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学校のIT教育現場も人材不足
第2回
サポート人員がいない

中内美紀
2001/6/29

 教育現場のIT化の推進では、2つのことを進めなければなりません。1つは、パソコンを利用して先生の業務の効率化を行えるようにすることです。書類フォーマットを統一することやメールでの情報交換、インターネットを使用した情報収集など、これは一般企業にも通じる内容です。もう1つ重要なことは、授業でのパソコン利用を活性化させることです。

 どちらにしても、先生方全員がパソコンを使用してある程度の作業を行ったり、インターネットや電子メールを利用できるようにならなくてはいけません。そこで、私たちパソコンインストラクターの出番となるわけです。

 教育委員会と私たちパソコンインストラクターとの雇用契約書には、“教職員を対象とするパソコン、ソフトウェアなどに関する研修業務”が仕事であることが書かれています。それに児童への“授業補助“も業務に含まれています。そして依頼主は教育委員会で派遣先は学校現場。両者で業務内容を煮詰めていないためか、教育委員会と学校側の認識に差が生じていろいろと大変です。さらに年齢や性格、パソコン(ワープロ?)スキルもバラバラな先生に、本当の意味でパソコンを利用してもらえるように指導するのはかなり骨の折れる作業です。今回は、そんな苦労話を……。

何でも屋になる危険性

 先日パソコンインストラクター仲間から、新しく通い出した学校で事実上「教頭先生のワープロ代行の業務屋になっています」という嘆きのメールが届きました。

 「いまは、いわれたとおり書類を作成しています。ここでの業務は本来授業補助がメインなので、こういう仕事もいずれなくなると思いますが……」

 むむっ、やっぱりいるのよね。私も同じような状況に陥りそうになったのですが、最初が肝心だと思ってはっきりこういったんです。「先生たちご自身がパソコンを使用できるようになっていただくよう、ご指導することが私の業務です。書類の作成を行うのはあくまでも先生で、こちらが打ち込み作業を受けることはしないことになっているんです」

 “契約内容と違います”と角が立つ言い回しは避けますが、はっきりしたポジショニングをアピールしておかないと、本当に“何でも屋さん”になってしまうのです。それだと自分がつらいだけではなく、いつまでたっても環境が変わらず進展もしないままです。

 前述したメールを送ってくれた彼女、別の学校では「今日からパソコンの先生です。それでは後はどうぞ、なんて先生がいって、児童も何もかもすべてこちら任せ。どのクラスでもそうなのであきれます。学校に行くたびに4時間びっしり授業で、しかも児童の面倒すべてを見るとなると頭痛がします。こんな学校はとっとと終わらせたいですよ」と、今度は授業補助のはずが授業メインで困っているようです。自分から強くいえないため、派遣会社に訴えているようですが、学校側の認識不足によるこうした“インストラクター悲話”は多いのです。

 本来は、先生が授業で何をしたいかによって、まず先生がパソコンを利用して技術と知識を身に付け、子どもたちへの指導の際に派遣講師(パソコンインストラクターのことです)が先生の補助要員として参加することが望ましいと思います。私の担当する学校では、そのあたりの認識はあったので、授業を任されてもそれほど苦痛ではありません。直接児童を指導することがあっても、先生の認識ときちんとした環境があれば、子どもは大人の数十倍もの早さで操作を覚えてくれます。

 ただ、問題に感じるのは、先生個人のパソコンやインターネットに対する認識の程度によって、授業でのパソコン利用にもかなりの差が表れてしまうことです。ゲームなどのソフトを使わせるだけの授業(?)を一学期に1回でも行う先生もいますが、これなどまだいい方で、1年間に1度もパソコン教室を使わずに終わるクラスもあります。これでは「デジタルデバイト」を、日本の教育機関(しかも同じ学校で!)でさらに増幅しているようなものです。

 必要なのはパソコンの使い方ではなく、授業や学校生活にどう利用できるかだと思うのですが、先生の中には、まず自分がすべての機能を使いこなせるようにならなければいけないと勘違いしている方が多いようです。そんなこと、不可能なのに……。

 あるパソコン初心者の先生に、「パソコンに慣れるため、今日はインターネットに接続しましょうか」と提案したところ、「まだワープロも打てないのにインターネットなんてとんでもない!」と拒まれました。教育現場のIT化への道のりは遠いと、このときはため息をついてしまいました。

学校はサポート伏魔殿?

