学校のIT教育現場も人材不足
第5回
学校のデータ共有を実現しよう
中内美紀
2001/10/12
学校の2学期は行事の多い学期です。運動会(体育祭)や学芸会(文化祭)、音楽祭などのほか、先生方の研究発表などもあります。いつもは“時間がない”ことを理由にパソコンから逃げていた先生も、いざ行事担当になってさらに時間がなくなると、なぜかパソコンを習いにやって来ます。たまには暇な日もあるのですが、2学期はそうした日も少なく、学校に行ってから帰るまで、質問攻めの毎日です。切羽詰まらないと学ばないのは、生徒だけでなく、先生も同じようですね(苦笑)。
“自分流”の操作しかしらない先生
一太郎ユーザー歴数年のO先生は、これまで自分で書類作成をこなし、一度も私に質問したことがないという“優等生”でした。私がO先生の近くを通りかかったその日も、パソコンに向かって熱心にデータを打ち込んでいました。いつもと違ったのは、私に声を掛けてきたことです。「先生、前から聞こうと思っていたのですが、ローマ字を入力する簡単な方法ってありますか?」という質問でした。
質問の意味がよく分からなかったのですが、O先生の説明とパソコンの操作を見て分かりました。それは、次のようなことでした。O先生は、かな入力で日本語を入力していましたが、かな文字の間に出てくるアルファベットは、ファンクションキーを押してJISコードを呼び出し、1文字1文字選択しては「Enter」キーを押して確定していたというのです。確かにこの方法では、かなりの時間がかかります。私がちょうど通りかかったときに、その面倒な入力をしており、O先生は愚痴のつもりで私に話し掛けたそうです。つまり、本当は簡単な切り替え方法があるとは考えていなかったようです。
「えっと、半角英字でよければ『Alt』キーと『半角/全角』キーを押して、こんなふうにすれば……」と、入力機能を変更してみせると、O先生に「君は、魔法使いか?」といわれてしまいました。
先生の間では“ベテラン”ユーザーといわれる先生も、意外とこのレベルです(問題なく使いこなす先生もいます)。日本語入力というパソコン操作の基本でも、O先生のように心もとないことが多いのです。アルファベットの文字を“ローマ字入力”と理解してしまっている先生(O先生もこのパターンです)、アルファベットは半角文字だけしかないと信じている先生、その逆に、全角文字は日本語だと判断している先生など、誤解や曲解して理解している先生が何と多いことか。油断していると、自分も混乱してしまうことがあります。
データの共有もままならない
あるとき、T先生が地区別の生徒名簿を作成したいと、相談に来られました。T先生は、以前からパソコンを積極的に利用されており、その意気込みも伝わってきます。すでに1〜3年生の名簿を、各学年の“生徒名簿作成”担当の先生から入手していたので、あとは必要なデータをうまくつなぎ合わせるだけのはず。しかし、データをうまくソート(並べ替え)できないというのです。それもそのはずです。各学年の先生のデータ入力方法はバラバラなのですから。例えば、学年とクラス(組)の表記ですが、学年とクラスを別々のセルで入力している先生もいれば、次のように同じセルに入力している先生もいたのです(さらに詳細に述べると、全角数字と半角数字も混在していました)。
- 1年3組
- 1-3
- 1の3
それでもT先生が奮闘して、何とか地区別生徒名簿は完成しました。
それから数日後、今度はS先生が全学年の住所録を作りたいと相談にやって来ました。S先生は、住所録データがないので、“紙”の住所録から全員分入力する気でいました。しかし、すでに地区別の生徒名簿をT先生が作った後なので、それを基にデータ項目を並べ替えるだけで全学年の住所録はできるはずです。しかし、T先生はお休みで、そのデータがどこにあるのかだれも知りません。そして、最初からデータをつなぎ合わせることになったのですが、各学年のデータを探しだすのにこれがまた一苦労。情報共有やデータフォーマットのルールを決めましょうと、もう少しで叫びたくなりました。
周辺機器がバラバラ!
