?
加山恵美
2006/7/26
大学卒業後の職業としてITエンジニアを選ぶ学生は、いまどれだけいるだろうか。新卒の進路はその時々の社会情勢に影響されることもあるが……。
■ITエンジニアの人気は落ちている?
「最近新卒などではITエンジニアへの就職は人気が落ちているようです」という話を小耳に挟んだ。働く姿が黙々とパソコンに向かうイメージで、ぱっとした印象ではないからだろうか。続けて聞いたことによると、コンサルタントは人気があるらしい。
あくまで伝聞だが、分からなくもない。ただ一般的には新卒で最初からコンサルタントの職に就く人はそう多くはない。いたとしても現場のITエンジニアと一緒に仕事をしたり、実質的にはITエンジニアの業務を経由することは避けがたいと思う。
学生にとってITエンジニアという職業は、魅力的ではないのだろうか。魅力とか人気は考えてみても感覚的な問題なので何ともいえないが、実のところはどうなのだろうと少し気になってきた。
■全体ではとりあえず増えている
2005年に実施された国勢調査の速報値を見てみた。最終的な統計値ではないが、参考にはなるだろう。それによると産業と職業の両方で「情報処理」と付くものの就業者数は、「増加率が高い」ものとして挙げられている(表1と表2)。
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表1 就業者数の増加率が大きい産業小分類上位20位。国勢調査の速報値より |
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表2 就業者数の増加率が大きい職業小分類上位20位。国勢調査の速報値より |
表1を見て分かるように、産業の小分類で「情報処理・提供サービス業」は増加率の高いリストで11位にランクインしており、2005年には23万人になった。5年前より18.6%増加している。ただしこちらは勤め先となる企業の分類なので、ITエンジニアの数を示しているとはいえない。
ITエンジニアの数を見るなら職業の小分類だろう。システムエンジニアとプログラマの合計となる「情報処理技術者」は、表2を見て分かるように、増加率の高いリストで17位にランクインしている。実数では2005年には85万人、5年前と比べて1割弱増加した。
国勢調査を見る限りでは、情報処理系の就業者数は増えている。だが新卒に人気があるか、増加の勢いとして足りているか、需要を満たしているか、など考えると心もとない。
■非情報処理系企業でITエンジニアを
情報処理技術者の増加分がそのまま新卒の進路数とは断定できない。とはいえ、新卒や若い世代が多く含まれていると考えていいだろう。なぜならITエンジニア職を年配になってから、というケースはあまり聞かないからだ。ITエンジニアとなると吸収すべき知識やスキルも多く、好奇心旺盛な若い年代の方が有利だ。ほかの世代では無理だとはいわないが。
ほかに「情報処理・提供サービス業」に属さず「情報処理技術者」として働くITエンジニアもいるだろう。
筆者の新卒後の就職先は、情報処理に特化した子会社だった。だから産業小分類は情報処理系である。だが実際には親会社に出向していたので、感覚としては情報処理系以外の会社でITエンジニア職をしていたのに近かった。
情報処理専門ではない企業でITエンジニアをしたいというのは漠然としていたが、就職活動時の私のポリシーのようでもあった。まださほど確信はなかったが、情報処理そのものに専念するより、何か本業の業務の目的があって、手段として情報処理に携わりたいと考えた。あくまで好みではあるが。
■新卒は社会情勢の影響を強く受ける
それにしても本当に当時は就職先が選べなかった。就職活動をした期間はほんの数カ月で振り返るとそう長くはなかった。
自分の経験でもあるが、新卒の就職先というのは少なからず社会情勢の影響を受けると思う。社会情勢は刻々と変化しているが、すでに就職した多くの社会人に転職や失職を強いるほどの影響力はない。だが就職活動をしている学生には社会や経済の動きは就職先や内定者の数などの形となって表れ将来を揺さぶる。
筆者がITエンジニアを選んだのは、社会情勢による影響が大きい。もともとITエンジニア職になろうとは考えていなかった。筆者は就職よりも大学院への進学を考えていた。だから正直いうと就職活動にあまり力が入っていなかったのは確かだ。
■研究職よりエンジニア職に興味が移る
だが実際に企業を回っていたら考えが変わってきた。当初は大学で専攻していた化学に関係する企業を訪問していた。先輩たちを見ると就職活動にはあまり苦労していなかった。だが筆者の代になり急変した。当時は就職氷河期元年のようなものだったので、まずは女子学生が影響を強く受けた。露骨な男女差別も目の当たりにした。
例えば女性の筆者がある会社の説明会に申し込むと「まだ実施していません」とやんわり断られたのに、同じ会社から筆者と同じ学科の男性に「会社説明会に来ませんか」と電話で打診があるなどだ。社会とはそういうものかもしれないが。
それなら、もともとの希望である進学の準備に力を入れればいいものを、筆者はあまのじゃくなのかかえって就職活動に力が入った。「内定が決まるまではやめるものか」と。そうして就職情報誌を見ているうちにシステムエンジニアという職業に興味を持ち始めた。
興味を持ち始めたが、同じ学科でシステムエンジニアを選んだ先輩はごくわずか。情報もなく、むしろ化学科卒でシステムエンジニアを選ぶのは邪道のような雰囲気があった。救いは就職活動を始めたばかりのころ、「そもそもシステムエンジニアとは」から説明してくれる会社があったことだ。そこでイメージと興味を膨らませることができた。
まだおぼろげな理解ではあったが、企業内の課題をシステムで解決する専門職。システムエンジニアが面白そうに思えた。自分の適性や能力はさておき「やってみたい」と思ったのだ。
■いまは情報処理より介護の需要が高い
就職難でなければ情報処理という業界も職業も思いつかなかった。また社会の必要性がなければなおさらだ。筆者がシステムエンジニアに導かれたのは社会情勢による影響が強かったと思う。いつの時代でもそういうことはままあるのだろう。先に触れた2005年の国勢調査速報値を見てもそう思う。就業者数の増加のトップには福祉や介護系が上位に並ぶ。
それだけ需要が多いのだろう。情報処理業界など比ではないほどなのだろうか。いまはITエンジニアを卒業してしまったが、まだ情報処理産業の近くに残る者としては少し気になる。いま就職先を模索している世代にとって、ITエンジニアは魅力的だろうか、なりたいと思うだろうか。それとも、なりたくないだろうか。
ITエンジニアは十分面白味を見いだせる職業だと思う。地味かもしれないが、意義も必要性も高い。これからもなお情報化が進むのは確実であり、そのためには多くの人材が必要だ。社会の都合や必要性は抜きにしても、素直に情報処理系にはもっと人が来てほしいと思う。
■ITエンジニア職が魅力的であってほしい
これから就職する世代にとってITエンジニアが魅力的かどうかは定かではない。社会情勢に導かれてITエンジニアになる人にそれが天職になるとも限らない。
だがITエンジニア職に巡り合った人にとって、魅力的な職業であってほしいと願う。一応ITエンジニアを通過した経験者としても、技術で何か実現したり達成するITエンジニア職はやりがいがあるといえる。あとは周囲の理解が広がることも必要だなと思う。
筆者紹介 |
加山恵美(かやまえみ) ●茨城大学理学部化学科卒業。金融機関システム子会社とIT系ベンダにてシステムエンジニアを経験し、グループウェア構築や保守などに携わる。そのかたわらで解説書を執筆していたが、それが本業と化す。技術資料を提供することで、日夜システムと格闘しているエンジニアをサポートできればと願う。幼少からバレエを始め、現在コンテンポラリーダンスを習っているが、いまだに身体が硬いのが悩みとか。双子座A型。 |
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