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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”

第12回 「見える化」だけでは見えないもの

野村隆(eLeader主催)
2006/2/23

「見える化」の落とし穴

 「見える化」に成功したら、担当者が感想文を朗読するレベルの進ちょく会議は卒業です。そういうレベルに慣れている人にとってはつらい取り組みかもしれませんが、システム開発プロジェクトでは、アプリケーションプログラムという目に見えにくい性質を持つものを取り扱っているので、「見える化」は管理上重要なのです。

 感想文の朗読レベルを卒業して、「見える化」に成功したプロジェクトマネージャは、管理の質が大幅に向上したと思っていいでしょう。

 でも、ここで忘れてはいけないのは、過度に「見える化」に固執し、数字にこだわりすぎてしまってはいけないということです。

 数値化された情報の収集に固執するプロジェクトマネージャは、数字以外の情報に興味を示さなくなります。極端な場合、プロジェクトマネージャが、部下のサブリーダークラスの人を呼び出して、以下のようにいいます。

  • とにかく数字を持ってこい。数字はうそをつかない。
  • 数字を持ってくるのがおまえの仕事だ。
  • 遅れの報告なんて聞きたくない。
  • オンスケジュールか前倒しで終わったという報告の数字以外、おまえから報告は聞かない。

 何だか人間味がないし、極端だと思いませんか?

 ここで思い出していただきたいのが、冒頭の軍隊における高級な情報の話です。

「見える化」だけでは見えないもの

 上記の「見える化」は、あくまでも進ちょく状況を数値化しただけのものです。軍隊の状況報告でいえば、兵力や火力といった基礎情報に当たります。確かにこのような基礎情報がなければ、戦争であろうがプロジェクト管理であろうが勝つことは困難です。つまり必要不可欠な情報です。

 しかしそれに加えて、軍隊の状況報告でより大事であり、高級とされていた情報に当たるものを考えることが重要なのです。

 システム開発プロジェクトに、この高級な情報の考え方を応用しましょう。例えば以下のような視点で考えます。

  • お客さまはわれわれの仕事に満足しているか。満足していないならば、それはなぜか。
  • 協力会社間の関係は円滑か。円滑でないのであれば、それはなぜか。
  • 自社の開発スタッフの士気はどうか。低いのであれば、それはなぜか。

 お客さま、協力会社、自社のスタッフの気持ち・やる気というような項目は、「見える化」された報告から見ることは困難です。スタッフのやる気が低下した結果として進ちょく状況が悪くなるという可能性はありますが、数字だけを見て、スタッフのやる気の低下が原因であるとは特定できません。

 つまり数字だけに依存せず、数字以外のことにもっと気を配ることが大切なのです。進ちょく管理指標の数字を定義して「見える化」の仕組みが出来上がったからといって、その仕組みに安住せず、お客さまやプロジェクトの参加メンバーの気持ちを考えることが重要だということです。

プロジェクトマネージャとしての心得

 今回の内容をまとめましょう。

 「見える化」する、プロジェクトの進ちょく状況を数字で把握することは必要なことであり、大事なことです。進ちょく報告会が担当者の愚痴や感想を述べて終わってしまうのでは、あまりにお粗末です。

 しかし、ただ数字だけを追いかける人になってしまっては、プロジェクト運営を見誤ってしまいます。お客さまの気持ち、協力会社の立場、スタッフの士気といった、数字には表れない要素も大事にするプロジェクトマネージャでありたいものです。

 数字だけを求めている人は、軍隊でどういう情報を上質としていたかをよく考えていただきたいのです。

 数字の裏にある情報まで心を回す。

 そういうコミュニケーションができ、マネジメントのできるプロジェクトマネージャを目指したい、と思います。

 

今回のインデックス
 ITエンジニアを続けるうえでのヒント(12) (1ページ)
 ITエンジニアを続けるうえでのヒント(12) (2ページ)

筆者プロフィール
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイトも運営。


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