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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”


第25回 やる気を重視すれば将来は明るい!?

野村隆(eLeader主催)
2007/4/23


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

リーダーシップトライアングルにおける位置付け

 この連載ではシステム開発プロジェクトにおけるリーダーシップを中心に、「私の視点=私点」を皆さんにお届けしています。

 今回の内容は、リーダーシップトライアングルのManagementに関係します。Managementについては、第9回「ソフトウェアは目に見えない」を参照いただければと思います。

図1 リーダーシップトライアングル。今回は「Love」(ココロ)、「Management」に関連する内容について解説する

日計足らずして歳計余り有り

 中国の古い言葉に、「日計足らずして歳計余り有り」というものがあります。この言葉は、日本ではことわざに分類されることもあるようです。

 この言葉は、ある1日だけで見ればマイナスの日があったとしても、1年をトータルで見ればプラスであるという意味です。いい換えれば、目先の利益だけに集中し、大局的な見地での利益を考慮できない人は、結果として損をするということでしょう。

 今回はこの言葉を中心に、システム開発プロジェクトにおけるManagement、つまり、管理について解説します。

ビジネス・勉強・世相での好例

 この言葉の意味を説明するため、分かりやすい例をいくつか紹介します。

 新規ビジネス立ち上げ時の広告コスト、サンプル商品を配布するコストなどを惜しんでいては、いつまでたっても集客ができずにビジネスは大きくなりません。よってビジネス立ち上げ当初は、広告コストなどで「日計が足りない」という状態となりますが、ビジネスが軌道に乗り収益を上げる基礎が出来上がれば、最終的には「歳計余り有り」となるわけです。

 勉強でも似たようなことがいえるでしょう。あるタイミングから本気で勉強を始めて地道にコツコツと勉強していると、ふとしたタイミングで、急に成績が上がることがあります。「1日何時間勉強したら、比例して成績が上がってほしい」というのは素直な気持ちかもしれません。しかし大抵そうはいきません。

 この場合も本気で勉強を始めたころは、1日では何も伸びていないので「日計足りず」ですが、トータルで見れば、成績が上がるという結果を得られるという解釈になります。

 最近の世相でこの言葉が使われるとすれば、小泉改革でしょう。皆さんご存じのとおり、小泉改革では郵政民営化を中心に、規制緩和を進め、構造改革を標ぼうしました。

 最初の数年は効果が見えませんでしたが、3年目か4年目くらいから徐々に効果が表れ、従来難しいと考えられていた構造改革と景気対策を同時に成し遂げたと私は考えています。これも、長期的な視野に立って行動することによる効果という意味で、「日計足らずして歳計余り有り」の好例といえるかもしれません。

システム開発プロジェクトにおける具体例

 さて、システム開発のプロジェクトで、「日計足らずして歳計余り有り」という考え方を援用しましょう。

 プロジェクトでの作業遂行に必要な研修を受けるという例を考えてみましょう。システム開発プロジェクトで使う言語や開発環境、ミドルウェアなどの研修に参加すれば、数万円から数十万円程度のコストは発生しますが、コストを補って余りある結果となります。

 また、「日計足らずして歳計余り有り」という意味では、若手や未経験者をプロジェクトに積極的に受け入れるという視点は非常に重要となります。

 具体的にいうと、システム開発プロジェクトのメンバー選定において、プロジェクトにて活用する開発言語や開発環境、ミドルウェアなどの経験者ばかりを集めるのではなく、若手や未経験者であっても、やる気のある人は積極的に活用するということです。

 確かに経験者は即戦力となります。また未経験者だけでチームを組んでも、生産性が悪いどころか、場合によってはプログラムが開発できないこともあります。従って、経験者はもちろん必要です。しかし、経験者でないとプロジェクトに参画させないという姿勢もいかがなものかと私自身は感じています。

