自分戦略研究所 | 自分戦略研究室 | キャリア実現研究室 | スキル創造研究室 | コミュニティ活動支援室 | エンジニアライフ | ITトレメ | 転職サーチ | 派遣Plus |

ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”

第6回 正しい行いは将来を変える

野村隆(eLeader主催)
2005/8/18


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

ちょっとした善いこと

 日々の生活の中でちょっとした善いことをすると、それが自分に返ってくるという経験はありませんか。

 例えば、車で道を走っているとき、右折待ちの車を先に行かせることがあるでしょう。右折を譲っていると、自分が右折しようとして待っているときに、不思議とほかの車が道を譲ってくれることが多いように思いませんか。

 また、皆さんは最近、エレベーターで「開」ボタンを押して先に人を通してあげましたか。日本では、偉そうにしているオジサンがわれ先にエレベーターから降ります。アメリカではレディーファーストが浸透しているので、そういう人を見ると個人的に、結構寂しい気持ちになります。

 エレベーターで「開」ボタンを押して人が降りるのを待つくらいは何でもないことですが、こういうちょっとした善いことをして「ありがとう」といわれると、自分が良い気持ちになります。こういう日は経験上、何かと仕事でもラッキーなことが多いような気がします。

 公共交通機関で、お年寄りや妊婦に席を譲るのは当たり前といえば当たり前ですが、こういうことをした日も、何かとラッキーなことが多いような気がします。

 このように、別に誰に自慢するというわけでもなく、人知れず善いことをすると、巡り巡って自分自身が改善されるのではないでしょうか。

情けは人のためならず

 『陰隲(いんしつ)録』という中国の古典では、この考え方を「運命/立命」「積善/改過」「陰徳を積む」という言葉を使って以下のようにまとめています。

  • 人の運命は、おのずと決まっている
  • ただし善行を積み(「積善」)自分の過ちを改善する(「改過」)ことにより、自分の運命を変えることができる
  • このように自助努力で運命を変えることを「立命」という
  • 人知れず、陰ながら善行・徳を積む、「陰徳を積む」ことで、自分の人生を良い方向に変えることができる

 相当端折ってまとめていますので、これが『陰隲録』の正しい説明かというとちょっと怪しいですが、ここでいいたいことは上記の点です。「陰徳を積む」ことで、自分自身が改善されるということです。日本のことわざでいえば「情けは人のためならず」ですよね。

 「情けは人のためならず」とは、「情け(善いこと)を他人に施しても意味がないからやらない」という意味ではないですよ。よくこう誤解している人がいます。「情けは他人のために他人に施すわけではなく、最終的に自分のためになるから、他人に施すのだ」という意味です。

自分のスキルを人に伝える

 このような考え方を、プロジェクトに限らず実際の仕事に当てはめると以下のようになるでしょう。

 「共に働く人に自分のスキル・経験を伝えましょう」

 システム開発のプロジェクトでは、スキル・経験がある程度必要とされます。仕事の局面によっては、スキル・経験の有無で仕事の出来・不出来が大きく変わります。要は、知っている人は仕事が早いし、知らない人は遅い、という局面があります。

 こういう状況では、スキル・経験がある人は、プロジェクト全体を考えれば、自分の持っているスキル・経験をほかのメンバーにも広め、伝えるべきです。そうすることでプロジェクト全体の生産性が上がり、プロジェクトの成功につながります。

 残念ながら、スキル・経験をほかのメンバーに広め、伝えることをしない人がいます。こういう人は、自分自身のスキル・経験がほかのメンバーに広がってしまうと、ほかのメンバーとの差別化ができず、相対的に自分の評価が下がると思うようです。

 非常に残念ですね。こういう人は、ほかのメンバーにスキル・経験を伝えることでプロジェクトに貢献する、という発想がないのでしょう。さらにいうと、自分のスキル・経験を人に教えることは自分自身の中でスキル・経験を再確認し、しっかりと定着化させることができるということに気付いていないのでしょう。人に何かを教えるという行為を通じて得をするのは、教わる人ではなくむしろ教える人であるということが理解できないのでしょう。

 ほかのメンバーに自分の持っているスキル・経験を伝えるという善行を積む(「積善」)べきです。そうすることで自分自身も変わり、高く評価され、自分の将来が良い方向に向かうということに気付くべきです。

正しいことをする

 「楽をしたいと思ったときにも正しいことをしましょう」

 仕事をしていると、「楽したいなあ、手を抜きたいなあ」という衝動に駆られることがあるでしょう。人間は弱い存在なので、こういう誘惑に駆られることは誰にでもあります。

 例えば、以下のような場合でしょうか。

 プログラム設計書に設計ミスを見つけた。修正自体に結構工数がかかるし、変更による影響範囲を調査するとなると、ほかのチームにも影響調査を依頼しなくてはならず、数日はかかる。設計書の納期は明日だ。設計ミスには誰も気付かないだろうから、後工程の開発段階で修正すればいい。今日のところはこのままにしておこう。

 プログラムを開発しているが、どうしても納期までに完成しない。先週の報告で進ちょくに問題なしといってしまった手前、いまさら遅れましたともいえない。主要な機能は開発したから、例外処理の一部くらいなくても動くには動く。どうせバレないから一部開発せずに納品しよう。

 プログラムのテストをしているが、不具合(バグ)が取り切れない。並行で作業しているほかのチームは不具合を順次解消しているのに、私のチームは不具合が毎週増加している。このままでは、後工程の統合テストに間に合わない。不具合解消済みとうその報告をしてもバレないだろうから、後工程の統合テストで不具合を直せばいいだろう。今週はオンスケジュールと報告してごまかそう。

 上記の例のいずれも、「その当時は気付きませんでした」とか「担当者からの報告ではオンスケジュールだったのですが、私の注意が足らず……」などと、うそでうそを塗り固めるようないい訳をすることも簡単です。

 楽をしたいという誘惑に駆られるだけでなく、実際に不正なことをしてしまう人は「誰でもやっていることだ。どうせバレないからやってしまえ」とでも思っているのでしょうか。実に寂しい気持ちがします。こういう人には、「積善」「改過」という考え方がないのでしょう。

 自分にうそをつくことはできません。このような手抜きに慣れてしまうと、最終的には自分自身を律することができなくなります。

 あくまでも自分のために、自分の将来のために、いまがつらくても正しいことをしようという考え方が重要です。このような行為の積み重ねが、ひいては自分の将来を変える「立命」につながるのです。

善いことは自分に返ってくる

 以上をまとめると、「正しいことをしていれば必ず自分に返ってくる」といえます。

 私自身、プロジェクトで自我の強い人を多く見ます。こういう人は「われ先に」「私が一番!」というトーンで話をします。上記で紹介した「陰徳を積む」という考え方に照らすと、こういう方々は自我が強すぎ、みっともないと思います。

 「陰徳を積む」ことがプロジェクトの成功につながることを理解し、少しずつ善行を積み(「積善」)、自分の過ちを改善する(「改過」)よう心掛けましょう。そうすることで、最終的に、皆さん1人ひとりの将来が良い方向に変わる、ということを理解してください。

筆者プロフィール
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイトも運営。
自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。