第2回 多岐にわたるエンジニア経験が“売り”になる
荒井亜子(@IT自分戦略研究所)
2007/9/14
エンジニアをした経験が、ほかの業界、業種、職業などに移っても役立つのか、役立たないのか。その点を、実際にエンジニアとして働いた経験を持つ人に聞く。結果は? |
@IT自分戦略研究所とJOB@ITが2007年5月に実施した読者調査では、過去に人材紹介会社を使用したことがある人は41.7%、次に人材紹介会社を使用してみたい人は46.1%いた。人材紹介という業種が世の中に浸透してきたことがうかがえる(参考記事:「人材紹介会社選択の3つのポイント」)。
人材紹介会社は、多くのITエンジニアが毎日のように転職相談に訪れる場所であり、そこで働くキャリアコンサルタントは、相談者の経験と希望を基に求人企業を紹介する、いわば職の水先案内人である。相談者の人生を左右するといってもいい過ぎではない。
エンジニアの転職を支援している人材紹介会社イムカのキャリアコンサルタント宮脇啓二氏によると、ITエンジニア出身のキャリアコンサルタントは「まだまだ少ない」という。だが宮脇氏は、キャリアコンサルタントはITエンジニアの経験が大きなアドバンテージになる職業であると述べる。では、宮脇氏はどのような経験が役に立っているのだろうか。
■開発から上流までを経験したエンジニア時代
大学を卒業後、宮脇氏は大手流通業社に就職。そこで宮脇氏は、将来は店舗の店長かバイヤーを目指そうと考えていたという。
ところが、入社後すぐに受けた適性検査の結果、宮脇氏の配属先は、店舗ではなく情報システム部門だった。社内のシステムエンジニア(社内SE)に選ばれたのは新卒500人のうちわずか15人。コンピュータエンジニアリングなど経験したこともない宮脇氏にとって、とんでもない貧乏くじを引き当てた気分だったという。同じ境遇の同期と顔を見合わせ途方に暮れたそうだ。つまり、社内SEに選ばれた同期の多くも、宮脇氏と同じように貧乏くじと思っていたようだ。こうして、ユーザー企業で宮脇氏のエンジニア人生は始まった。当時について宮脇氏は「いまにして思えば楽しかったですね、SEになれて良かったです」と振り返る。
イムカのキャリアコンサルタントである宮脇啓二氏は、ITエンジニア経験が豊富。しかし、新卒後の配属でIT部門といわれたときは、「貧乏くじを引き当てた」と思ったという |
配属された物流部門の在庫管理システムでは、主にCOBOLでプログラムを組んだ。要件定義、設計、コーディング、テスト、運用、保守と、アプリケーション開発における全工程をこなした。仕事が面白くなってきたきっかけは3年目、在庫管理センターのシステムの入れ替えで、当時としては珍しい外国のソフトウェアパッケージ製品の導入に携わったこと。宮脇氏は、英語ができないにもかかわらず自らそのプロジェクトに立候補した。「SEとして何でもやらせてもらえるようになり、自信が付いてきた時期でした。そのうえ外国人のSEと、片言ながらも英語で話すことが楽しく、視界が広がった気がしました」という。残業が月間最高200時間のときもあったが、それでも自分がつくったシステムどおりに製品が流れ、アウトプットが目に見えることにやりがいを見いだし、がむしゃらに働いたそうだ。
この外国のソフトウェアパッケージ導入のプロジェクトに触発され、宮脇氏の中で「1度でいいから海外に行ってみたい」という思いが芽生えた。そのころから宮脇氏は時間を見つけて英語の勉強を始め、プロジェクトがひと息ついたところでついには会社を辞め、念願の語学留学へ旅立った。最終出社日の翌日には飛行機に乗っていたそうだ。
海外から帰ってきて転職活動を開始し、金融系企業の社内SEに就いた。だが、ここは社風が合わずに9カ月で辞めた。
次に、宮脇氏はこれまでSEとして経験してきたことがどこまで通用するのかと考え、外資系コンサルタント会社に転職を果たす。そのときのことについて宮脇氏は「いまも含めて生きてきた中で最も苦労した4年間だった」と話す。仕事のスタンスも進め方も品質も、ユーザー企業の社内SEとはまるで勝手が違った。周囲のレベルも高く、「その日その日はそれなりにやっていけるが、このままでは10年先が見えない」という焦燥感に駆られた。宮脇氏の中で、他人に対してもっとアドバンテージが欲しいと思うようになった。
「でも、アドバンテージを得るためにどうすればいいのか、それが分かりませんでした」と宮脇氏はいう。ところが、ある出来事をきっかけに宮脇氏の意識が変わった。
■目を覚まされた友人のひと言
それは、大学時代の仲の良い友人と飲んでいたとき。その友人とは、外資系の金融パッケージを扱う会社で年収2000万円ぐらい稼ぐプログラマだそうだ。その友人に、仕事でテレビ局の上層部と話をしたこと、導入したシステムの規模などを話していた。すると、宮脇氏の友人はだんだん腹が立ってきた様子、ガッと机をたたいて一喝「宮脇、分かった。お前の会社がすごいのはよく分かった。じゃあお前は何なんだ?」
宮脇氏の中で、無意識に自分も外資系コンサルタント会社に勤めていることを鼻にかける部分があったのだろうと振り返る。友人からの問い詰めに対し宮脇氏は、「怒るどころかむしろ納得しました」
宮脇氏は「ちょうど壁にぶち当たっていた時期、友人のあのひと言が目を覚まさせてくれました。確かに私は最前線で頑張っているわけではなく、一生懸命遅れないようについていっているだけ。会社は立派だが、自分が世間に認められているわけではありません。そこからいろいろ考えました」。
そして「会社の看板をしょって仕事しているだけだろう。自分の力で勝負してみろ」と自分自身に発破を掛けたという。
宮脇氏は、SE時代の経験から、テクノロジを追求するというより、クライアントから問題点を聞き出してシステム設計を行ったり、愚痴をこぼす後輩のモチベーション管理をするなどに長けていた。そこから宮脇氏は「もっと人に直接サービスできる仕事に就きたい」と思うようになり、ITのキャリアコンサルタントなら、人に直接サービスでき、自らのSE経験がアドバンテージとなると考えたそうだ。
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