ギーク至上主義時代にITエンジニアの働き方はどう変わるのか?PASONA TECH CONFERENCEレポート(2/2 ページ)

» 2013年10月28日 00時00分 公開
[吉村哲樹@IT]
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フルスタックエンジニア、プログラマ、インフラ技術者、デザイナがパネルディスカッション

サムライズム 山本裕介氏 サムライズム 山本裕介氏

 本イベントでは、現在IT業界の最前線で活躍するITエンジニア4人によるパネルディスカッション「エンジニアの未来を“みんなで”考える」も開催されました。

 ある人はフリーランスとして、ある人は企業に属しながら、またある人は自ら会社を経営するなど、4人ともそれぞれが異なる立場や異なるスタイルで日々仕事に携わっているだけに、ITエンジニアの働き方について実に多様な意見が次々と飛び出しました。


現役トップITエンジニア4人の働くスタイルは多種多様

山本氏 皆さんそれぞれ、1つの働き方に固執せずに、いろんなことをなさっていますよね。これまで、どういう基準で仕事を選び、そしてどんなスタイルで働いてこられたのでしょうか。

永和システムマネジメント サービスプロバイディング事業部 コミュニティマネジャー 角谷信太郎氏 永和システムマネジメント サービスプロバイディング事業部 コミュニティマネジャー 角谷信太郎氏

角谷氏 今の会社に入ったのは、とにかくアジャイルをやりたかったからなんです。入社前から、永和システムマネジメントはアジャイルの本を出していたり、その分野では進んでいる会社だというのは知っていましたので、ちょうど求人が出ていたこともあって「入れてくれ!」と押し掛けました。

 ちなみに、現在「日本Rubyの会」の活動も行っているのですが、これも「Rubyの人たち、かっこいいな。自分は大したプログラマじゃないけど、この人たちを応援したいな」と思って、カンファレンスのブースに「何でもいいからやらせてくれ!」と押し掛けたのが切っ掛けでした。

 ですから、複数の選択肢の中から仕事を選ぶというよりは、自分がやりたいことをやっているところに押し掛けて入れてもらう、というスタイルでこれまで来ました。

小俣氏 実は私は20歳のころ、「大企業への就職こそが勝ち」だと信じていて、初めて入った会社はNTTコミュニケーションズでした。しかし、実際入社してみて感じたのが、「この会社は自分がいなくても回るな」ということだったんです。このことに気付いて以降、なかなか仕事のモチベーションが上がらなくなってしまい、思い切ってベンチャー企業に転職しました。

 そこでは休み返上でひたすら勉強した結果、努力が評価されて取締役にもなれて、今では自分の会社を持つこともできました。今から考えると、大企業への就職はかなり遠回りだったのかもしれません。ただ、当時会社が受けさせてくれた教育や研修は、さすが大企業ならではの高度なもので、そこで得た知識は大企業にいた間はあまり役に立たなかったのですが、いざベンチャーの世界に飛び出した後には、ものすごく役立ってますね。

矢野氏 私はこれまで、あまり働き方ということについて特段意識したことはないんですね。ただ、人からは「それだけ働いて、本まで出して、よく時間があるね」とよく言われるので、あらためて自分の働くスタイルを振り返ってみると、時間の使い方は工夫しているかもしれません。

 もともとはフリーランスで、今は会社勤めなのですが、午前4時ごろには起床して、個人的な仕事や作業は早朝に済ませてしまいます。会社から戻るのは夜8時ごろで、11時前には寝てしまうのですが、夜の時間は食事の支度や、子どもと過ごす時間に当てています。こうやって会社の仕事に当てる時間と、個人の興味のために当てる時間を使い分けてきました。

 ほかの方にとって参考になるかどうか分かりませんが、自分の状況を変えたいと思っている人は、会社から帰った後に個人的な時間をたっぷり取れるよう、時間の使い方を工夫してみるといいかもしれません。

バックボーンネットワークITエンジニア Tomocha氏 バックボーンネットワークITエンジニア Tomocha氏

Tomocha氏 私も、かつて静岡のベンチャー企業に勤めていたころは、朝も夜も比較的自分の時間を取りやすかったので、自分が興味のある分野の勉強時間に当てたり、雑誌に寄稿する記事の原稿を書いたりしていました。また、そうやって個人的に勉強したことが仕事でも生かせたりと、仕事とプライベートがうまく回っていました。

 でも、都内の会社に転職して以降は会社にいる時間が長くなり、通勤時間も長くなってしまったので、平日はなかなか自分の時間が取れなくなってしまいましたね。正直、これはちょっとストレスになっています。会社に近い場所に引っ越したりもしましたが、自分のための時間をいかに捻出するかは、今個人的に大きなテーマになっています。

働くスタイルやステージを選ぶためのヒント

山本氏 皆さん、これまでのキャリアの中で、働くステージを選ぶための岐路に立たされたことがたびたびあったかと思うのですが、その際どのような考えや基準を基に選択に臨んだのでしょうか? 矢野さんの場合は、もともとフリーランスの立場で開発していた「Simeji」がバイドゥに買収されたときには、かなり大きな選択を迫られたかと思うのですが。

