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学校のIT教育現場も人材不足
第1回
管理者がいない

中内美紀
2001/6/1

 東京都の某区立小中学校で、去年(2000年)からパソコン・インストラクターをしています。この仕事は、教育委員会が派遣会社に委託して、人材派遣会社のIT部門から人材を派遣して実施しているプログラムです。仕事内容は、決められた担当の学校を週2日ほど訪問して、先生向けのパソコン研修や児童や生徒への授業補佐を行うことです。

 派遣会社から選出されるためのスキル内容は、Windows系のOSを理解していること、アプリケーション(一太郎、Lotus123、Word、Excel、PowerPointなど)が使いこなせること、パソコンインストラクターやサポート経験があること、それに、インターネットはもちろん、ネットワークについての知識も多少は必要。

 これだけスキルがそろうとなると結構ヘビー級だと思いますが、給料はそれほど高くもないのです。

 これまで会計事務所や弁護士事務所、結婚相談所といった一般企業以外でも仕事をしてきましたが、今回はかなり特殊な環境での仕事です。学校の先生は、「パソコンできる人」=「何でも知っている人」=「問題があれば何でもサポートしてくれる人」という認識らしく、苦労は絶えません。そんなIT教育を巡る学校現場の問題、矛盾、そして悲哀をお伝えしたいと思います。

電源はきちんと切りましょう

 最近の公立の小中学校は、意外にも立派なパソコンルームを完備しているところが多いのです。私が通っている区の学校では、3〜4年前にPCが設置されたそうです。パソコンルームには、先生用のPCが1台に生徒用のPCが20台設置され、すべてネットワークで接続されています。さらにWindows NTサーバも稼働しています。周辺機器もプリンタ、スキャナ、MO、CD-R、デジカメと、必要なものはほぼすべてそろっている状態です。さらに教室の1番前には、大スクリーンのデジタルテレビ。このテレビと先生用のPCが接続されていて、先生のPCの画面を表示しながら授業をすることができます。

 ここまで聞くと、最近の子どもは恵まれていると思いませんか? 日本の教育現場もIT化が着々と推進されている、日本の将来は明るいものだと安心できそうです。ところが実態は、旧態依然のお役所的教育システムだったりします。そんな身近な実例を紹介しましょう。

 パソコンルームの管理者は、たいてい教頭先生になることが多いようです。パソコンルームの利用希望者は、教頭先生にかぎを借りて使用します。教頭先生は、学校の“実務の長”らしく、施設の“管理”には必ず名前が挙がるようです。つまりITやデジタルに強くてパソコンルームの管理者になったわけではないので、あまりパソコンルームに近寄ろうとしないみたいです。

 でもこの前、私が忘れ物を取りにパソコンルームに戻ったときはびっくり。教頭先生が教室にいらしたんです。つい何をやっているんだろうと見ていると、どうやらサーバをいじっている様子。あら、教頭先生は実はバリバリのネットワーカーだったの?

 「先生、何なさってるんですか?」

 「ああ、中内さん。教室を使い終わったら、きちんと電源切ってもらわないと」

 PCもテレビもプリンタも点検しましたっていいそうになってあぜん。サーバや無停電電源装置(UPS)の電源が切られている!?

だれも知らないパスワード

 土曜日の放課後、生徒の1人が感想文を印刷するときに問題が発生。生徒用のPCは、ネットワーク経由で印刷するようになっているのだけど、プリント・サーバとして使われているWindows NTサーバが、このときどうやらダウンしていたらしい。多少PCに詳しい先生が呼び出され、再起動してさまざまなチャレンジをしたみたい。だけど印刷できない状態のままで初戦敗退。

 そんな騒動が起きているとは知らない私がパソコンルームにやって来ると、集まっていた先生方がすがるような目で一斉に私を見る。

 「先生! 大変です!」

 いつにも増して嫌な予感がしたので一瞬後ずさりしたけど、気を取り直してサーバを操作。プリンタのスプールにたまったドキュメントをいったん削除しようとしたら、権限がないと拒否されてしまう。ということは、“Administrator”でログオンしていないだけ。そこで、「あの、WindowsNTのパスワードを教えてください」と質問したけど、みんな無言。そう、そこにいるだれ1人として、パスワードもその存在さえも知らなかった。

 そこで、パソコンルームの管理者である教頭先生に聞く。教頭先生は最近赴任してきたばかりで、引き継ぎも受けておらず、パスワードなんてまったく知らないとのこと。仕方なく、前任者の書類を2人して片っ端から探したけど見当たらない。次にネットワークを導入したベンダーに電話したけれど担当者がいなくてこれもダメ。ついに他校に赴任した前教頭先生に電話。そこで思い出してもらってようやく解決!

 すでに最終下校時間に突入。生徒は待ちきれなくて帰宅。結局プリンタの調子も悪く、その日は印刷できないまま。これでは生徒の顧客満足度も大きく下がろうというもの。

個人的な提案

 管理者はいてもパソコンルームの管理者。つまり、部屋の管理だけ。機械(PCや周辺機器)の資産や備品管理者はいても、実際の機材の管理やサーバの管理をする人はいない。運用マニュアルもなければ、トラブルが生じたときにどうすればいいのかの決まりもない。先生が他校に赴任した場合の正式な引き継ぎ義務もない様子。

 基本的には各学校のシステム設計は同じ。そこで、何校かを1つのグループにまとめ、専属の人間に面倒を見てもらうのはどうだろう。これなら何かが起きてから業者を呼ぶよりも効率がいいはずだし、何より教頭先生をはじめ、先生方の負担が少なくなる。つまり、コスト削減も実現できる。本当に学校にもコンピュータ教育が必要だというのであれば、ハードウェアだけでなく、システムの運用管理やサポート体制をどうするのか、それがとても大切なんじゃないかなと、第三者として感じています。

 そうなれば、「UPSの電池の期限が1年前に切れている」ことも、「生徒の思い出の画集データがなくなる」ことも、「辞めた先生の置き土産が共用ドライブを占有している」こともなくなるだろうと思うけど。

 東京都内なら、23区内の小中学校用に共通のサポートセンターを用意するのもいい方法かもしれない。とにかく、パソコン講師は技術者じゃないし、技術者がいないネットワーク環境は企業では考えられないってことを、教育委員会や関係者が認識してほしいな。

 この仕事を受けた当初、こうした構想は、パソコンルームがそれなりに活用されることが前提になるのかなと思っていたけど、人材を環境の1つと考えると、順番は逆だと認識。安心して使えるパソコンルームだったら、ニーズも高まるでしょ。いつまでたってもおっかなびっくりだから、立派なパソコンルームも使われないまま。もっと子どもたちにPCを触らせてあげたいのに。

 なんとなく、国や自治体が掲げるIT推進やIT化っていう現実の姿が、こんなところに見える気がしませんか?

 

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