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学校のIT教育現場も人材不足
第4回
夏休みにパソコン教室を活用できない!?

中内美紀
2001/8/29

 小中学校でのインストラクターを始めて2度目の「夏休み」も、あっという間に終わりました。生徒でも親でもなく、第三者として“学校”に通うことは貴重な体験ですが、夏休みの職員室の様子を見ることができたのも貴重な体験でした。「学校の先生って夏休みの間は何をしているのだろう?」といった疑問も解消しました。今回は、夏休みの学校の様子も交えながら、考えさせられることの多い学校の体質についてお話したいと思います。

 学校は夏休みですが、私たちパソコンインストラクターは、学校からの要望があれば学校に出向くことになります。この時期によくあるのは、主に先生向けのパソコン研修です。しかし、8月に入ると先生もあまり登校しないので、パソコン研修をお休みにする学校もあり、通常よりも私たちインストラクターのスケジュールの空きが多くなるようです。もちろんそれに比例してお給料も減りますので、フルタイムの勤務で生計を立てておられる派遣社員の方からすれば、学校の夏休みは迷惑な話かもしれません。「親子パソコン教室」のようなイベントが世間で大盛況な時期に、実際に学校で教えているパソコンインストラクターの業務が減るなんて、かなり皮肉な感じもします。とはいえ、突然学校に呼ばれることも、先生から助けを求められることもあり、インストラクターによっては夏休みも忙しいという人もいます(私がそうです)。

先生への夏休み講習

 しかし、この時期をチャンスとばかりにパソコンを習得しようとする先生もいます。

 去年のことです。週2回ほど定期的に普段は時間の取れない先生のために、パソコンを教えてほしいとの要望がありました。しかし、実際に学校に行ってみると、熱心な“生徒”は全職員中2人という寂しいものでした。つまり約1カ月間、この2人のための集中レッスンを行うべく、真夏の学校に通ったことになります。それでもこの2人が、その後学校でパソコンを十分活用できるようになっていれば、私もそれほど落ち込まずに済んだことでしょう。

 現実には、1人はいまだにフロッピーディスクをフロッピーディスクドライブに入れたままパソコンを立ち上げ、「画面が真っ暗で何も出ないんですぅ」と騒いでいます。もう1人の先生は、「今年も夏休みにパソコンを教えてもらおうかな。だって去年習ったことを忘れちゃったからね」と、にっこり私に微笑んでいました。まさに教えることの限界を感じた一瞬でした(涙)。しかも、本来教えることを本職にしている方たちに教えているのに……。

 先生方へのパソコン講習は、各個人の要望にこたえる形でマンツーマンで行っています。各アプリケーションやインターネットの使い方などを、マニュアルに沿って説明するインストラクターもいますが、この方法では、実際の業務で使用できるようにはなりません(私はそう考えています)。私は必要に応じて実際の手書きの作成物を用意していただき、手順を追って説明する方式をとっています。

 これも去年のことですが、「夏休みの行事予定表」の担当になったA先生がいました。私はA先生へのパソコン講習中、表計算ソフトの「Excel」で行事予定表を作成するように勧めました。A先生はパソコンをほとんど使ったことがないということでしたが、30歳代の若い先生のため飲み込みが早く、さまざま機能を使いこなしながら表を作ることができました。今年も行事予定表の担当となったA先生ですが、去年のデータをアップデートするだけで新しい表を作成できたようです。それまでは、担当になった先生が、ワープロ専用機などで再度打ち直していたようです。今後も、A先生が同校勤務中は「夏休み行事予定表作成担当」から外れることはなさそうです。

プリント作成は「一太郎」

 学校は「プリント類」が多いところです。子どもたちに配られる「お知らせ」や「給食の献立」などには、皆さんも覚えがあると思います。現在そうしたプリントは、ワープロやパソコン、それに手書きなど千差万別の方法で作成されています。もちろん、懐かしいわら半紙も健在です。パソコンインストラクターを“プリント作成補助教員”と思っている先生も多く、実際プリント作成のお手伝いやアドバイスをすることも多いのです。ただし、なるべく先生が自分で作成できるようなお手伝いやアドバイスだけです。

 パソコンでプリントを作成する場合、ほとんどの先生は「一太郎」を使っています(少なくとも、私の担当している学校では)。一太郎が学校でどれだけ浸透しているかは、学校で“パソコンができる先生”=“一太郎の達人”であることとほぼ同義というところからも分かります。外部とのやりとりをする場合にも、マイクロソフトの「Office」のデータをまったく使いません。さらに不思議な独自ソフトも存在しています。多くがWindows 3.1時代に開発された“時代モノ”ソフトです。派遣スタッフの多くはWord/Excel派であるため、その一種独特なムードと独自のパソコン文化に少しやりづらさを感じている人もいるようです。

 夏休み前に配られたプリントの中に、新学期初日に児童が学校に持ってくるものや避難訓練のお知らせがありました。避難訓練のお知らせには、9月1日が防災の日のため、緊急時の連絡網を利用した児童の受け渡し訓練(親が学校に子どもを迎えに行くことのようです)をすることが書かれていました。そこで、「いまは携帯電話も普及しているし、緊急時の連絡も取りやすいだろうな」と思うのは大間違いです。私はこれまで携帯電話番号の入った連絡網を見たことがありません!?

