学校のIT教育現場も人材不足
第6回
日本の教育現場に必要とされること
中内美紀
2001/12/5
一般企業では、システム管理者やWebマスターなどの業務を押し付けられ、苦労している人の話を聞くことがあります。例えば、通常の業務と兼務しても、待遇で考慮されないとか、通常の業務が終わった後、IT関連の業務を行う(しかもサービス残業)といった苦労話です。
しかし、現在は多くの企業でITの必要性が認知され、経営陣もその必要性を理解するに従い、専属担当者を配置したり、外部の専門企業と契約をしたりする企業も増えているようです。
それでは、教育現場での情報教育の状況はどうなっているのでしょうか? 文部科学省は、毎年3月に「全国の学校における情報教育の実態等に関する調査」を実施しており、同じ年の9月に調査結果を発表しています。なかなか興味深い調査だと思ったので、ここで簡単に紹介しつつ、私の接する教育現場とのギャップをお話ししたいと思います。
コンピュータ設置率
この調査結果で驚いたのは、全国の学校におけるパソコンの設置率(調査ではコンピュータ設置率となっています)です。今年の調査結果では、小学校で96.7%、中学校では99.2%です。ちなみに平成9年の調査でも、小学校で95.1%、中学校で99.8%という高い数字でした(なぜか中学は3年前の方が数字が高いのですが)。もちろん、この数字にあるパソコンすべてが教育用ではありません(教育用のパソコンの設置率は上記の数字よりも低い数字です)。3年前と現在の統計データから判断すると、先生のパソコン利用度はもっと上がっていてもいいはずです。また、パソコンルームを児童や生徒に開放するといった改革も、それほど進んでいないようです。それはなぜでしょうか?
進まない情報教育の現場
多くの先生は、個人的にパソコンを使った経験がある、理数系が得意だ、などの理由で学校のパソコン担当(IT担当)になることが多いようです。その先生方の力量に、教育現場のITの推進はゆだねられているのが実情です。しかし、パソコン担当の先生が人事異動でほかの学校に移ってしまうと、それまでのIT化も水泡に帰すことがあります。また、人事異動によって、同じ学校でもパソコンやITリテラシーの水準が年度ごとに変わってしまいます。一般企業では、担当者が変わることがあっても、確実に引き継ぎを行うようになっています。もちろん、それは学校でも同じはずですが、パソコン担当はそうではないことが多いようです。
教員のコンピュータリテラシーは高い?
先ほどの調査に戻ると、パソコンを操作できる教員は、全体(小中高、特殊校)で79.7%となっています(平成12年度)。ここでいう「操作」とは、ワープロ、表計算、データベース、インターネットに関するソフトウェアを活用できる教員を指しています。つまり4人に3人の割合で、そうしたソフトなどを“活用”できることになっています。
しかし、私の担当学校では、約5人に1人がワープロを使ってプリント類を作成できる程度です。表計算ソフトやデータベースソフトを学習したいという先生はあまりいませんし、そのソフトを使って何か作業することもあまりないようです(必要かどうかはまた別の問題です)。調査では、教育用のソフトウェアなどを使用し、パソコンを活用した指導を行える教員は、全教員の40.9%となっていますが、1年に一度もパソコンに触れない子どもたちが多い現実、つまり、先生が1年に一度もパソコンを使った授業をしていないという現実との落差に、大きな違和感を覚えます。
こうしたことから考えると、調査にある「パソコンを操作できる教員」というのは、実際は「パソコンを使ったことがある教員」と同じ意味でしょう。しかし、これからはそうした先生方も「パソコンやITを活用できる教員」となって、児童・生徒への情報教育をもっともっと進めてほしいと願っています。
パソコンが得意な先生だからといっても
しかし、パソコンに詳しいといっても素直に喜べないこともあります。ある中学校での話です。元エンジニアのO先生は授業で「アセンブラ」を教えています。先生いわく、「基本をきちんと押さえる必要がある」という方針のためです。最近は、HTMLの作成方法も教えていますが、自分でプログラミングしたツールを使っているためか、ほかの先生は利用できないようです。このO先生は、他校のパソコン担当の先生からも頼りになる存在として有名で、他校がインターネットを導入する際にも、電話でプロトコルの設定などの相談を受けるほどです。こうしたパソコンやITに詳しい先生の場合の問題は、自分のし好や考え方を強制してしまう可能性があることです。
先生方の情報リテラシーやパソコンに対する考え方や接し方は千差万別です。しかし、それをある程度同じ方向に持っていく必要性はあるのではないでしょうか? これは、すべての先生が同じレベルでパソコンを操作できなければならないということではありません。基本的な考え方などを、先生方で共有するという意味です。
現在の学習指導要領では、コンピュータを活用した指導の充実が強調されています。小学校では、児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しむ学習活動をより充実させ、各教科の授業で有効に活用することになっています。中学校では、各教科などの指導で、生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用できる学習活動に努めること、特に「技術・家庭科」では「情報とコンピュータ」の学習が必修となっています。この学習では、マルチメディアの活用からプログラム作成までができるようにと書かれています。しかし現在、全国の中学校すべてでそうした教育が行われているかどうかは疑問です(学習指導要領の是非はここでは触れません)。
求む!体質改善
どの世界でも同じかもしれませんが、パソコンをうまく利用できるかどうかは、“若手”の活用にかかっています。若い先生は個人でもパソコンやインターネットに慣れ親しんでいるようです。発想が柔軟な先生が多いですし、学校業務の効率化などに関しても、問題意識を持っている先生が多いようです。実は、こうした先生の多くは、学校で「パソコン担当」などの“学校事務”を避けるために学校ではパソコンに触らないようにしていたり、「パソコン担当」の先生に遠慮して意見をいわないこともあるようなのです。できればこうした“埋もれた”先生方を抜てきして、学校やパソコンルームの利用方法、受け持ちの教科などにこだわらず、パソコンを活用した指導方法などをいろいろと検討していただきたいものです。
日本の教育現場に必要な施策は
重要なことは、上でも触れた学校業務の効率化です。学校の先生の仕事は、授業以外にも本当に多くの業務があります。こうした業務効率を改善すること(これは、通常の会社と変わらないはずです)で、授業そのもの、また授業の準備などに時間を取れるような環境を作る必要があると思うのです。それによって、より質の高い授業が可能であるのなら、考えるべきだと思います。
今回紹介した調査からは、児童・生徒1人当たりのパソコン台数、インターネットに接続しているパソコンの台数、マルチメディアパソコンの台数など、多くのデータが分かります。毎年の調査を追うと、たいていの数字は改善しています。しかし、すでに触れたように、教育現場とのギャップは大きくなっているように思えます。調査結果だけを見ると、学校にはまだまだパソコンが必要で、インターネットに接続する環境が必要で、LAN環境も必要で、多くの周辺機器も必要かもしれません。
もちろん、それも重要なことでしょう。しかし、最も重要なことではありません。重要なのは、それをどう活用して授業に生かせるかにあります。紙の上だけの調査と陳情によって、国家や自治体の予算を使うのではなく、実態調査とその改善方法を、専門家に任せてみた方がいいのではないでしょうか。すべての教育は国、地方で行う。確かにそれも大切なことかもしれません。しかし、現状の教育現場を見る機会がある私には、そんな悠長なことをいっていられないように思えるのです。さまざまな専門家を集め、その英知を結集して、事に当たる必要があると思います。
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