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@IT自分戦略研究所ブックシェルフ(17)
ワインの品質を導き出す方程式

@IT自分戦略研究所 書評チーム
2008/8/6

■計算の威力

その数学が
戦略を決める


イアン・エアーズ(著)
山形浩生(翻訳)
文藝春秋
2007年11月
ISBN-10:4163697705
ISBN-13:978-4163697703
1800円(税込み)

 「絶対計算」という言葉が登場する。統計分析、データマイニングを意味する。テラバイト、ペタバイトクラスのデータ集合をリアルタイムで計算し、現実世界の事象を予測する。絶対計算主義者たちは、大規模データを活用した統計分析を駆使して、これまで直感に支配されてきた人や企業の営みを無に帰そうとする。極端にいえば。

 この本の序章には絶対計算の威力を語る有名な例が載っている。

 ワインの値段は誰が付けるのか。通常、ワインの価値は、高名なワイン批評家が「口に含んで吐き出す」伝統的な手法で決める。彼らは経験に裏打ちされたプロとしての直感によって、ワインの良しあしを指摘する。しかし、ワインの品質を導き出す方程式を作ってしまった男がいた。

ワインの質=12.465+0.00117×冬の降雨+0.0614×育成期平均気温−0.00386×収穫期降雨

 彼は、この方程式に気象情報を入力すれば、どんな年のヴィンテージの品質でも予測できる、とした。伝統的なワイン批評家たちは激怒した。彼らの市場価値は「そのカラクリが分からない」ことにあるからである。彼らの付加価値は、属人的かつ神秘的なものでなければならない。数字と方程式は、すべてを白日の下にさらす。正しい方程式ができてしまえば、あとは、データを入力して、出力を待つだけである。入力するデータ量が膨大であればあるほど、出力される結果の「蓋然性」は高まる。データ量に比例して、蓋然性は100%に近づいていく。

 ところで、統計分析で未来が予測できるという考えの背景からは、世界は不動のものであるとの事実認識がうかがえる。過去に展開されたより多くのパターンを踏襲することで未来が発生するのであれば、過去と未来に大きな違いはないのではないか。

 閑話休題。この本は「データ分析の影響がいかにすごいかを語る」(『その数学が戦略を決める』p.24)ものである。「これでもか」というほどに実例を挙げ、データ分析の破壊的な効果を紹介している。ただし、統計方程式、絶対計算“絶対主義”に対する懸念にもページを割くことで、議論のバランスを取っていることは指摘しておきたい(鰆)。

本を読む前に
『世界一やさしい 問題解決の授業』に学ぶ (@IT自分戦略研究所)
a=a+bなんてあり得なくない? (@IT自分戦略研究所)

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