硬直的な学校の対応

 その昔、私が小学校に通っていたころは、多くの母親は家庭にいて、電話にもすぐ出ることができ、次の人へ連絡を回すこともできたのでしょう。しかし、最近では共働きも多く、平日の昼間にだれも出ることのない自宅の電話番号が並んだ連絡網は意味があるのでしょうか? 災害時に家の留守電のメッセージを聞く前に、親たちはそれぞれの携帯電話や会社から、1つしかない学校の代表電話に電話することでしょう。そうなると学校の電話が通じないため、かえってパニックを引き起こすに違いないと思います。

 新学年の初めに家庭で書かされる「家庭調査票」には、携帯電話番号やメールアドレスの欄はないようです。きっと、学校の全職員と全児童の家庭が、携帯やメールアドレスを持つ時代になるまでこの調査票の形式は変わらないのだろうなと思います。もちろん、セキュリティの面からこうしたデータベースがきちんと集められてしまうと、それを悪用する人が現れて危険であるという別の問題が生じるのでしょうが……。

 小中学生の親といえば、20代後半〜40代前半、まさにIT環境に一番強い世代のはずです。普段から会社や個人でメールをそれなりに活用しているのではないでしょうか。先日、自転車の荷台に子どもを乗せ、片手で携帯電話をしながら横断歩道を渡っている若いお母さんを見たときは「危ないな」と思い顔をしかめましたが、それは若い母親に携帯電話が普及しているあかしともいえます。

 それでも学校からの連絡は自宅の電話にという発想は、古い考え方だと思いませんか? プリントを持たされた子どもがプリント類を親に渡し忘れること、出し忘れてしまうことはよくあることですが、「明日は集金日の締めきりです」とメールで送られてきたら便利だなと願うお母さんもいるはずです。

学校も変化が必要

 企業の場合は、顧客のニーズに合うように、時代によって組織も販売方法もいろいろと形を変えていくものです。しかし、学校は「変化」をあまり好まないようです。もちろん、すべてを変更したり移行する必要はないでしょうし、学校独自の風情すべてが奪われてしまうべきではないとも思います。手書きのわら半紙の給食献立表が存続してもそれはそれでいいと思います。

 しかし、配布物の作成方法(内容も含めて)や家庭への伝達方法など、もう少し時代に対応して柔軟な形がとられてもいいのではないでしょうか? 問題は、児童の親に、早く確実に連絡することにあるのですから。もちろん、プリント類を親に渡すことが、子どもへの教育かもしれませんが……。教育現場でのIT推進を唱える関係者に、何十年も前と変わらない現場のこの状況についてどう思うのか聞いてみたいものです。

 去年は夏休みの間、ほとんどだれの手にも触れられることがなかったパソコンルームのことを、多少残念に感じていました。今年は、夏休みを利用した市民向けのIT講習が開催されたり、児童向けの夏休みパソコン教室を実施したりして、有効活用されていたようです。ただし、私の担当する学校がたまたまそうであっただけで、どこの学校でも同じというわけではないのかもしれません。パソコンルームを開放するか否かは、各学校が決定し、校長や教頭、そして先生方の考え方に大きく左右されるようです。インターネットにつながる環境のパソコンが20台も使われないままとは、少しもったいない気がします。図書室や校庭などのように、夏休みの間パソコンルームももっと開放できないものでしょうか。

 先ほども触れた「夏休みパソコン教室」の希望者は大変多く、プール教室を上回る申し込み数だったのです。この事実は、子どもも親もそうした環境を望んでいることの表れなのだろうと思います。個人的には、パソコン教室もよいけれど、堅苦しい感じではなく、子ども向けのインターネットカフェとして開放すれば、夏休みの研究課題をしたり、読みたい本を探したりと、きっと役に立つことでしょう。夏休みの間のプールや校庭開放の要領で、“パソコンが得意で夏休みに子どもたちに接したい”学生などを指導員に採用するのもいい方法かもしれません。

 それぞれに問題もあるでしょうし、いうほど簡単ではないかもしれません。しかし、パソコンルームの開放にしても、家庭との連絡方法にしても、改善や新しい試みを行う前にすべてをシャットアウトしてしまっているように感じられるのです。さまざまな意味で、まだまだ先は長そうです。

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