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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”


第21回 石につまずいて怒りますか?

野村隆(eLeader主催)
2006/12/22


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

リーダーシップトライアングルにおける位置付け

 この連載では、システム開発プロジェクトにおけるリーダーシップを中心に、「私の視点=私点」を皆さんにお届けしています。

 今回の内容は、リーダーシップトライアングルの中心であるLoveに関係します。Loveについては、第10回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」を参照いただければと思います。

図1 リーダーシップトライアングル。今回は「Love」(ココロ)に関連する内容について解説する

あるリーダーのコメント

 ある会議で私が経験したことを紹介します。大規模プロジェクトの設計・開発の契約書における作業スコープを決める会議に出席しました。ご存じの方もいると思いますが、作業スコープの定義によって作業のボリュームが決定し、それがプロジェクトの契約金額に直結します。そのため、会議は真剣そのものでした。その会議で私は偶然お客さま側のプロジェクトリーダーの隣に座りました。

 会議が進行し、私の担当領域の作業スコープの説明をすることになりました。作業スコープの説明の後、各種質問を受けました。細かい内容は割愛しますが、私の担当領域の作業で進ちょくが遅れたり、作業成果物に問題があったりしたときに誰の責任となるかという質問に私は、「私の責任となります」という受け答えを何度かしました。

 一通り私の担当領域の説明が終わったところで、私の隣に座っていたプロジェクトリーダーの方が、「『私の責任』とはいわない方がいい」というコメントを私にされました。このプロジェクトリーダーは、お客さま側のプロジェクトの責任者で役員クラスの人でした。すごい人なのだろうなあとおぼろげながら尊敬の念を持っていましたが、この一言で結構失望したことを覚えています。

自ら反(かえ)る人

 私がこのリーダーに失望した理由、それは「リーダーとして責任を持って仕事をする」という考え方を持っていないのではと考えたからです。

 ここで、連載第4回「現場で学び、将来への不安を減らす」でも引用した、安岡正篤氏の著書『照心語録』(致知出版社刊)から一部を抜粋します。

道を歩いていると石につまずく。面白いのはその反応の仕方で、人により千差万別だ。自己の迂闊を反省する者、石に腹を立てる者、果ては石をそこに置いた人間を恨む者まである。日常の一小事だが、ここで自分を反省するか否かが、その人の人生を大きく左右する。事の大小を問わず、常に自ら反る人にして真に人物として成長するものだ。

 ここでいう自ら反る人とは、石につまずいたとき、自分のうかつさを反省するという謙虚な気持ちを常に持って自己研さんする人だといえるでしょう。このように自分に対して常に反省する心掛けのある人は、目の前で起きた障害や困難、問題を自分のこととして考え、責任を持って解決するという責任感のある行動を取る人だと理解しております。

責任を取らない人

 一方で、自ら反ることのできない人、石につまずいた例にあるように、「石に腹を立てる者、果ては石をそこに置いた人間を恨む者」。こういう人は、常に自分を正当化する傾向にあります。

 「私は生産性がほかのプログラマと比べて低いが、私のせいではない。プログラミングの研修やトレーニングを受けさせない上司のせいだ」「現在、私のチームは進ちょくが遅れているが、私のチームは悪くない。ほかのチームが足を引っ張ったからだ」

 このようなことをいう人に会うたび、私は怒りを通り越して、かわいそうだと思います。たしかに、問題の原因は彼らのいうとおりなのかもしれません。しかし、こういういい方やものの考え方はないでしょうと思うわけです。

 自分が十分な研修を受けていない状況であっても、ほかのプログラマに追い付くよう自力で努力する。自分のチームの進ちょくに遅れが出ないように先手を打って、ほかのチームが自分のチームの足を引っ張らないように努力する。こういう姿勢がない場合、ほかの人のせいにして常に逃げ回って済むうちはよいですが、一定規模の組織のリーダーとなったら、逃げ回るわけにはいきません。いつか馬脚を現すこととなります。

 なぜかというと、大きな組織を率いるリーダーになれば、必ず責任を問われるからです。結果としてうまくいかなかったとき、誰かのせいにすることばかり考えているようでは、リーダーとして失格です。自分の目の前の課題を自分の責任でまっとうするという考え方に基づいて行動する人、つまり「自ら反る人」がリーダーとして望ましい姿といえます。

謙虚に自らを省みる

 「自ら反る人」の補足として、「論語」にある以下の言葉を引用します。

曽子曰く、吾日に吾が身を三省(さんせい)す。
人の為に謀りて忠ならざるか。
朋友と交りて信ならざるか。
習わざるを伝うるか。

 この言葉を私なりに解釈すると、「私は毎日何度となく自分の行いを反省する。例えば、人のためにと思っていても、私心がなかっただろうか。友達との交際で、信頼を裏切らなかっただろうか。知りもしないくせに、知ったかぶりしていなかっただろうか」という意味です。

 「自ら反る」つまり、責任感を持って行動するに当たり、自分の行動を反省する視点として示唆に富んでおります。「自ら反る」「日に三省す」こういう行動を通じて、謙虚に自分を研さんし、責任ある行動を取り、プロジェクトを推進するリーダーを目指しましょう。

筆者プロフィール
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイト人材派遣情報サイトも運営。



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