矢野氏 そうですね、もともとSimejiの開発は趣味でやっていたので、これを事業として立ち上げる際にはいろいろ考えました。でも、バイドゥの一員になった今でも、特に我慢していることはないし、何も問題ないですよ。もともと「何となく、面白そうだな」とは思っていましたし。それに私、つまらないと感じると何でも、すぐやめちゃうんですよね(笑)。バイドゥの仕事も、つまらないと感じていたらとっくにやめていたと思います。

山本氏 でもその辺りって、多くの人が悩むところだと思うんですが。たとえ仕事がつらくても、我慢して続けていれば将来は部長で安泰だし、みたいな。

トライフォート 代表 兼 CTO 小俣泰明氏 トライフォート 代表 兼 CTO 小俣泰明氏

小俣氏 まあ、部長になれれば確かに安泰だと思いますよ(笑)。日本の会社って、指示されたことをきっちりこなすイエスマンが評価される傾向が強いですからね。

 一方で、海外のIT企業って社員の働き方も自由ですよね。グーグル本社を訪問したことがあるのですが、本当に自由なワークスタイルです。できれば、これと同じスタイルを日本でも実現できればと思うのですが、恐らく先ほど言った「指示待ち」カルチャーが身体に染み込んでいると、シリコンバレーのような自由なワークスタイルはきっと機能しないと思うんですね。

 ですから、働くスタイルやステージを自由に選びたいと思ったら、まずは自分自身が仕事に向き合う際のスタンスやマインドを、根底から見つめ直す必要があるように思いますね。

山本氏 なるほど。ただ日本人の勤勉さは大きな強みでもありますから、それを生かしつつ、より自由なワークスタイルを模索するという道もありますよね。

角谷氏 そういう意味では、私はまったくステージを選んでません(笑)。同じ会社に、もうかれこれ10年以上もいますから。ただ、いるからには役に立ちたいと思っているので、皆が働きやすい環境を何とか作り上げられればと日々模索しています。

 永和システムマネジメントは基本的にプログラマが中心の会社なので、割と「俺様タイプ」が多いのですが、それをある程度許容する働き方の方が結果的にパフォーマンスは上がります。ただ、それは決して個人のワガママを許すということではなくて、各個人の都合をチーム内できちんと調整した上で、仕事全体としてはきちんと遂行するということです。

3〜5年後、どうしている?

山本氏 ちなみに、これから3〜5年後に、皆さんはどんな働き方をされていると思いますか?

小俣氏 個人的にどうこうというよりは、日本が世界のソフトウェア産業の中で勝てるような状況を作り出したいと思っています。そのためには、ITエンジニア上がりの経営者をもっと増やさなければいけない。そういう人を自分の会社で集めたり育成したりしたいし、熱意のある社外の人を支援したいとも思っています。

 なので、3〜5年後にも私自身は今と同じく経営者・技術者であり続けるとは思いますが、それに加えて投資家としても活動しているかもしれません。

角谷氏 私は正直なところ、3〜5年後の自分の将来像はなかなかイメージできないですね……。今から思えば10年前、「ソフトをもっとうまく作りたい!」「Rubyコミュニティの人たちを応援したい!」という思いを抱き続けてこれまでやってきたのですが、今でもその思いはまったく変わりませんから、ひょっとしたら10年後も同じことを考えて同じことをやっているのかもしれません(笑)。

 ただ最近では、Rubyコミュニティに若い人たちが少なくなってきたので、優秀な若い人たちとどうやったら一緒にできるか、ということは考え始めています。

Tomocha氏 私も同じですね。10年前と今とで、やりたいことは基本的に変わっていません。ネットワーク技術が好きで過去10年間やってきましたが、それは今後も変わらないと思います。確かに、新しいテクノロジーが次々と登場していますが、コア部分の技術は変わりませんから。

 あと、これも角谷さんと同じなのですが、趣味でお手伝いしているコミュニティの平均年齢が上がってきているのは気になっています。ですので、もし若い人が新たにコミュニティに参加してくれた際には、自分がこれまで培ってきたことを何とかうまく伝えていきたいですね。そういう後進育成の活動にも、今後は力を入れていければと考えています。

バイドゥ プロダクト事業部 マネジャー 矢野りん氏 バイドゥ プロダクト事業部 マネジャー 矢野りん氏

矢野氏 私自身、よく「将来に備えて何を勉強したらいいか」と聞かれることがあるのですが、過去を振り返ってみると、技術やデザインのスキルってどんどん機械に置き換えられて自動化されてきているんですよね。従って将来的にも、そうした置き換えはどんどん進むんだろうと思います。

 じゃあ、いったい何を大事にすればいいかということを突き詰めて考えていくと、最終的には「自分自身のプロ」であることしか残らないと思うんですね。つまり、本当に自分がやりたいことにこだわって、個性を大事にしていけば、たとえどこに行っても「こいつ、面白いな!」と受け入れてもらえるのではないでしょうか。

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