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日本のITエンジニアを幸せにしたい

日本のITエンジニアを幸せにしたい

長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2007/11/29

 「新3K」業界などといわれるように、労働環境が問題となっているIT業界。この状況を変えていくすべはあるのだろうか。ITエンジニアとして生き残っていくためには何が必要か。

 そのヒントの一部が、アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ(ATS) 代表取締役社長 安間裕氏の言葉から得られるかもしれない。ものを作ること、未解決の技術的なトラブルを苦労の末に解決することが「この上ない喜び」だと語り、「ぼくはエンジニア」と断言する安間氏は、2002年8月にATSを立ち上げた。それ以来、自らも1人のITエンジニアとして、「エンジニアを幸せにしたい」「IT業界の現状を変えたい」という思いでATSを率いてきたという。ATS立ち上げの経緯、安間氏が心掛けてきたこと、今後目指すものなどを紹介しよう。

アクセンチュアのITエンジニア部隊を立ち上げるという挑戦

アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ 代表取締役社長 安間裕氏

 ATS設立の打診を受けた日のことを、安間氏は「忘れもしない」と振り返る。事の発端はアクセンチュア日本法人に駐在していた米国社員からの電話だった。「あるプロジェクトの行きか帰り、タクシーに乗っていたときに突然電話をもらいました。『今回、グローバルでアクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズという組織を立ち上げることになった。ついては日本でも立ち上げたいから、お前がやってくれないか』と。その場で『いいですよ』と答えました」

 新組織の立ち上げに携わることをほぼ即決した安間氏だが、その理由はいくつかあった。1つは、アクセンチュアが過去に同様のことを試みながら、いまだに成功していなかったことだという。「実はグローバルでも日本でも、アクセンチュアは何度か同じようなエンジニアの会社をつくろうと挑んでいたのですが、なぜかうまくいかなかったのです。それに再チャレンジすることに、個人的な興味がありました。人ができなかったことをやってやるのはなかなか面白いですからね」

ITエンジニアとコンサルタントを「スパーク」させたい

 もう1つは、安間氏自身がコンサルタントに対して、ある種の違和感のようなものを覚えていたことだった。「以前担当した非常に大きなプロジェクトでは、100人のコンサルタントを率いていました。モチベーションが高く、頭の回転も良く、素晴らしいやつらだと思っていましたが(うっとうしいと思うときもありましたが(笑))、正直どこかで『これって違うな』と感じていました。

 やっぱりぼくはエンジニアだなと。例えばものを作っているとき、画面が思ったとおりに動いただけで「うわあーうれしい」と喜んだり、誰かが解決できなかったプログラミングのトラブルを一生懸命汗だくになって調べて解決したりというところに、この上ない喜びを感じます。でも彼ら(コンサルタント)は、作ることの喜びよりもビジネス戦略としてどうか、作った後でどうお客さんの役に立つかに重きを置いている。どちらが本当の意味で正しいかといえば、彼らかもしれないけれど」

 コンサルタントの考え方では、ある機能がビジネス戦略上どうしても必要だとなれば、100点満点で5点のシステムであっても「作る」という選択をすることがあり得ると安間氏は話す。「『5点でも作っておくことが大事なんだ、ビジネス戦略上』なんていわれると、ムカつくわけですね(笑)。『5点のシステムなんか作りたくないよ』と思ってしまうわけですよ。そんなことも含めて、やっぱり彼らとぼくの考えは若干違うなと感じていました」

 しかしそのコンサルタントの視点と、ITエンジニアの視点が出合うとき、「スパーク」が生まれる。

 「ぼくがエンジニアの視点でぽろっと何かをいうと、彼らは『おおーっ』と驚くんですね。『そういう視点もあったのか』と。で、これは面白いなと。コンサルタントのビジネス視点と、ぼくらエンジニアの視点の出合いが、当時はぼく1人対100人だったのが、ATSをつくることによってN対Nにできる。そうすればスパークがいろいろなところで生まれて、そのスパークがとてもいい仕事を生んでいくことになる。それができたら面白いなと考えました」

 こういった思いが基になって、ATSは生まれた。「いまのところ意図したとおりにできているから、うれしいですね」と安間氏は笑う。

優秀なITエンジニアを集める

 新組織を立ち上げてうまく軌道に乗せるには、まずプロジェクトの成功例を積み上げて、その価値をトップに知らしめることが必要不可欠だった。当然ながら、社員としてはまず、優秀なITエンジニアを中途採用することになる。

 中途採用の社員が中心になることも、安間氏にATS立ち上げを決心させる一因となったようだ。「いまはアクセンチュアにも中途社員が増えてきましたが、当時はほとんどが新卒で入って育ってきたコンサルタントでした。多分ATSが初めて、アクセンチュアワールドに中途社員の血をたくさん流し込んだんだと思います。中途の考え方、悩み、ぶつかる障害ということは、(自身中途である)ぼくの方が皆さんより分かるかなと思ったことも理由としてあります」

 最初の1年ほどは、候補者全員の最終面接を安間氏が行っていた。「最初の1年で社員を100人にするという目標だったんです。100人だろ? 12で割るとだいたい1カ月8人くらい、そうすると1週間に2人くらいずつ会えばいいんだなどと高をくくっていました。ところが、まあ当たり前ですけど会った人全員が採用されるわけではないので(笑)、実際はその数倍の方に会いました」

 採用活動は念入りに行う。「一生懸命見ていますので、いまでもけっこう倍率高いですよ」。技術力はもちろん、ATSのカラーに合うかどうかを重要視しているためだ。

 「われわれアクセンチュアは、自己責任を問う会社です。何かが起きてしまったら、世の中が悪いとか会社が悪いとか、プロジェクトがここまで考えてくれなかったからとかではなく、主語はあくまでも『自分』です。

 何かが起きたとき、自分がどうするべきだったかを意識的に考えなければ、修正すべき個所など見いだせるはずもない。誰かの責任にし続けていたら、いつまでたっても力は付かず、いつまでたっても誰かのせいにして終わっていく。よくわれわれは『待ってちゃダメだよね』っていいますけど、そういう待っている人、または待っていることの方が心地よい人は、うちには合わないなと思っています」

 初年度100人の目標で、5年たった現在の社員数は650人ほど。順調に増えていったといえる。

 2004年からは新卒採用もスタートした。「新卒を取ろうと思った理由には、ゼロからの社員がなにがしかの文化をつくっていくエネルギーというものがあるというのもあります。というより、何となく若い新卒が来ると、エネルギーがあっていいじゃないですか」

 中堅エンジニアばかりのプロジェクトに新卒を入れると、中堅のモチベーションが上がるのだという。「エネルギーをもらうっていうんですかね。昔の純粋な気持ちを思い出すんでしょうね。ぼくもそうですよ。新卒と話をしているとすごく新鮮で。『安間さん、ぼく感動しました!』『何だよ何でだよ』『だってぼくの作った画面が動くんですよ、ボタンを押すと!』って。これだよモノづくりは! って思います。この新鮮さを忘れちゃいけない。これがエンジニアの喜びだという気がしますね」


ITエンジニアが「幸せ」になるためには?

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