外資系コンサルタントのつぶやき 第11回
コンサルタントになる前に磨いてほしい能力
三宅信光
2002/5/8
コンサルタントへのジョブチェンジ |
今回は、「エンジニアがコンサルタントとして転職する場合、うまくいくのか?」を話題にしたいと思います。これまでも何回か、私の会社に転職した人たちのことを紹介してきましたが、どちらかというと失敗した人の話題が多かったと思います。事実、私の周りでうまく私の会社に溶け込めた人は数えるほどしかいません。なぜでしょうか? その理由の1つは文化の違い(「第1回 転職して戸惑うことは“企業文化”の違い」)、もう1つの理由は技術スキルよりはコミュニケーションスキルの方が重要であるためだと考えています(「第5回 技術スキルだけでは食えない」)。以下、以前書いたことと重複する点もありますが、紹介していきましょう。
典型例を1つ挙げましょう。それは、私の下にいたAさんのことです(これまでに取り上げた人ではありません)。Aさんは、まずまずの技術スキルを持っていました。突出した才能があったわけではないですが、比較的“穴”が少ない人だと感じていました。前職はオペレータのようなことをしていたとのことでしたが、その割にさまざまな技術のことを、まんべんなく知っていました。Aさんを採用した人は、もう1つ上のクラスで採用しても問題ないと考えていたようです。が、一応様子を見てから昇進させてもいいだろうということで、社員としては下から2番目程度のクラスで採用したのです。
Aさんへの期待が大きかったこともあったのでしょう。最初から比較的まとまった仕事が振られました。とはいえ、それは基本的に運用フェイズでの仕事でしたから、新規の開発案件などと比べればまだまだ楽な方であったはずです。当初、私はAさんの直属の上司ではなかったため、こうしたことはほかのメンバーから聞いていました。
プロジェク失敗か? |
ところが、4カ月ほどしたころに、Aさんのチームがうまくいっていないようだから手伝ってくれといわれ、そのチームの仕事を直接見ることになったのです。
確かに、さまざまな点でうまくいっていませんでした。例えば、マネジメントがうまく機能していなかったため、できる人に仕事が集中し、全体のモチベーションが下がっていました。その中でも最悪な状況だったのが、Aさんの担当していた仕事(プロジェクト)でした。すでに当初の見積もりの2倍近い工数を消化しているにもかかわらず、成果物が何もないのです。クライアントと交渉し、期日も再三にわたって延期してもらっていました。しかも、Aさんはこうしたプロジェクトを2つ抱えていたのです。
これには正直驚いて、Aさんを呼んで事情を聞きました。しかし、本人には、私が認識したような最悪の状況だという自覚はありませんでした。ある程度ユーザーであるクライアントと話もしていたし、期日を延ばしたのも、クライアントとの合意によってとの説明でした。しかし、その後すぐにクライアントからクレームが付きました。Aさんの担当プロジェクトは進ちょくが遅く、Aさんはきちんとプロジェクトを仕切れていない。コンサルタントとは思えない。そのため、クライアントは担当の変更、つまりほかの人間に担当してほしいという、それは厳しい要求でした。
失敗の原因は? |
このプロジェクトでは、何が問題だったのでしょうか? 確かにAさんはクライアントと話していたのですが、それは本当に“話していた”だけだったのです。クライアントがコンサルタントに望むのは、単にクライアントの話を聞いてそのとおりにすればいいというわけではありません。この点はとても微妙なところがありますが、クライアントが話す内容をかみ砕いて理解し、その裏にある本当のニーズまでをもくみ取る必要があるのです。しかし、Aさんにはそのスキルが欠けていました。さらに、仕事を自分で組み立てて進める能力もあまり高くはなかったようです。
一般のシステムエンジニア(SE)であっても、こうした能力は必須ですが、コンサルタント(外資系では特に?)では、クライアントが要求するレベルが数段高く、それにこたえていかなければならないのです。技術的なスキルはある方がいいのですが(ないと困りますが)、それ以上にこうしたコミュニケーションスキルが要求されるのです。Aさんについては同僚のマネージャと相談し、場合によっては会社を辞めてもらうしかないかもしれないという話になってしまいました。会社としては人材は欲しいわけですから、この状況は望ましいものではありません。しかし、コンサルタントとしてのバリューを出せない(出せそうもない)人を長く抱えるだけの余裕は、私の会社ではないのも事実です。
技術スキルを補う能力 |
さて、次にBさんの例を紹介しましょう。Bさんは、国内系のコンサルタント会社から転職してきました。Bさんの技術スキルはそれほど高くないように感じていました。コンピュータの知識はそこそこありそうですが、大きなシステムのスキルとなると、私の方があるのではないかと思っていたのです。また、Bさんの業務知識もそれほど高くはないようでした。そうした印象を持っていたため、正直にいうと、「この人はどうしてうちの会社に入れたのだろうか?」と疑問に思ったほどでした。
しかし、Bさんと一緒にクライアントとのミーティングに出席して疑問は氷解しました。Bさんは、それは見事なコミュニケーションスキルを持っていたのです。相手の言葉からその裏にあるものをうまくくみ取り、それをより明確にして、新たな方向性を出してまとめていくそのスキルは、大変高いものでした。それによってクライアントからの信頼を勝ち取ることができ、コンサルタントとしての仕事が成り立ったのです。
彼はマネージャで採用されましたが、マネージャ採用された中でもまずまずの評価を得ている数少ない例です。高いポジションでの採用は、会社から見ればよい結果を短期間で要求しているわけです。Bさんが新しい職場の新しい文化の中で、それにこたえて実績を出しているということは、それだけ高い能力を持っているということの証明でもあります。私が見る限り、Bさんにおける高い能力は、そのコミュニケーション能力だと思います。
大切なことはヒューマンスキル |
前にも紹介しましたが、私の会社は決して技術スキルが高いわけではありません(「第5回 技術スキルだけでは食えない」)。とはいえ、技術スキルが高い人を採用することに後ろ向きというわけではありません。しかし、技術スキルだけが高い人は、コンサルタント業界で生き残ることはほとんど不可能です。技術スキルが低くてもコミュニケーションスキルが高ければ生き残れますが、技術スキルが高くてもコミュニケーションスキルが標準以下であれば、生き残ることはできません(その逆の方が生き残る確率は高いほどです。これはこれで問題がありますが……)。私個人としてはそれがよい方法だと思っているわけではありませんが、現実はそうなのです。
もちろん、技術スキルが高い人が、多少コミュニケーションスキルで劣っていても高く評価されるケースはあります。そういう人を私は何人か知っています。しかし、それにも限度があります。最初の例で挙げたAさんのような人は、いくら技術が高くても評価を得ることはできません。バランスの問題なのですが、技術だけでは生き残れない、それがコンサルタント業界の現実なのです。
エンジニアからコンサルタントへの転職は、高い人気があると聞きます。その際にぜひ参考にしてほしいのは、こうした現実です。エンジニアとして技術スキルを磨くことは当然として、それ以上に磨いてほしいのは、コミュニケーション能力などのヒューマンスキル。両方のスキルが高い人であれば、コンサルタント業界に転職しても、きっと成功するはずです。
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