アジア最大の求人サイトCEOが語る「優秀な人材」論海外から見た! ニッポン人エンジニア(3)(1/2 ページ)

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。

» 2010年03月19日 00時00分 公開
[小平達也@IT]

 あるときは案件があふれ、またあるときは枯渇して皆無となる……。「景況感に左右されないエンジニアになるためには、どうすればいいのか」。これは多くのエンジニアにとって共通の課題であろう。

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件だ。

 11月からスタートしている新シリーズ「海外から見た! ニッポン人エンジニア」ではグローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエス 代表取締役社長 小平達也が、海外と深い接点を持つ人物へのインタビュー通じ、世界の経済・技術動向、文化や政治状況などの外部環境の最新状況を掘り下げていく。

 第3回は、600万人以上の登録者を持つアジア最大のインターネット採用サイト「Jobstreet.Com」(ジョブストリート)の創業者兼最高経営責任者(CEO)であるマーク・チャン氏に話を聞いた。ジョブストリートは、マレーシアに本社があり、シンガポール、インドネシア、タイ、フィリピン、インド、香港、台湾および日本で事業展開をしている。

 アジア各国のIT人材と企業動向に精通している同氏の目に、ニッポン人エンジニアはどう映っているのか。


アジア最大のインターネット採用サイトCEO、松下幸之助に学ぶ

小平 ジョブストリートといえば、アジア各国のホワイトカラーや大学生の間では就職・転職サイトとして有名です。2004年にはMESDAQ (Malaysian Exchange of SecurITies Dealing & Automated Quotation)市場に上場も果たしていますが、そもそもチャンさんが起業をするきっかけとはどのようなものだったのですか。

ジョブストリート 最高経営責任者 マーク・チャン氏 ジョブストリート 最高経営責任者
   マーク・チャン氏

チャン氏 わたしは高校卒業後にマレーシアからアメリカに渡り、マサチューセッツ工科大学(MIT)で機械工学の修士号を取得して、現地の企業でメカ系のエンジニアとして働いていました。当時、アメリカで働くわたしに対し、マレーシアにいる母は常々帰国を促し、「故郷ではこんな仕事がある」といっては新聞の求人広告の切り抜きなどを郵便で送ってきていました。

 しかし、それらの情報はいつも古すぎるか、自分の専門性や経験にマッチしていないものでした。この経験から、「当時普及し始めたインターネットを通じてオンラインでジョブマッチングをしたら、自分のような海外で働く人間が母国に帰国する際にも非常に便利になるはずだ」と思い、1995年にジョブストリートを設立したのです。


小平 ジョブストリートはオンラインリクルーティングサイトとして著名なので、チャンさんご自身も元ITエンジニアかと思っていました。そうではなく、もともと機械系のエンジニアであり、あくまでも自分の目指すビジネスを実現させるツールとしてITを活用しているのですね。

チャン氏 そのとおりです。技術面については、起業当初からMIT時代の友人が大いにサポートしてくれました。また、ITの世界では多くの人がシリコンバレーにあこがれ、現地のIT経営者をその手本としますが、わたしにはとりたてて共感できるものではありませんでした。

 実は、わたしが経営者としてロールモデルとしているのは松下電器産業(現社名・パナソニック)の創業者、松下幸之助氏です。同氏の『道をひらく』などの書籍を読み、深く共感したのです。同氏の考え方の1つに、水道水のように、どこにでも家電製品を供給することが、商品の価格低下を実現し、社会の幸福につながるという「水道理論」がありますが、当社は求人サイトを運営し、情報を広く提供することにより、すべての求職者に雇用の機会を提供し、幸せになってもらいたいと考えています。

シンガポールの海外人材誘致の現状と「優秀さ」の定義

小平 MITでエンジニアとして学び、アジア最大のインターネット求人サイトを経営するチャンさんのロールモデルが松下幸之助氏だったのですね。ところで、チャンさんは現在シンガポールを拠点にしています。シンガポールは世界中から優秀な人材を誘致していることで有名ですね。シンガポールは、日本でいえば淡路島ほどの大きさの都市国家ですが、海外から優秀な人材を登用して「人材立国」を目指すことが国策になっているようです。シンガポールの具体的な取り組みを教えていただけますか。

チャン氏 シンガポールには約300万人の国民がいますが、このうち50万人が外国人です。もともとシンガポールは多民族社会で、華人系、マレー系、インド系、そのほかの民族で構成されています。しかし、「変化の激しい世界情勢の中で、現在と同レベルあるいはそれ以上の繁栄をするには300万人の国民だけではおのずと限界がある」という政府の考えで、シンガポールの発展に貢献できる優秀な人材を獲得するための方策を実施しています。


 そのうちの1つが優秀な人材を誘致するための「コンタクト・シンガポール」というものです。これは外国人向けの情報センターで、ジョブストリートも協力しています。「コンタクト・シンガポール」では、留学・就職関係情報をはじめ、住まい、子どもの教育に関する生活情報、ビザ情報を提供しており、シドニー、パース、バンクーバー、ボストン、ロンドン、ロサンゼルスなどに海外拠点も開設しています。

小平 「優秀な人材を獲得する」ことが国策になっているというわけですが、ここで問題なのが「優秀さ」の定義です。日本の新卒採用のシーンで優秀さ、というと基礎学力に加え、コミュニケーション能力、ロジカルシンキング、モチベーションというようなものに収斂(しゅうれん)されていく一方、キャリア採用では高い専門性やマネジメント能力が求められています。シンガポールの求める「優秀さ」についてチャンさんはどうお考えですか。

チャン氏 「優秀な人材」を一言でいうと「新しい産業をつくり、雇用を創出していける人材」ということになると思います。つまり、各分野において??バイオや水など先端分野は特にそうですが??自分で起業できるクラスの人材です。また、産業の高度化を目指しているという意味で、人材獲得といってもオフショア開発やコールセンターで従事する人ではないという点でも、IT産業を誘致しているアジアのほかの国々とは異なる点だと思います。

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