第3回 「人をどう動かすか」より「私はどう導きたいか」
テイクウェーブ 竹内義晴
2008/3/13
■人は話すだけで満足する――よい「聴き手」になる
先日、以前の会社の後輩が私の事務所を訪ねてきました。
彼はこういいました。「私は、もっと会社に評価してほしいんです。けれども会社は評価してくれないんです」。ずいぶんと深刻そうでした。
そのとき、私の心には「評価してほしいといっても、それだけの成果を出しているのかな? 上司やお客さまは、彼をどう思っているのかな?」と自分の思いが浮かびましたが、それを口に出すのを少しやめて、「会社にもっと評価してほしいんだね?」と、相手のいうことをずっと聴き続けました。
話を聴いて、彼がずいぶんと落ち着いてきたところで「評価は自分がするものではなく、他人がするものだよ。他人に何をしてあげたかという結果が、自分の評価になるんだよ」と意見をいったところ、彼は納得してくれたようでした。
「話し過ぎた」という言葉はあっても「聴き過ぎた」という言葉はないように、人は誰かに自分の思いを聴いてほしいものなのかもしれません。私の知り合いのカウンセラーはこういいます。「『話す』は『放す』なんですよ。ですからこちらの意見をいう前に、話を聴いてあげることが重要なんです。だから、カウンセラーは相手の話をよく聴くんですよ」
まず聴くこと。それだけでも相手は変わってきます。話し始めたときは険しい表情だった相手が、話が終わるころにはずいぶんリラックスし、笑顔になっている。そんな場面に何度も出合いました。その喜びはひとしおです。
「きく」という漢字には、「聞く」と「聴く」がありますが、耳を開いて心できく、「聴く」ということに意識を向けると、よい聴き手になることができるでしょう。
ひょっとしたらあなたは、「よい聴き手になっているだけでは、自分が話すことができずにストレスがたまる」と思うかもしれません。その気持ちは分かります。例えば会議の最中、相手が話していても、自分の意見がひらめくと口にしたくて仕方がなくなるものですね。
私の経験では、相手の話をよく聴くと、その分相手も話を聴いてくれるようになります。話を聴かずに指示命令をして、「何で動かないんだろう?」と思っていたときより、まず話を聴いたうえで自分の意見をいい、相手が納得してくれるようになったときの方が、「分かってくれたんだな」という充実感もあって、ストレスは小さくなっていました。自分の話を聴いてもらうには、その分相手の話を聴けばいいと思ってください。
■人はすぐ変わらない――変化するには3カ月ぐらいかかる
あなたがよい聴き手になり、相手が納得してくれたとしても、すぐに相手が変わるとは限りません。
私も以前、「なぜ気付かないの?」と思うことがよくありましたし、「1回いったら分かるだろう?」「何度同じことをいわせるんだよ」と相手を責めたこともありました。けれども1つの実験をしてみて、それが過ちだったことに気が付いたのです。
あるところで仕事をしていたときのことです。そこでは毎朝朝会があり、事務所と数百メートルぐらい離れたところで行われていました。その朝会には、毎日の勤務状況を記入した「勤務表」を持っていく必要がありました。場所が離れていますから、忘れても取りに戻ることはできません。
こういう場合、普通はパソコンのモニタに「勤務表を忘れないこと」などと書いた付せん紙を張るのかもしれません。しかし私はそのとき、ふと「何もしなくても勝手に毎朝勤務表を持っていくことに気付くようになるまで、どのぐらいの期間が必要だろう?」と思い、実験してみることにしました。もちろん、持っていくことを忘れたときに怒られることは覚悟して……。
1カ月目は、朝会に行く時間になっても、60%ぐらいの確率でしか「勤務表を持っていく」と気付くことができませんでした。けれども、2カ月、3カ月と日がたつにつれ、何も考えずに毎日勤務表を手にしていることに気が付いたのです。
このとき私は、「人が自然と気が付くまでには2〜3カ月は必要なんだな」ということを知ったのです。つまり「1回いっただけで分かるはずがない」と思ったのです。
車の運転も、最初は「ブレーキとクラッチを踏んで、ブレーキを離してアクセルを次第に開けながらクラッチをゆっくりと離して……」と意識しなければできません。でも2〜3カ月たって慣れてくれば、彼女や彼氏と話しながら、ジュースを飲みながらだって運転できます。
相手の行動に変化が表れるのにも、3カ月程度かかると思っていた方が気が楽。無理なプレッシャーをかけて嫌な思いをさせるよりも、あなたの思いを伝え続け、相手が常に意識できるようにしてみてください。
ひょっとしたらあなたは、「そんなに待っている時間はない。いますぐ結果を出さなければいけないんだ」というかもしれません。もちろん急ぎの仕事で、すぐに結果を出すことが必要なときもあるでしょう。そのときはリーダーが強力なリーダーシップを発揮し、組織を引っ張ることも必要です。けれども私は、赤ちゃんがミルクから離乳食になり、普通の食事ができるようになるように、大人も段階を踏まないと成長しないということをお伝えしたかったのです。
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