 未経験のITエンジニアでも強い向上心があれば、言語や環境を学習し、経験者に追い付き、追い越すために努力するチャンスを与えるべきだと思います。若手であれば、プロジェクトにおけるコストはベテランと比較してそれほどでもありません。若手でなくとも、特定の技術領域を未経験のITエンジニアがプロジェクトで新たな経験を積んで技術の幅を広げることは、長期的に見れば、ITエンジニアにも好都合ですし、ITエンジニアの所属する会社にとっても好都合なわけです。

 つまり、「日計足らずして歳計余り有り」という視点から考えると、システム開発プロジェクトにおいて、経験者ばかりを集めようとするのは「日計」を求める行為であり得策ではありません。長期的・大局的な視点からプロジェクトを見たとき、ある程度、若手や未経験者を配属することで「歳計余り有り」という状況を作り出す必要があるのではないでしょうか。

 「日計足らずして歳計余り有り」という言葉の意味を生かす別の例として、若手のITエンジニアが不慣れとする「進ちょく管理・予算管理」についても同様のことがいえるでしょう。進ちょく管理・予算管理を、実績のあるプロジェクトマネージャだけでなく、若手ITエンジニアにも、実際にやってもらうわけです。

 そうすることで、将来のプロジェクトマネージャ業務の一端に慣れてもらう。一見無駄のようですし、個々のプロジェクトだけで考えると実際に無駄です。しかし、将来的、長期的な観点からすると、このとき支払ったコストは最終的にペイするどころか、コストを支払ってもお釣りがくるわけです。

システム開発業界の転職相場においても

 「日計足らずして歳計余り有り」について、システム開発業界のITエンジニア採用においても似たような話を聞いたことがあります。

 最近、ITエンジニアを大手・中規模のシステム開発会社に紹介する仕事をされている人と話す機会がありました。その方によると、大手・中規模のシステム開発会社は、開発言語だけで人材を採用しているに等しいといえるのではとのこと。

 具体的にいうと、システム開発会社の人事からは、「短くて1〜3年、できれば5年くらい、特定の言語スキル(例えばJavaなど)の経験がある人が欲しい」という依頼が来るそうです。それに対して、開発エンジニアを募集すると、必ずしもスキル・経験がマッチしない人が多いとのことです。

 ただし、スキルや経験がマッチしていなくとも、ほかの言語ではスキルや経験があり、なおかつ新しい言語を学びたいという強い気持ちを持っている人が多いといいます。しかし、採用側のシステム開発会社は、特定言語のスキルや経験がないから、採用できない。そういったスキルや経験がないと、書類選考すら通らないこともあるそうです。

 このような状況が続くと、転職市場で人気のあるスキルや経験のないITエンジニアは、転職の機会が少ないうえに、社内では特別に言語を学ぶ環境がないので新しい言語を学ぶ機会がない。つまり、結果としてスキルや経験が身に付かないので、転職の機会がさらになくなるという悪循環に陥るのでしょう。このような悪循環に陥っているITエンジニアにとっては、「どうやって転職しろというの!」が本音でしょう。

 システム開発業界は、一般的に人手不足といわれています。しかし、このような単純なスキルのミスマッチに起因して、本来採用すべき人材がミスマッチと判断されかねない現状では、いつまでたっても人手不足は解消されません。

 私と話した、ITエンジニアをシステム開発会社に紹介している人の言葉が印象的でした。

 「こういう状況では、スキル・経験でなくやる気重視でエンジニアを採用しているベンチャー企業は優れたエンジニアを採用できますよね。こういうベンチャーが将来伸びるのだと思いますよ」

 まさに、「日計足らずして歳計余り有り」ですよね。

 システム開発プロジェクトを管理するプロジェクトリーダー、チームリーダーの皆さんのみならず、システム開発会社の人事の皆さん、いま一度、「日計足らずして歳計余り有り」という発想で人材を選定してみませんか。

筆者プロフィール
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイト人材派遣情報サイトも運営。


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