第1回 「ITを体で覚えたこと」が大きな力
大内隆良、荒井亜子(@IT自分戦略研究所)
2007/7/19
エンジニアをした経験が、ほかの業界、業種、職業などに移っても役立つのか、役立たないのか。その点を、実際にエンジニアとして働いた経験を持つ人に聞く。結果は? |
エンジニアからほかの職業に転身する人は多い。では、その転身した世界で、エンジニア経験は役に立つのであろうか。今回は、ITのシステムエンジニア(SE)からリサーチ会社のアナリストに転身したガートナー ジャパン リサーチ BI&インフォメーション・マネジメント リサーチ ディレクターの堀内秀明氏にお話を伺った。
堀内氏が勤めるのは、IT関係のリサーチやアドバイスを手掛ける会社として知られるガートナー ジャパンだ。堀内氏は同社のアナリストである。が、アナリストという仕事は、いかなることをするのであろうか。
アナリストの仕事には、大きく分けて2つあると堀内氏は語る。「1つはITベンダに戦略的なアドバイスを行うこと、市場における出荷金額やユーザー動向などを調査して、なぜあるベンダの売り上げが多くなっているのか、少なくなっているのかなどを分析します。もう1つは、ITを利用するユーザー企業向けにITをどう使ったらいいのかをアドバイスすることです。そのためのリサーチ活動をして、ユーザー企業から成功体験や苦労話を聞いたり、ベンダに販売戦略や新製品のポイントを聞いたりします」
堀内氏はガートナーに入社した当初はデータベースを担当していたが、その後BI(ビジネスインテリジェンス)&インフォメーション・マネジメントを担当するようになった。BIと聞くと、OLAPやリレーショナルレポーティング、データマイニングを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、データ分析には、整理されたデータの存在が必須であり、そのためにはデータベースが必要である。つまり、BIはデータベースと密接な関係にある。その意味では、堀内氏の担当分野が広がったわけだ。
■エンジニア出身のアナリストは
われわれがIT関係のアナリストにお目にかかるのは、さまざまなイベントやセミナーでの講演かもしれない。読者の中にも、そうした講演でアナリストの話を聞いたことがある人もいるだろう。
ところで、アナリストにエンジニア出身の人はいるのだろうか。
堀内氏はその質問にあっさり「意外と多いですよ」という。「ガートナー社内ですが、グローバルで見て多いと思うのは、ユーザー企業の中でITを使っていた人やIT部門のマネジメント層、コンサルタント出身者、そしてベンダのマーケティング担当出身の人です。日本では、システムインテグレータ出身者、ユーザー企業のIT部門出身者、IT系のメディア出身者など、ITに何らかの形でかかわってきた方が目立ちます」という。
■OJTは現場に投入で
堀内氏がコンピュータに初めて触れたのは、小学生のころだという。ポケットコンピュータでゲームを作って遊んだりしていたという。
その後、大学の理工学部の数学科に入学、専門は情報処理。そこではプログラムを実際に組んで、それをUNIX上で動かしてチェックするようなことをしていたという。こういういい方は適切かは分からないが、IT系のエンジニアへの道をひたすら歩んでいるように感じたので、そう堀内氏に確認すると、「理系のコンピュータ系からSEになったという、キャリアパス的にはまっすぐ進んでいる、王道ですね。ただし、当時のSEは、文系出身でも理系出身でも、コンピュータとはあまり関係のない学科の出身者が多かった気がします」と語る。
ガートナー ジャパン リサーチ BI&インフォメーション・マネジメント リサーチ ディレクターの堀内秀明氏は、大学卒業後、システムエンジニアの道を歩んだ |
では、SEになった堀内氏は、どんな業務を担当していたのだろうか。どうやら、新しい技術に触れることができるような環境にいたようだ。
堀内氏が最初に担当したのは、UNIXを利用して電子メールを配送するシステムの導入だった。当時、堀内氏が配属された部署では、新人はUNIXの研修を受けているということで、堀内氏は早速即戦力として戦場(現場)に投入されたという。そしてそこで、ちょっとしたプログラムを作成した。
その後、マイクロソフトがMCPを取得した企業をソリューションプロバイダとして認定するという動きがあり、堀内氏の所属する会社もその対応のため、若手社員を中心に資格を取得させようとした。堀内氏もそうした潮流に乗り、MCPの資格を取得する。
その後マイクロソフトのソリューションプロバイダの認定基準が変わり、MCSEが1人いないと認定されないようになり、堀内氏はMCSEの受験に挑戦し、合格する。
その後も、新技術に触れることができる調査研究的な部署でインターネット関係の調査を行うなど、新技術の調査、新規導入の支援などを中心に業務を行っていた。
■アナリストに転身するまで
そんな堀内氏が転職したきっかけは何だろうか。10年ほど勤務していると、マネジメントという文字が目の前で点滅する。マネジメントが嫌だとかではなく、社会人になって10年、そろそろ自分が何をやりたいと思っているのかを、いま一度確認しようと思ったという。その結果は、
(1)ITに携わった何らかの仕事がしたい
(2)人にものを教えることが得意だし好きなので、そういうことができるところ
というものだった。そこで、このような視点で転職を考えた。その結果、まずはIT系の教育を手掛ける企業が候補として浮上した。確かにITに携わる仕事で、しかも人に教えることができる。最初は、その方向で考えたが、IT系の教育ベンダには資格取得のためのスクールという面がある。そこまでくると、「即物的で、ちょっと違う」と堀内氏は感じた。
ちょうどそのころ、ガートナーのアナリストというキャリアがあると人材紹介会社の担当のキャリアコンサルタントから紹介されたのだという。
当初は、転職先として考えたこともなかったそうだが、キャリアコンサルタントからガートナーを紹介されて、意識するようになったという。「ガートナーって、あのITのレポートを書いている会社」という程度の認識だった。しかし、ITにかかわれることに加え、業界の第一人者を目指せる挑戦しがいのあるキャリアだと感じ、転職を決意したという。
■ITエンジニア経験は役立つ
それでは、ITエンジニアだったことで、アナリストになってから役立っていることはあるのだろうか。
堀内氏はいくつかの例を挙げてくれた。
まずは、実装経験そのものが役立っているという。実際にプログラミングを行うことでシステムがどう動くかを理解していることは大きなアドバンテージになる。さまざまなトラブルへの対応経験もあり、そういう中で厳しいやりとりをユーザー、ベンダの双方と行った経験もある。また、開発工程そのものを知っていることも大きい。ほかの職業からだと、開発工程を知識でしか理解できない。しかしITエンジニアの経験があると、要求定義から基本設計、詳細設計、実装、テストなどの工程がすぐに浮かぶ。
さらに、例えばといって堀内氏はデータベースを取り上げる。「RDBMS(リレーショナルデータベース管理ソフト)の世界、オラクルではグリッドという言葉を耳にすることがありますが、機能としてはRACというクラスターの一種が基礎になっています。ここでクラスターとはどういうものかということが、SE時代の経験からすぐにイメージできるわけで、自分の経験に照らし合わせながら、将来どうなるか、どうなりそうか、という流れが見えてきます」
このように、ITを体で覚えていたことが、アナリストなってからも大きな力となっているようだ。
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