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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”


第23回 最近、あなたは職場で人を褒めましたか?

野村隆(eLeader主催)
2007/2/13


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

リーダーシップトライアングルにおける位置付け

 この連載では、システム開発プロジェクトにおけるリーダーシップを中心に、「私の視点=私点」を皆さんにお届けしています。

 今回の内容は、リーダーシップトライアングルのLoveとManagementに関係します。Loveについては、第10回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」を、Managementについては、第9回「ソフトウェアは目に見えない」を、それぞれ参照いただければと思います。

図1 リーダーシップトライアングル。今回は「Love」(ココロ)、「Management」に関連する内容について解説する

Teach them how to fish

 前回、“Teach them how to fish”という考え方を紹介しました。これは、本連載の主眼であるプロジェクトマネージャの視点のみならず、プロジェクトのリーダー格の人にとって、プロジェクト運営を考えるうえで非常に重要な考え方であると思っています。

 前回に引き続き今回も、“Teach them how to fish”という考え方について解説しましょう。

 前回のおさらいから始めましょう。

 空腹の人に魚を与えると腹は満たされますが、魚を食べてしまったらそれでおしまい。空腹に逆戻りです。しかし、魚釣りのやり方を教えてあげたらどうでしょうか。釣りを教わった人は、継続して魚を得る方法を知るのですから、空腹に逆戻りすることはありません。

パッケージソフトの研修は「魚を与える」取り組み

 ここで、“Teach them how to fish”の意味を考えるために、前回でも用いたパッケージソフトの研修を考えましょう。

 あるパッケージソフトの研修を受け、スキルを身に付ければそのパッケージソフトを活用するプロジェクトで活躍することができます。パッケージソフトのスキルがないよりはあった方がずっといいですし、その場の不足を補うことができます。つまり、研修を受けるとハンズオンのスキルが身に付き、即効性があります。客観的で分かりやすい効果があるので本人も満足するでしょうし、スキルアップしたことで、周囲からの評価も上がるでしょう。

 しかし、パッケージソフトの研修をしたからといって、永遠にスキル不足から逃れることはできません。例えば、SAPを使うプロジェクトに配属され、SAPの研修を受ける。でも、次にSiebelを使うプロジェクトに配属されたら、またSiebelの研修を受けなくてはなりません。

 これでは、対症療法を繰り返しているだけで、いつまでたっても不足に悩まされます。

 “Teach them how to fish”という考え方・視点からすれば、パッケージソフトの研修は魚を与えることであり、魚釣りを教える取り組みとはいえないのではと私は考えます。

 前回、「魚釣りを教える」とは、目先の利益になることを教えるのではなく、長期的に利益になることを教えることだと解説しました。そして「意欲」を学ぶことの重要性を説明しました。

山本五十六氏の語録

 “Teach them how to fish”という考え方を実際の仕事で生かすために、念頭に置きたいことがあります。旧日本海軍の連合艦隊司令長官であった山本五十六氏は以下のような言葉を遺しているといわれます。

「やってみせて いって聞かせて やらせてみて ほめてやらねば 人は動かず」

 経営者をはじめとする多くのリーダーが好んで援用する言葉ですので、過去に聞かれた方も多いかもしれません。この言葉から、“Teach them how to fish”の“Teach”、つまり教えるときに重要なことを考えていきましょう。

「やってみせて いって聞かせて」までは、たいてい、指導できる

 「やってみせて いって聞かせて やらせてみて ほめてやらねば 人は動かず」

 この言葉を順を追ってみていきましょう。

 IT業界では、この言葉の後半にある「やらせてみて」と「ほめて」あげることがなかなかできない人を多く見掛けます。具体的な例として、システムの設計書を作成するときに、上司が部下を教える場合を考えてみましょう。

 まず「やってみせて」という段階。部下とともに上司が設計書を書いてみる。上司が作成した設計書を参考までに部下に与える。こういうことは、たいていの人はできます。

 次に「いって聞かせて」という段階。オンライン画面処理のCommit/Rollbackといった設計書を書くときの注意事項を教える。DB I/Oにおけるパフォーマンス上の懸念であるテーブルのJoinでの効率的な設計方法を教える。設計で注意すべき点をまとめて標準的な作業工程を定義し、設計標準文書として配布する。こういった指導も、たいていの人はできます。