 やる気はあっても進展が見えない先生もいます。「Yahoo!のCDは、どこで買えばいいんですか?」から始まり、「やっぱりうちのPCにはYahoo!は入っていませんでした」、最後に「うちのPCはインターネットにつながっていないんですが、Yahoo!を見ることはできないんでしょうか」と、同じ先生に3週連続で打撃を食らったことがあります。もちろん、毎回インターネットに接続したパソコンを使って、かなりていねいに説明したつもりでいたのですが。あのときはさすがにうな垂れてしまいました。

 こうした“個人レッスン”を毎回続けて行うのは、正直いってかなりの体力と精神力を消耗します。

 保健室にパソコンを導入したので、そちらで指導をといわれて保健室に出向いたことがあります。保健室の若い女性の先生(養護教諭)が、パソコンの電源プラグを持ったまま「これを普通に差し込めばいいんでしょうか」と、微笑んで待っておられました。

 ほかの教室で使用されていた旧型モデルが回ってきたらしく、パソコン本体、モニタ、プリンタのケーブルは互いにきちんとつながっています。起動も問題ないようですが、2GbytesのCドライブにやたらにソフトが詰め込まれていて、残り領域が2%ほどになっていました。このようなときでもこちらがメンテナンスをしてしまっては意味がありません。正しいアプリケーションの削除の方法を覚えていただきます。

 いままで幾度となく泣かされてきた数多くのトラブルと比べれば、この保健室の先生とのやりとりは、どうということはありません。この他にも、いろいろなやりとりがありました。今回はその一部を紹介しましょう。パソコンのサポート業務経験者なら、一度は対処したことがありそうなことばかりです。ですからさほど大変ではないのですが、授業などにも影響が出ることがあり、それが問題になるんですが。

先生:「ハードディスクを軽くすると動きがよくなるって聞いたんで、ファイルを削除したんですけど、エラーメッセージが消えないんですよ」

私のささやき:大事なDLLやSYSファイルも捨てちゃったんでしょうね。セットアップからやり直し……。

先生:「Windows2000が便利だと聞いて自分でインストールしたら、すぐ止まるようになってしまったの」

私のささやき:マニュアルには、Windows NTには対応しておりませんとあるのに……。

先生:「あっち(パソコン教室)にある外付けハードディスクは使えないかな?」

私のささやき:SCSIボードを増設すれば可能だけど。でも、USBで接続できるMOを購入した方が安くて便利かもしれないのに。

先生:「このスキャナ、つなげばすぐに動くって聞いたのに、全然だめなんだよ」

私のささやき:ドライバはインストールしないと認識しないのに……。

 最近ではアプリケーションの使い方以前に、パソコンとの付き合い方を認識してもらわないといけないと強く感じます。そうすれば、発生する前に防げる問題も多いと感じるからです。

 そうはいっても、ファイルの整理だのドライバのインストール作業などは、だれもができる作業ではないので、先生方や事務職員の中から担当者を決めておくことは必要かもしれません。現在はある程度パソコンの得意な先生に何でも任されてしまうため、通常業務以外の負担が増えている状況です(これは一般の企業でも同じでしょうが)。国や自治体できちんとした手当てを付け、公式に業務の一部として行うようにできないものでしょうか? 課外活動の手当ても、ないかあってもそれほどの金額ではないと聞いています。ですからその実現は難しいのかもしれません。手当てが付けられないのであれば、パソコンインストラクターの業務内容に正式にトラブルシューティングやサポート業務の項目を追加して、ちゃんと時給を上げてほしい。

 

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