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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”

第10回 正しいことをし、行動力を発揮するココロ

野村隆(eLeader主催)
2005/12/22

3つの「識」

 考え方を変えて、もう少しココロの重要性を考えましょう。

 この連載で何回か紹介している安岡正篤氏の考え方を引用します。彼の著書『佐藤一斎「重職心得箇条」を読む』(致知出版社刊)に、以下のくだりがあります。

 知識というものはごく初歩というか、一番手近なもので、知識がいくらあっても見識というものにはなりません。見識というのは判断力です。見識がたたないとどうも物事は決まらない。見識の次に実行という段になると、肝っ玉というものが必要となる。これは実行力です。これを胆識と申します。知識、見識、胆識、これが「識」というものの三つの大事なことです。

 知識・見識・胆識について、私なりに整理させてください。

 ここでいう知識とは、知っていることですね。単に知っているか知らないかという単純なレベルです。見識のレベルになると、知識の積み重ねから総合的な判断を下すことができます。胆識のレベルでは、見識に基づいて判断したことを実行に移せる、行動力をもって実現できるということと理解しています。

 SIプロジェクトにこの考え方を当てはめましょう。

 知識とは、例えばOracleを知っている、SAPを知っている、ネットワークを知っているというレベルです。知識はSIプロジェクトではとても重要です。知識のない人をいくら採用してもプロジェクトは機能しません。ただし、この連載で繰り返し説明しているように、知識がある人だけが集まっても、プロジェクトはうまく機能しないです。

 見識は、私の理解では、知識の集積から出てくる判断力ですね。

 TCP/IPの知識、ルータのアクセスリスト(ポート番号やIPアドレスを使って経路をスクリーニングする)の知識、UNIXで使われるポート番号の知識、アプリケーションのポート番号の知識(Oracleは1521番など)、開発環境・テスト環境・本番環境のセキュリティレベルの知識などは、上記の知識のレベルです。

 これらの知識をすべて理解して初めて、開発環境のネットワークのセキュリティを設計することができますよね。開発環境からテスト環境ではOracleの1521番を通すアクセスリストをルータに設定するが、本番環境には1521番ではアクセスさせないなどのルールを決めることができます。

 ほかの例として、Webアプリケーションのトランザクション管理のポリシーを理解するには、Webブラウザから発信されるHTTPの特性、HTTPを受けるWebサーバ(Apacheなど)の処理特性、Webアプリケーションサーバ(Tomcatなど)のトランザクション管理の処理方式、Oracleのトランザクションの考え方、OracleのRedoログと耐障害性の考え方などさまざまな知識が必要です。それらの知識の集合体として、Webアプリケーションのトランザクション管理ポリシーを決定することができます。

 つまり見識は、知識の集大成を基に総合的な判断をすることと理解しています。

 IT業界での役割分担を考えると、プログラマとかSEと呼ばれる人がだいたい知識のレベルで仕事をし、上級SEとかITコンサルタントと呼ばれる人が見識のレベルで仕事をしていると、私は理解しています。

プロジェクトマネージャに必要な「胆識」

 では胆識は、IT業界ではどのように当てはまるのでしょうか。

 思うに、胆識こそプロジェクトマネージャが持つべき考え方です。プログラマやSEが知識のレベルで仕事をし、上級SEやITコンサルタントが見識のレベルで仕事をするのと同様に、プロジェクトマネージャは胆識のレベルで仕事をするべきなのです。

 胆識とは、安岡正篤氏が「見識の次に実行という段になると、肝っ玉というものが必要となる。これは実行力です。これを胆識と申します」と書いているとおり、実際に行動して、遂行することです。

 SIプロジェクトに当てはめると、知識レベルのことをSEやプログラマが考え、見識レベルのことを上級SEやITコンサルタントが判断します。具体的には、知識レベルで実装の仕様を決定し、見識レベルでこうすればシステム全体は動くという判断をします。つまり現場の仕事は知識・見識のレベルで終わってしまうと私は考えます。

 ただ、現実のシステム開発プロジェクトでは、こうすれば実装できるというところまで煮詰まっても、その実装仕様が実現されないことがあるのです。

 例えば、購買部門の担当者の承認を得ないと実装に必要なパッケージソフトが購入できない、外部システム接続の仕様決定の過程で、実装しなくてはいけない仕様を先方のシステムとこちらのシステムのどちらが実装するかでもめる、契約書上グレーゾーンになっている作業について協力会社間で争いになり、やらなくてはいけないことが放置されるなどなど。

 これらの問題を解決するには、責任を持って意思決定し、行動力を持って仕事を前に進める意識とでもいうべきものが必要です。これが胆識だと私は理解しています。

 このように行動力を発揮して実現させる気持ち、心構えは、リーダーシップトライアングルでいうところのココロです。従って、ココロはリーダーシップを発揮するにあたって必要な条件であると思います。

 前回「ソフトウェアは目に見えない」の最後で、以下のように書きました。

 確かに道具は大事です。大工さんが道具としてのノコギリとかカナヅチ(現在の建築工法でノコギリとカナヅチを使っているかは分かりませんが)を知らないで大工さんではあり得ないのと同様です。SIプロジェクトの管理者・リーダーとして、道具としてのCMM、PMBOKを理解していないわけにはいきません。

 ただ、道具をよく知っていても、使う人が魂を入れなければ意味がないと私は考えます。魂、ココロ、つまりリーダーシップトライアングルでいうところの「Love」が大事なのです。いい方を換えると、道具の使い方は連載第1回での「Howの軸」に当たります。「Whyの軸」、つまりなぜ道具を使うのかを正しく把握するには、ココロの要素が重要となるのです。

 「楽をしたいと思ったときにも正しいことをしましょう」という考え方、「胆識」のレベルの仕事という考え方、つまりリーダーシップトライアングルでいうLove、ココロの力がなければ、前回の連載でいうところのCMM、PMBOKといった「道具」が生きないのです。

 Love、ココロ、仁愛があって初めてリーダーがリーダーたり得ること、リーダーシップの必要条件がそろうことがご理解いただけたと思います。

 リーダーシップトライアングル本体に関する説明は今回でおしまいにします。ただリーダーシップトライアングルには、実は周辺3要素というものがあります。次回はこの周辺3要素を解説する予定です。ご期待ください。

 私が主催するブログサイトはリーダーシップトライアングルの構成要素、Communication/Vision/Management/Loveによってトピックが分類されています。興味のある方は参照してくださるとご理解が深まるかと思います。サイトトップページの右上に分類が表示されています。

 

今回のインデックス
 ITエンジニアを続けるうえでのヒント(10) (1ページ)
 ITエンジニアを続けるうえでのヒント(10) (2ページ)

筆者プロフィール
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイトも運営。


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