「褒める」までいかない人

 しかし、「やらせてみて」の段になると、ちょっと雲行きがあやしくなる人がいます。

 部下に設計書を作成させても、部下の仕事にイチイチ口を出し、はしの上げ下げのような枝葉末節までケチをつける。部下の作業スピードが遅く、イライラしてしまって、部下の仕事を取り上げて結局自分でやってしまう。こういう人は、「やらせてみて」ということができていない人と思います。

 さらに、「ほめてやらねば」の段階になると、ほとんどの人ができません。部下の仕事の品質やスピードに不満をいう。質の悪い設計書をノロノロと作成しているくせに残業もせずに帰宅するという、部下の勤怠に不満を抱く。なかなか難しい面もありますが、このような態度では「褒める」という段階からは程遠いですよね。

「我慢して待つ」ことの重要性

 ではなぜ、「やらせてみて」「ほめてやらねば」ができないのでしょうか。私は、このような人たちは、「我慢して待つ」ことができないので、「やらせてみて」「ほめてやらねば」もできないのだと思います。

 「やらせてみて」「ほめてやらねば」ができない人たちは、部下に完ぺきな仕事を求め、自分の求める高い基準をクリアするように求める傾向があると思います。確かに、作業の品質を高く、スピードを速くということを求めることはいいことです。しかし、過度に品質・速さを求めすぎても、部下はしんどくなってしまいます。

 また、部下の仕事が完ぺきでないと褒めないのでは、部下が不満を持つようになります。さらに、上司の考える完ぺきなやり方を微に入り細に入り部下に教えるようでは、部下の自主性を摘んでしまい、やる気をそいでしまいます。結果として部下は、「上司のいうことを聞いていればよいのですね」という無責任で開き直った態度を取るようになります。

 つまり、上司が過度に口を出し、褒めることができないと、部下が自ら学び、考えることができなくなるわけです。そのため部下が伸びない。しかし、よく考えれば、実は上司自身のせいで部下が伸びていないわけです。このことに気付かずに上司は部下を怒っているのです。

 ちょっとしたことでも褒めてやる度量。もっというと、部下が自分の思いどおりに仕事をしなかった失敗を受け入れる度量が上司に求められると思います。

 少しくらいの失敗は大目に見て「やらせてみる」。ささいなことであっても、良い仕事をしたら「褒めてやる」。こういった姿勢が必要なのでしょう。

「教える」ときに考慮すべきこと

 “Teach them how to fish”に話を戻しましょう。

 “Teach them how to fish”の「教える」において重要なことは、「我慢して待つ」ことです。これができないと、結局、部下の自主性が育成されず、上司である自分が困ることになります。

 プロジェクトリーダーは、プロジェクトを円滑に遂行する責務を負っています。ですから、部下の仕事について、すぐに効果・結果が欲しいという気持ちを持つことは理解できます。プロジェクトは期限・納期が決まっていますので、時間がないので待てないという気持ちも理解できます。

 しかし、よく考えてください。

 部下の仕事を「我慢して待つ」ことの効果を理解しましょう。焦りは禁物です。短期的ではなく長期的に考えて効果的な部下の指導法を考えましょう。

 プロジェクトリーダー、チームリーダーは、人を効果的に指導するのであれば、「褒める」、つまり「我慢して待つ」ことができるようになりましょう。

 一方、教わる部下、プロジェクトメンバーの方にも理解してもらいたいことがあります。プロジェクトメンバーの意向として、手に職を付けたい、即効性があり、客観的に分かりやすいスキル(上記の例では、パッケージソフトの研修によって得られるスキル)を身に付けたいという気持ちは分かります。

 ただ、「魚をもらい続ける人生でよいのか」を考えてほしいのです。

 プロジェクトメンバーは、“Teach them how to fish”という考え方を理解し、魚をもらうよりも、釣りを教わることの方が大切であるということを理解しましょう。

 “Teach them how to fish”という考え方を活用し、プロジェクトリーダー、プロジェクトメンバーが相互に納得のいく、プロジェクトの円滑な運営に役立てていただければと思っております。

筆者プロフィール
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイト人材派遣情報サイトも運営。


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