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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”

第15回 困難に立ち向かうリーダー、逃げるリーダー

野村隆(eLeader主催)
2006/6/15


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

リーダーシップトライアングルにおける位置付け

 この連載では、システム開発プロジェクトにおけるリーダーシップを中心に「私の視点=私点」を皆さんにお届けしています。

 今回の内容は、リーダーシップトライアングルのLoveとCommunicationに関係しています。Loveについては、第10回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」を、Communicationについては、第8回「コミュニケーションはリーダーシップの基礎」を、それぞれ参照いただければと思います。

図1 リーダーシップトライアングル。今回は「Love」(ココロ)と「Communication」に関連する内容について解説する

八風吹けども動ぜず天辺の月

 「八風吹けども動ぜず天辺の月」という禅の言葉があります。

 八風とは、人の心を動揺させる8つの要素のことです。具体的には、利、衰、毀(き)、誉、称、譏(ぎ)、苦、楽の8要素のことです。

 利・衰とは、利益を得ること・失うこと。
 毀・誉とは、陰に隠れてそしること・ほめること。
 称・譏とは、面と向かってほめること・そしること。
 苦・楽とは、文字どおり、苦しいこと、楽しいこと。

 苦しいことはもちろん、楽しいことも慢心や放漫を生み、結果として人の心を動揺させます。「八風吹けども動ぜず天辺の月」とは、このような要素にいちいち動ぜず、しっかりした心の根を張るということに留意すれば、八風が吹いても動揺しない天の月のようなココロを持ち得ることと理解しています。

 日々忙しく働くITエンジニアの皆さんは、このような心の持ちようについて考えることを忘れがちです。技術や日々の業務に追い立てられて、忙しいからという理由で心の持ちようを考えずにいると、心の動揺が抑制できず、技術の習得や日々の業務に身が入りません。かえって効率が悪くなり、忙しくなる悪循環に陥ります。

 今回は「八風吹けども動ぜず天辺の月」という禅の言葉を中心に、心の根をしっかりと張ることの大切さを説明します。

自分の志で行動できない人

 第10回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」では、万引きを是認してしまう親子を引き合いに出し、正しいことをする強いココロを持ちましょうと説明しました。

 強いココロを持つということは、しっかりとした自分の意思を持つこと、つまり自分の志で行動するという考え方につながります。

 自分の志で行動するという考え方を分かりやすく説明するために、あえて対極の考え方を持つ人を紹介しましょう。対極の人とは、自分の志で行動できない人です。具体的には何でも他人のせいにする人、責任逃れをする人、常にいい訳を見つけるためにきゅうきゅうとしている人です。

 自分の意思で行動できない人を、具体的な例を挙げて説明しましょう。

 例えば、「目標数値(金額)を定めてコストダウンをする」と経営陣にコミットメント(約束)を表明したプロジェクトリーダーがいるとします。

 このプロジェクトリーダーが自分の志で行動できない人であれば、次のようになるでしょう。

目標を達成できない場合:
  プロジェクトリーダーは、周囲の人たちに無理、むちゃを強いて混乱を引き起こします。自分の部下や同僚は当然のこと、取引先、協力会社にも迷惑を掛けます。一言「すみません、お約束を守ることができません」と経営陣に理由を付けて報告し、責任を取れば済むのに、責任を取らされるのがイヤだから、周りに迷惑を掛け続けます。

 もちろん、「ちょっとやってみたけどダメでした」という腰抜けではいけませんが、ビジネスは環境によっていくらでもチャンスがピンチになりますし、リスクのないビジネスはありません。このプロジェクトリーダーが「これ以上コストダウンのコミットメントを深追いしても数字を達成することはできないし、ほかに注力すべきことがある」という報告をし、理由をきちんと説明すればいいのです。経営陣がまっとうな神経の持ち主であれば、この説明を聞き入れるでしょう。

 最悪の場合、このプロジェクトリーダーのような自分の志で行動しない人は、報告の数字をねつ造してごまかしたり、自分の任期の数字を水増しして後任の人に迷惑を掛けたりと、自分のことしか考えない行動に走ります。

 これでは、自分の志で事を成すという考え方からは程遠い、自分勝手な人といえます。

目標を達成できる場合:
  自分の志で行動をしない人は、いったん目標を達成するとあっさり手を抜きます。さらなる数字の積み上げをしません。どんどんやれば目標以上のコストダウンができるチャンスなのに、意図的に手を緩めます。

 なぜなら、「コミットメントを果たしたら、それ以上の成果を出しても自分の将来のキャリアや給料には影響がない」という打算が先にはたらくからです。会社のために、自社の商品を購入するお客さまのために、もっとコストダウンしようなんて考えていません。

 自分のコミットメントが達成されれば、平気で手を抜く。これでは志も何もありません。

   

今回のインデックス
 ITエンジニアを続けるうえでのヒント(15) (1ページ)
 ITエンジニアを続けるうえでのヒント(15) (2ページ)

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