私が通う学校では、パソコンルームのパソコン、プリンタなどの基本的なハードや、OS(Windows)、LANやインターネット環境は、どの学校でも共通の製品、サービスを利用しています。ただし、スキャナ、デジカメ、CD-RWなどの周辺機器やアプリケーションは、それぞれの学校予算で購入されるようです。これが、派遣のインストラクター泣かせなんです。
最近多いのが、画像の取り込みについての質問です。でも、学校によってデジカメやスキャナのメーカーや機種、さらにはパソコンとの接続方法までが異なるので、そのたびに操作方法を確認することになります。さらに、パソコンへの取り込み方法やグラフィックツールの利用方法、一太郎などのアプリケーションへの貼り付けなどを、すべて個別に説明するのです。
こんなソフト見たことない!?
種類が違っても、住所管理ソフトや表計算ソフトなど一般に市販されているソフトはまだどうにかなります。しかし、理科担当の先生が持ってきた初めて見る星座のソフトの時刻や地域設定、画面印刷方法などを伝授してほしいといわれたときは困りました。こうした教材ソフトや教員用の独特な管理ソフトは、それこそ千差万別です(しかし、意外と数が多いのです)。古い時代のソフトも多く、DOSの設定(覚えていますか? config.sysやautoexec.batの設定!)やサウンド、画面設定など、そのたびに何か問題が生じます。
しかも、ハードディスクやメモリ容量に無とんちゃくな(認識がない)先生が多く、次から次へとソフトをインストールされ、とうとうOSの起動もできなくなったパソコンもありました。もちろん、私がメンテナンスしています。
プリンタが止まらない!
パソコンインストラクターやユーザーサポートを担当した人ならば、次のような経験はだれもがしたことがあるのかもしれません。ある日、「プリンタの調子が悪いので見てください」とH先生にいわれました。すぐにプリンタに駆け寄ると、プリントする内容がずれたまま、どんどん印刷されています。
私:「あの、印刷できないと思って、何度も印刷ボタンクリックしませんでした?」
H先生:「あっ、ちょっとだけ……」
印刷のプロパティには、印刷のジョブが30個ほど並んでいます。これがちょっとだけ……?と心でつぶやきながら、ジョブをクリアしていきます。しかし、子どもたちにも、「印刷できないときには、それ以上クリックしたりせず、先生を呼んでくださいね」と説明しているのに……。
提案!グループウェア導入計画
こういった学校の様子を見ているうちに、次のようなアイデア(?)が浮かんできました。
学校にグループウェアを導入するのはどうでしょうか。現状はすでに書いたとおりで、校内でのデータ共有さえもまったくありません。これではパソコンやLANが入っている意味がありません。それに先生の日常はかなり忙しく、互いに話をする時間も少なく、職員室で顔を合わせながら情報を共有しているわけでもないのです。学年や担当(理科や社会)ごとに資料や画像を共有したり、成績管理なども共通化したりするなど、できることはたくさんあります。だれでも簡単に使えて、学校内の情報がうまく共有できて、教育現場のIT化が推進されるようなシステムを考えてくれないものでしょうか。日本全国とまではいいませんが、少なくとも都道府県単位で共通化すれば、転任しても苦労しないで済みます。企業のIT化もグループウェア導入でまずは社内から、そして社外との情報共有へ、といったケースが多かったのですから、ぜひとも検討してほしいものです。しかしこんなこと、だれが検討してくれるのでしょうか? 東京都だと、やはり石原都知事にいえばいいんでしょうか?
そして、教育現場向けのアプリケーション開発者へのお願いです。先生方が使用する生徒管理ソフトなどは、一般市販ソフトと連携できるものを作ってほしいのです。いかにも自社のソフトだけで完結しようとさせる囲い込みなんて、いつの時代の発想でしょうか? また、あまり複雑な設定や機能がなく、簡単に使える教材ソフトを作ってほしいものです。
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