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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”


第19回 プロジェクト運営で重要な「リアリティ」とは

野村隆(eLeader主催)
2006/10/17


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

リーダーシップトライアングルにおける位置付け

 この連載では、システム開発プロジェクトにおけるリーダーシップを中心に、「私の視点=私点」を皆さんにお届けしています。

 今回の内容は、リーダーシップトライアングルのLove/Communication関係します。Loveについては第10回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」を、Communicationについては第8回「コミュニケーションはリーダーシップの基礎」を、それぞれ参照いただければと思います。

図1 リーダーシップトライアングル。今回は「Love」(ココロ)、「Communication」に関連する内容について解説する

難しい人を説得できずに遅れが発生しました

 私の経験ですが、ある日の進ちょく報告会での出来事です。ある会社が管理するチームがスケジュールより遅延してしまったという状況でした。プロジェクトで遅延が発生すると余計なコストが掛かり、当然のことながらほかのチームにも迷惑が掛かります。そのため、遅れが発生したときには、責任者は責任ある発言を求められます。

 しかし、このプロジェクトで遅れを生じさせたチームのリーダー(以下Aさん)は次のようにいいました。

「現在対応しているアプリケーション領域の担当者のお客さんはウルサ型、というか、説得するのに難しい人です。皆さん、ご存じですよね」

「このような説得の難しい人に理解と納得をしてもらってチームの作業をスケジュールどおりに進めるのは、基本的にできません」

「ですから、今回の遅延はやむを得ないと考えています」

 皆さんにはこのような発言はどう映るでしょうか。

 私には、遅延発生を他人のせいにしている無責任な発言にしか見えません。説得の難しい人を説得してスケジュールどおりに推進するのが、チームを任されたリーダーであるAさんの責務です。

 確かに、説得するのが困難なお客さんがメンバーに加わったチームの運営は難しいです。しかし、リーダーに自分の責任でチームをスケジュールどおりに進める意思があれば、「説得に失敗しました、申し訳ございません」という趣旨の発言があって当然でしょう。

何をいっても怒る人

 続いても私の経験の話です。私が若手マネージャのころのことなのでもう5年以上前です。あるお客さん(以下Bさん)に、プロジェクトの作業の状況説明をしていました。具体的な説明内容はここでは割愛しますが、何をどう説明してもBさんは理解してくれません。打ち合わせの最初に浮かんだ疑念が、頭を離れないようです。

 私の説明も下手だったのかもしれませんが、どんなに説明してもBさんは納得しません。Bさんの発言に真摯(しんし)に回答しているつもりなのですが、Bさんは一切こちらのいい分を聞く耳を持ちません。

 Bさんは最後に怒鳴りちらして席を立ちました。去り際に、「お前、ニヤニヤしてんじゃねぇぞ!」とすごんで帰っていきました。私はできるだけにこやかにと思って、笑顔を絶やさないようにしていたのですが、逆効果だったようです。

 打ち合わせが終わった後、同席した先輩に「Bさんを説得できず申し訳ないです。私、ニヤニヤしていましたかね」と聞いたところ、「Bさんは文句をいうのが趣味だから。怒って相手を威圧して、何か譲歩を引き出そうとするのさ。仮に君が笑っていなかったら、『仏頂面で話しするんじゃねぇ』といっただろうね。相手を威圧する理不尽なテクニックだけで生きているような人だから。気にする必要はないよ」といわれ、ちょっと気が晴れた思い出があります。

人それぞれの「現実」を理解する

 無責任なチームリーダーのAさん、理屈抜きで怒るBさん、どちらの態度もプロジェクト遂行上問題があります。簡単にいうと、どちらもコストに対する意識が低いということです。Aさんのように、いい訳を見つけては遅れを正当化する人がチームリーダーでは、コスト超過に向かって一直線です。また、Bさんのように怒鳴って威張ってということを繰り返す人がプロジェクトにいると、合意形成に時間がかかり、プロジェクト推進の足かせになります。

 ここで、なぜAさんやBさんはこういったプロジェクトの障害となる行為をするのかを考えてみましょう。

 私は彼らの「現実(Reality、以下リアリティ)」がそうさせると考えています。ここでいう「リアリティ」とは、その人にとっての現実や真実、経験に基づく正しいことと理解してください。日本語の「現実」というよりも、英語の“Reality”の方が語感としては正しいでしょう。

 具体的に見ましょう。

 Aさんにとっての「リアリティ」は、「いい訳を見つければ免責される」ということでしょう。または、面倒なことを起こしたくないという気持ち。つまり、説得が難しい人を説得するという面倒を避け、何とか帳尻を合わせたいという合意形成重視の考え方かもしれません。

 一方、Bさんにとっての「リアリティ」は、「偉そうにして相手に怒鳴り散らす自分が可愛い」という自己愛のようなプライドが最も大切であるというものかもしれません。または、自分にプロジェクト遂行上何らかの必要なスキル・経験がなく、怒鳴り散らすことでしかプロジェクトにおける自分の存在を確認できないという、内にこもった不満・不安があるのかもしれません。

   

今回のインデックス
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