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学校のIT教育現場も人材不足
第3回
安全対策が危ない

中内美紀
2001/8/3

 都内の公立小中学校では、パソコン導入の次のステップとして、インターネットの導入が進められています。ようやく“パソコンを使う”から“インターネットを活用する”時代が教育現場にもやってきたようです。

 夏休みを前にして、ある先生に「インターネットの使い方を勉強したいので、お薦めの本を教えてください」と頼まれました。ホームページの作成やインターネットの概念ならともかく、“インターネットの使い方”は“習うより慣れろ”であると考えている私は、すかさず「インターネットの勉強なら、本は必要ないですよ」と答えました。さらに「ただ、インターネットを利用する前に知っておいたほうがいい注意事項はあるので、それを理解して、まずはパソコンに触れてインターネットを楽しめばいいんですよ」と続けました。

学校のセキュリティはだれが守るのか

 さて、子供たちを“外の世界”へとつなげる学校のインターネット環境のセキュリティ対策は万全でしょうか。システム管理者が存在しない現場(学校)で事故や事件が起きたときには、だれがどう対処すればよいのでしょうか? もちろん、本来ならば学校にインターネットを導入する時点で、こうしたセキュリティ対策はされていて当然だと思うのですが……。

 企業には、流行のウイルスについての警告や感染時の対処方法の告知、インターネットを閲覧する際の個人のモラル、ハッキングなどの外部からの侵入を防ぐシステム部門(担当者)が存在します。もちろん、多くの企業では一般のシステム運用管理部門が兼務しているのでしょう。しかし、学校内には選任のシステム管理者そのものが存在しません。パソコン担当者となっているのは、たまたまパソコンが得意な先生というだけです。では、担当の先生がインターネット・セキュリティを常に考えて責任感を持っているかといえば、それは個人の認識と力量にかかっているようです。担当の先生が個人的に真剣に受け止めていたとしても、ほかの先生がそうであるとは限りませんし、中にはインターネットは未知の世界のもの、自分には関係ないと思っている先生方もたくさんいます。

 先日、ある先生から「別の人が作成したエクセルの表を使いたいので見てください」と、フロッピーディスクを手渡されました。フロッピーディスクには、エクセルファイルや一太郎ファイルが10個ほど入っていましたが、その一部(全部で3ファイル)がウイルスに感染していました。ウイルスは簡単に駆除できる程度のものでしたが、ファイルは削除する必要があり、そのことを先生に説明しました。先生によると「前にも同じようなメッセージを見たが何のことかよく分からず、ずっとそのままにしていた」とのことです。

 学校のパソコンには、すべてウイルス対策ソフトがインストールされているにもかかわらず、その意味を理解していないのですから何の役にも立ちません。ニュースでは電子メールにウイルスが感染したと報道されて世界中で話題になっていても、それを自分自身の問題として認識されている方はあまりおられません。電子メールの添付ファイルから感染するウイルスも、ウイルス対策ソフトの設定次第で防げる確率が高いのですが、そうした設定ができる人はほとんどいません。そうはいっても、個人所有のフロッピーディスクにウイルスを常駐させてほしくはないのですが……。

 最近、学校では「防犯、安全対策」について先生も親も真剣に受け止め、注意を呼びかけています。大阪教育大付属池田小学校で起きた校内児童殺傷事件を受け、各学校とも不審者対策を強化しており、いままで開け放しになっていた裏門はしっかりと閉められ、外部からの訪問者は事務室の前で氏名と用件を記載しなければなりません(学校によって対策は違うようですが)。教育委員会では校長先生を集めた会議を開き、警察官の巡回も行われるようになりました。子供たちへは「知らない人にはついて行かない」とか、「不審者を見つけたら親や先生に知らせる」、それに「危険な目に遭いそうになったら大声を出す」など、たくさんの注意がされているようです。では、バーチャルの世界、インターネットはどうかというと、まだ親も先生もその危険を感じていないようです。もちろん、インターネットに接したことのない人にその対策を考えろといっても無理はあるのでしょう。

 子供たちは、パソコンが大好きです。初めてインターネットを体験する子供も、ちょっとした説明だけで、占い、ゲーム、昆虫、サッカーといった自分の興味あるコンテンツへとすぐにたどり着きます。

 教育委員会もまったく何も考えていないわけではなく、生徒にインターネットを使用させる際の諸注意事項を、学校向けに指示を出しているようです。私の担当する学区では、児童用のインターネットスタート画面を、「Yahoo!キッズ」に設定することがその1つです。見た目のデザインが子供向けであるからというよりは、通常のポータルサイトよりも、悪質なサイトへ出くわす頻度が低くなるからです。とは、いっても、それだけで防げるものではありません。また、インターネット上でのモラルについても指導し、常に注意をしていなければ、事件に巻き込まれる可能性もあります。私が接する児童には、名前や電話を軽々しく教えない、掲示板やチャットでの発言の際の注意など、ネット犯罪に巻き込まれないための一般的な諸注意はしていますが、各学校での統一した指導指針・要項はないようです。

 ファイアウォールなど外部からの侵入対策もだれが考え、どう対応しているのかはまったく不明です。インターネットプロバイダの方でできることは限られています。いまのところ、校内LANを活用して重要データを共有している学校はないようですので、ハッキングされる心配も少ないのですが、それはそれで宝の持ち腐れのような気もします。

学校のセキュリティを守る現実的な方法は?

 パソコンやインターネットの導入に関しての検討・実施は教育委員会の管轄、実際のインフラ構築は業者、運営は現場の先生方となっていますから、通常のサポート面でもいろいろと問題は存在します。しかし、特にセキュリティの面では、子供たちへの責任があるわけですから、その3者間での情報交換が常にされ、バーチャルという新しい世界へ安全に入っていける環境づくりが必要不可欠だと思うのです。職員会議や保護者会でも、リアルな実社会と同じように、バーチャル社会(=インターネット)での安全対策の話し合いも必要かと思います。

 そのためには、やはり学校側から相談を受ける立場にある教育委員会の中に、システムやセキュリティを担当する(考える)専任者がいることが望ましいのではないでしょうか。学校側の負担を軽くして効率を上げるためにも、各校が同じレベルで同じ内容の運営がされるべきです。学校には、主事や管理人と称される方が存在しますが、システム管理者兼任の主事を募集するといった人材採用を行う自治体が出てこないものでしょうか。そのような人がいれば、夜の見回りの後にウイルスチェック作業を行うことも可能になるでしょう。

 各方面で開催される先生向けのパソコン講習の内容も、「一太郎」の使い方ばかりでなく「ネット上のセキュリティとモラル」としたトピックもぜひ取り入れてほしいと思っています。

 実社会でも、事件や事故に遭ってから対応することが多いのですが、バーチャルな世界では、事故に遭っていないいまのうちに、もう少し真剣にセキュリティについても考えてほしいと思っています。

 しかし、そうした策や案は、いったいだれにお願いすればいいのか、その問い合わせ先さえ不明なのが現状です。だれかが提案するまでそのままでしょうし、提案されても検討、承認、実行されるまでには、相当の回り道が予想されます。とにかく子供たちがネット犯罪に巻き込まれないように、また嫌な思いをせずに、楽しく有意義にインターネットを活用できるように祈るばかりです。

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