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ITエンジニアを続けるうえでのヒント〜あるプロジェクトマネージャの“私点”


第27回 最後まであきらめないココロ

野村隆(eLeader主催)
2007/6/18


将来に不安を感じないITエンジニアはいない。新しいハードウェアやソフトウェア、開発方法論、さらには管理職になるときなど――。さまざまな場面でエンジニアは悩む。それらに対して誰にも当てはまる絶対的な解はないかもしれない。本連載では、あるプロジェクトマネージャ個人の視点=“私点”からそれらの悩みの背後にあるものに迫り、ITエンジニアを続けるうえでのヒントや参考になればと願っている。

リーダーシップトライアングルにおける位置付け

 この連載では、システム開発プロジェクトにおけるリーダーシップを中心に、「私の視点=私点」を皆さんにお届けしております。

 今回は、リーダーシップトライアングルの中心であるLoveに関係します。Loveについては、第10回「正しいことをし、行動力を発揮するココロ」を参照いただければと思います。

図1 リーダーシップトライアングル。今回は「Love」(ココロ)に関連する内容について解説する

最後まであきらめない

 「成功するまであきらめない」

 「成功するまでやめないこと。そうすれば、絶対に成功します」

 ビジネスや、そのほかの分野において大きな成功を収めた人の多くは、成功する秘訣(けつ)としてそういいます。このような最後まであきらめない気持ち。これらは、成功者ご自身の発言なので、成功ための必要な1要素なのでしょう。

 やはり、「うまくいきそうにないからやめた」「ちょっとやってみたけど、失敗したのでやめた」これでは、何事も成しえません。

 最後まであきらめない気持ちについて、システム開発プロジェクトに援用してみましょう。ただ、システム開発プロジェクトには事前に定義された、納期というゴールが設定されています。そのため、成功者のいうように「成功するまであきらめない」という気持ちだけ先行しても、期限に間に合わなくてはどうしようもありません。「成功するまであきらめずにいたら、納期がきてしまった」では、残念ながら成功とはいえません。

 しかし、この「最後まであきらめない」という気持ちは、システム開発プロジェクトでも非常に重要です。

残念な報告を聞く

 さて、私が体験したシステム開発プロジェクトでの話を紹介しましょう。

 プロジェクトの遂行上、ビジネスパートナー(協力会社)の人に作業をお願いする局面が多くあります。非常にやる気に満ちた、前向きなビジネスパートナーが多い中で、残念に思うビジネスパートナーもいらっしゃいます。

 以下のような報告をビジネスパートナーのリーダーさんから受けたことがあります。

 プログラム開発の進ちょく状況について、過去2カ月くらいの状況を示すグラフを基に、報告を受けました。グラフを見ると、当初予定よりも遅れていることが明らかです。

報告者:「いままでの進ちょくのトレンドをグラフから見ますと、この先、2週間の遅れとなります」

筆者:「何とかリカバリー(遅れの回復)をしようとは思わないのですか」

報告者:「努力はしますが、現実的に無理ですね。いままでのトレンドがこのとおりですから」

筆者:「そこを何とか工夫してリカバリーするのがあなたの仕事、ミッションですよね」

報告者:「もっと現実的に考えてほしい。どうしたって無理ですよ。過去の数字が何よりの証拠です」

筆者:「過去の事実を否定しているわけではありません。今後、いかにしてリカバリーするかについて議論しようとしているのです。いまからスケジュールに間に合わせるという気持ちはないのですか」

報告者:「あなたは現場の状況を把握していないから、そんなことをいえるのですよね!」

 そのまま会話がかみ合わずに、最後は相手が怒ってしまいました。

それらしく報告すれば免責される?

