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外資系コンサルタントのつぶやき 第7回
コンサルタントへのあこがれと現実とのギャップ

三宅信光
2001/12/7

   “勘違い”して入社する社員たち

 コンサルタント会社と聞いて、多くの人はどんなイメージを持つのでしょうか? こんなことを冒頭で書くのも、私の会社に入社してくる人の多くが、大なり小なりコンサルタント会社に“勘違い”して来るようなのです。勘違いしていることは人によって異なりますが、若手に多い勘違いは、“コンサルタント企業で働く=企業戦略に携わることができる”というものです。

 これはそもそもコンサルタント会社といっても、さまざまな種類があることを知らず、“コンサルタント”という名前だけで判断して入社してきた結果のようです。このことは、転職者だけでなく、新卒で入社してくる新卒組でも同じようです。新卒社員の入社面接時には、必ず入社後はプログラミングから学んでもらいますといわれます。しかし、確かに私の会社にも戦略系の仕事(戦略系コンサルタント)をする部隊がいるため、「戦略に携わることもある」という程度のことは、人事や役員もいうことがあるようです。しかし、それが誤解の火種になっているようなのですが……。

   戦略系コンサルタントへのあこがれと幻想

 入社してくる人の中には、戦略系コンサルタントファームとIT系コンサルタントファームの区別がつかない人がいるようです。そのため、コンサルタントといった瞬間に、戦略的な仕事ができるとイメージする人がいるのです。確かに、コンサルタントというと非常にスマートなイメージが付きまといます。新入社員では、システムもプログラミングも知らない人が多いため、まずはプログラミングから挑戦し、システムの土台を理解してもらうことが多いのです(システムも分からないコンサルタントをだれが信用するでしょうか?)。しかし、それを苦痛に感じてしまう人がいるのです。

 私の会社に転職して入社してくる人の多くは、一般的にシステム構築をした経験がある人です。ですから、最初に与えられる仕事(その多くはシステム保守やプログラミング)に対して、アレルギーを持つ人は少ないようです。ただし、その先に問題があります。私は以前、この連載で中途採用者は自分のキャリアについて、きちんとしたイメージを持っていない人が多いと書きました(第4回「明確なキャリア戦略を持つ人、持たない人」)。しかし、人によっては明確なイメージを持っている人もいるのです。“戦略的な仕事をしたい”という人もそうです。

 私の会社には、戦略的な仕事をする戦略系コンサルタント部隊がいます。どこのコンサルタント会社でも、どういう形であれ、こうした部隊を持っているはずです。しかし、私の会社はITコンサルタントがメイン業務のため、戦略系コンサルタント部隊は、優秀かつ少数の人材で構成されています(つまり少数精鋭部隊です)。戦略系コンサルタントのメンバーは、ほかの分野のチームで仕事をしていた人の適性を見て選抜するか、ほかの会社ですでに戦略系コンサルタントの経験のある人をスカウトするようです。

   合言葉は「戦略系の仕事がしたい」

 若手にとっては、“戦略的な仕事”は、よっぽどあこがれの的なのでしょう。私の部下で「戦略的な仕事をしたい」といった人間が、どれだけ多かったことか……。

 3年ほど前になりますが、UNIXの知識があるという触れ込みで入社してきたAさんが、私の下に配属されたことがありました。Aさんは、多少システム的な知識を持っている程度のスキルであったため、まずはプログラミングをもう少し経験しながら、データベースの知識も付けてもらおうと思い、そのように業務を割り振りました。そのころの私のAさんに対する(仕事上の)評価は、会社全体の中で中の下といったところだったでしょうか。そのことからも判断できるように、Aさんが特別優秀な人材だったわけではありません。

 配属から3カ月ほどたったころ、Aさんが現在の仕事に不満を持っていると、あるメンバーからいわれました。慌てて本人に話を確かめたところ、「自分は戦略的な仕事に携われると思って入社したのに、システムの開発や運用ばかりをさせられるとは思っていなかった。システムのお守りばかりするのはもうイヤだ」といったようなことをいわれてしまいました。

