なぜ日本だけにとどまる必要が? 生き残るためにグリーは海外を目指す海外から見た! ニッポン人エンジニア(10)(1/2 ページ)

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。

» 2011年08月08日 00時00分 公開
[小平達也@IT]

 あるときは案件があふれ、またあるときは枯渇して皆無となる……。「景況感に左右されないエンジニアになるためには、どうすればいいのか」。これは多くのエンジニアにとって共通の課題であろう。

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件だ。

 2009年11月からスタートした「海外から見た! ニッポン人エンジニア」では、グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエス 代表取締役社長 小平達也が、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューを通じ、世界の経済・技術動向、文化や政治などの外部環境の最新状況を掘り下げていく。

 今回は、グリーの米国法人GREE International, Inc. VP プロダクト 荒木英士氏に話を聞いた。

 GREEは2011年4月、世界全体で1億ユーザーを突破した。これまで日本国内で培ってきたユーザー数は2500万。世界最大のスマートフォン向けゲームプラットフォームを運営するOpenFeint社を完全子会社化したことで約7500万ユーザー(2011年4月当時)が加わり、同社が掲げていた目標「1億ユーザー」が実現した。


 米国以外においても、グリーのグローバル展開は目ざましい。シンガポールに拠点を置き「mig33」を運営するProject Gothとの業務提携、中国最大のインターネットサービス企業Tencentのスマートフォン向けプラットフォームとの仕様の共通化などが進んでいる。

 荒木氏はグリー5番目の社員であり、現在はグローバル事業の拡大を担っている。同氏の目に、ニッポン人エンジニアはどう映っているのか。


日本に閉じこもる理由がないから、世界に打って出る

―――グリーは2010年にグローバル戦略を打ち出し、2011年に入ってから実際に世界中で展開をしていますが、まずはグリーの全体的な事業展開とグローバル展開について教えてください。

グリー 荒木英士氏 グリー 荒木英士氏

荒木氏:当社は、SNSなどのソーシャルメディア事業、ソーシャルゲームなどのソーシャルアプリケーション事業、そしてソーシャルプラットフォーム事業という3つの事業展開をしています。今年1月に米国法人GREE International, Inc.を設置しました。私はそこでVice Presidentとして働き、北米での人材採用も積極的に行っています。

 北米以外でも、事業を積極的に展開しています。中国インターネットサービス大手Tencentとのプラットフォーム共通化、東南アジアなど新興国を中心にモバイル向けSNS「mig33」を運営する「Project Goth」とも資本・業務提携しました。4月にはアメリカのOpenFeint社を完全子会社化し、1億ユーザーを超える世界最大級のモバイル端末向けソーシャルプラットフォームを構築しています。米国オフィスに続いて、北京・シンガポール・ロンドンにオフィスを開設することを発表し、グローバル事業展開を加速しています。


―――IT業界は製造業などと異なり、どこにいてもサービスを出せるのが強みですが、あえて北米にオフィスを構えた目的とは何でしょうか。

荒木氏:北米向けによりよいサービスを提供するためという理由はもちろんありますが、ハイレベルのエンジニア採用という狙いもあります。米国オフィスでは、開発から運用、管理に経理など、フルセットで環境を整えています。今後は、従業員の採用をさらに強化する予定です

対談中の筆者 対談中の筆者

―――なるほど。ここで“そもそも”のお話を伺いたいのですが、なぜ「海外」へ向かうのでしょうか。

荒木氏:私たちからすれば、むしろ「なぜ日本国内にとどまっていなければならないのか」という感覚です。

 ここ数年、モバイル業界の環境は大きく変化しました。「フィーチャーフォンからスマートフォンへのシフト」です。フィーチャーフォンは日本独自の発展をしてきたため、海外の競合が入りづらい状況にありました。フィーチャーフォンがメインだった時代なら、まだ「国内向け」というスタンスでも守っていられたでしょう。しかし、スマートフォン市場では海外の競合と直接対決をせざるを得ません。スマートフォンへのシフトは、グローバルレベルで競合他社とガチンコ勝負をしなければならないということを意味します。

 勝負はしなければならないのです。これは「チャレンジ」「自己実現」といったレベルの話ではなく、もっと自然な「生存欲求」です。「日本でサービスを展開する」ということは、根拠のないリミットでしかありません。「日本の○○県にあるIT企業が、その県民向けWebサービスしか作らない」というのと同じことだと思います。

グローバル展開を担うエンジニアに求められるもの

―――自然体として「海外に向かう」という姿勢なのですね。先ほど、アメリカで採用活動を行っているというお話が出ましたが、米国法人ではどのようなエンジニアを採用しているのですか。

荒木氏: 「世界中でプロダクトを作り、サービスを提供する」、これが当社のグローバル戦略の基本です。アメリカでは、積極的にエンジニアを採用しています。シリコンバレーでは優秀な人材、いわゆるトップエンジニアをたくさん採用できるという感触がありますね。GoogleやFacebook、Yahooなどで働いていた優秀なエンジニアが続々と転職してきています。

―――田中良和社長はあるところで、優れたエンジニアの3つの素養として「技術力」「前向きな人間性」「コミュニケーション能力」を挙げています。グローバル展開における採用でも、この方針は変わりませんか。

荒木氏:グローバル展開において求められる素養もまったく同じです。そこにブレはありません。海外に赴任する日本人エンジニアについても、能力やノウハウなどで優れた人、柔軟で適応力の高い人間を選抜しています。適応能力が高い人は、どんどん海外に出していく方針です。

―――個々の能力は非常に重要なポイントです。一方、エンジニア1人で仕事をするわけではありません。国境を超えたグローバルチームを形成して成果を出していくには「チームマネジメント」の観点が必要だと思います。この点は、どのような工夫を行っているのでしょうか。

荒木氏:確かに、国籍混成チームや日本・米国・中国など物理的に離れているチームをいかに連動させていくかが今後の課題です。具体的には、時差やコミュニケーションの齟齬(そご)などが一番の課題ですね。これほどの規模でグローバル展開をしている日本発のWeb企業はあまりないので、日々模索している状況です。Googleなどの展開方法は、非常に参考になりますが。

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