 この会話から、私が感じたことは、開発の進ちょくに対する認識が私とビジネスパートナーのリーダーとでは、まったく違うということです。

 私自身は、進ちょくの遅れは何とかして回復すべきだし、元のスケジュールに合わせるべく努力するのがリーダーとして当然の責務と思っています。確かに、遅れを回復しようにも、どうにもならないという開発プロジェクトや状況はいくらでもあります。とはいえ、最後の最後まであきらめずに、回復への努力を継続するのが、スケジュールを任されたリーダー、マネージャのやるべきことだと思います。

 上記の例でのビジネスパートナーのリーダーは、もしかしたら、ほかのプロジェクトでは、それらしく遅れを報告すれば、「しょうがないですね」で許してもらっていたのかもしれません。それで今回も進ちょくのグラフを作成して、過去の実績を報告し、「現状のままでは遅れます」という報告をすれば、進ちょく遅れの責任を回避できると思っていたのかもしれません。

「現実的」に考えると……

 このリーダーの発言で特徴的だった点がもう1つあります。それは「現実的」という言葉でした。彼のいう「現実的」という言葉の意味は、現実をありのままに認識し、是として受け入れるという意味だと思われます。そして彼の主張は、目の前の現実として進ちょくが遅れているのだから、遅れている現実を現実として受け入れることが正しいという理屈に聞こえました。確かに、まず現実を受け入れることは必要です。ただ、この場合問題なのは、その次のステップである、目の前の現実を変えようという意識がまったくないことです。

 このような状態は、リーダーとして、マネージャとして許容されるものではありません。

こうすればできるという報告をセットに

 整理してみましょう。

 「○○だからできない」という報告は、大抵、自分の責任をまっとうできない理由を探す、つまり責任逃れをするという姿勢につながります。

 「○○だからできない」ではなく、「○○すればできる」という発想で、報告をするよう心掛けることをオススメします。そう心掛けることで、発想自体が前向きになり、状況を改善させる手掛かりになります。

 例えば、「人がいないから、進ちょくが遅れました。回復できません」では、思考停止で、何も発展しません。

 そうではなく、「人がいれば、進ちょくを回復させることができます」という発想が必要です。このように発想を変えれば、純粋に人数(工数)が足りないのか、それとも、実は人数(工数)は足りているが、スキルある人が足りないのかという次の発想につながります。人数(工数)が足りないならば、人を入れる、スキルある人が足りないのであれば、人を入れ替える、または、研修を受ける、という、具体的なアクションが見えてきます。

 ここで、冒頭の、成功者の考え方である、最後まであきらめないという考え方に戻ります。

 「○○だからできない」というのは簡単です。そのための理屈付けもプロジェクトの状況を数字化するなど、それほど難しくありません。

 そうではなくて、「こうすればできる」という前向きな発想で、最後まであきらめない。進ちょくが遅れた状況を無視したり隠したりするのではなく、現実として認めたうえで、「じゃあ、どうする、どう改善する、どこから手を付ける」という、最後まであきらめない姿勢がプロジェクト全体にいきわたれば、活路は見いだされます。すくなくとも、「○○だからできない」と思考を停止してしまっては、そこですべてが終わってしまいます。

 プロジェクトのリーダークラスの人員のみならず、1人でも多くのプロジェクトのメンバーが、「こうすればできる」という意識に基づき仕事をしたら、プロジェクの作業現場が改善され、最終的なプロジェクト成功に近づくと信じております。

 次回も「私の視点=私点」を皆さんにお届けします。

筆者プロフィール
野村隆●大手総合コンサルティング会社のシニアマネージャ。無料メールマガジン「ITのスキルアップにリーダーシップ!」主催。早稲田大学卒業。金融・通信業界の基幹業務改革・大規模システム導入プロジェクトに多数参画。ITバブルのころには、少数精鋭からなるITベンチャー立ち上げに参加。大規模(重厚長大)から小規模(軽薄短小)まで、さまざまなプロジェクト管理を経験。SIプロジェクトのリーダーシップについてのサイト、ITエンジニア向け英語教材サイト人材派遣情報サイトも運営。



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