   戦略系コンサルタントに欠かせない資質

 私はAさんに、確かに戦略系コンサルタント部隊はいるが、その部隊に異動するためには、それなりの成績を現在の仕事で挙げる必要があること、また、成績がある程度あっても、適性がないと判断されれば、異動が許されない場合があることを話しました。そのため、Aさんが異動したいのであれば、まずはいまのポジションでもっと良い成績を挙げるようにと説得したのです。というのも、彼はあまり高い評価を得られていなかったからです。彼が評価されない理由は、最初に聞いた話ほどシステムのスキルがなく、スキルを吸収する力もなかったことが挙げられます。

 しかし、最も決定的だったのは、Aさんのコミュニケーション能力、文書作成能力がそれほど高くなかったことです。コンサルタントには、コミュニケーション能力や文書作成能力が必要なことは、この連載で紹介したことがあります(第5回 「技術スキルだけでは食えない」)。特に戦略系コンサルタントでは、このスキルは必須です。私は以前、コンサルタント会社はコミュニケーション能力を重視しすぎる傾向があると書いたのは事実です。しかし、それは私の会社では実際にシステム構築を行うからです。つまり、コミュニケーション能力以外の能力も、部署などによってはきちんと評価されるべきものだと考えています。しかし、戦略系コンサルタントや営業系の分野は、この能力を抜きには仕事ができません。

 しかし、結局Aさんは私の説得に耳を貸してはくれませんでした。確かに、Aさんの入社する志望動機は、戦略系の仕事がしたいということでした。実際にその仕事ができないこと、自分の希望しない分野での評価では納得できないことは、彼にとって不本意な結果だったかもしれません。しかし、私が彼を戦略系コンサルタントの部隊に異動させても、そこで通用するだけのポテンシャルを感じなかったことも事実です。そもそも彼は初めから“コンサルタント=戦略”と思い込んでいたようで、入社当初からそのイメージと現実の会社業務とのギャップに悩んでいたことを、後から知らされました。しかし、こちらから見れば、「なぜ会社に入る前にもっと調べないのだ?」といいたくなるような話です。調べれば、そう簡単に戦略系の仕事に就けないことは、すぐに分かることです。そうした調査能力がないことからも、Aさんには戦略系の仕事は無理だったと思うのですが……。

   まだまだ転がっている勘違い

 ここで挙げた話は確かに極端な例ですが、そのほかにもコンサルタント会社に勘違いして入社する例は、挙げると切りがないほどです。ビジネス系・業務系の仕事ができると思っていた人(システムは関係ないと考えていた人)、会計事務所の仕事を思い描いていた人、システムの研究なら十分にできると思っている人などもいました。

 そのほかによくある勘違いとしては、コンサルタント会社ならば、常に最先端技術に触れることができると思って入社する人です。例えば、Webベースの仕事がしたいとか、最先端の大規模分散システムを構築したいというような動機です。確かにコンサルタント業界では、最先端に近い技術を応用したシステム構築などが多いのは事実でしょう。私などから見ると、最先端技術を取り入れたシステム構築をやりすぎるために、失敗が多いのではと思うこともあるほどです。

 しかし、どんな会社でもそうでしょうが、すべてのシステムを最先端技術で構築するわけではありません。また、クライアントに提案したころは最先端技術案件でも、開発するころには一般的な技術に近いものになっていることもあります。さらに、実際に開発作業に入れば、世の中の最先端技術のニュースや解説をインターネットや書籍で知っても、それを追っかけ、実証する時間などはありません。常に最先端の技術に触れたいのであれば、研究機関か学校に行くしかないでしょう。

   コンサルタント会社は何をする会社か?

 コンサルタント会社はビジネスをしている会社であるという簡単なことを、だれもが見落としているような気がします。だれにでも望んだことを与えてくれる場所ではありません。コンサルタント会社に入社できれば自分の望みがかなう。そんな風に考えているのであれば、それは大きな誤りです。当たり前のことだろうといわれそうですが、その当たり前のことを忘れている人が、意外に多いのはなぜでしょうか。

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