母さん、プログラムってそれじゃないんだ
ナレッジエックス 中越智哉
2007/8/24
■帰省したしんじ君。久しぶりの家族の会話だけど……
翌日、しんじ君は飛行機で北海道へ戻ってきました。4月に上京して以来、実に4カ月半ぶりの故郷です。空港から電車とバスを乗り継いで、久々のわが家に帰り着きました。
しんじ君 | ただいま〜。 |
お母さん | あら、おかえり。ずいぶん焼けたわね。 |
しんじ君 | え、そう? |
お母さん | 東京は暑かったでしょ。 |
しんじ君 | そうだね、あっちは本当に暑いよ。 |
夜になり、しんじ君のお父さんも帰宅して、久しぶりの一家団らんです。話題はおのずと、しんじ君の東京での仕事や暮らしのことになりました。
お父さん | しんじ、仕事の方はどうなんだ。 |
しんじ君 | うん、まあ順調かな。 |
お母さん | しんじはどういう仕事をしているの? |
しんじ君 | どういうって……受託開発だけど。 |
お母さん | じゅたく……何ですって? |
しんじ君 | 受託開発だよ、お客さんから注文を受けてシステムを作るんだよ。 |
お父さん | ほぉ、システムっていうのは、どうやって作ってるんだ? しんじが1人で作るのか? |
しんじ君 | いや、1人のときもないわけじゃないけど……普通は何人かでプロジェクトを組んで開発するんだよ。 |
お父さん | そうか。で、しんじはそのプロジェクトでどういう役割なんだ? |
しんじ君 | そうだなぁ……最初はテスターが多かったけど、最近だとコーディングしたりが多いかなぁ。 |
お母さん | てすたー? |
しんじ君 | ああ、そうか……テスターは、テストをする人のことだよ。コーディングはプログラムを書くこと。 |
お母さん | プログラムっていうのは、仕事の進行か何かを決めるってことなの? |
しんじ君 | ああ、いや、運動会のプログラムとは違うんだよ。う〜ん、なんていえばいいのかなぁ……。 |
お父さん | ……まあ、しんじが東京で一生懸命やってることは分かったよ。 |
お母さん | そうね……。さあ、しゃべってばかりいないで食べて食べて。 |
しんじ君 | ああ、うん、そうだね……。 |
久々の家族の会話を楽しみながらも、しんじ君は、自分が東京で頑張っている内容をうまく伝えられないことに、もどかしい思いを感じていました。
しんじ君 | ITエンジニアを知らない人に仕事の内容を伝えるのって、難しいものなんだなぁ……。 |
■帰省を大いに楽しむしんじ君。でも北村君も……
さらにその翌日。しんじ君は予定どおり、大学時代の友人たちとの飲み会へ出掛けました。ちょうど同じ時期に帰省していた北村君も来ています。
しんじ君 | 北村、久しぶり。 |
北村君 | おお、しんじ、久しぶり。2人とも東京にいたのに、会うの久しぶりだよな。 |
しんじ君 | そうだよね、ゴールデンウイークに飲んで以来だっけ? |
北村君 | お互い、結構忙しかったからなぁ。 |
しんじ君 | うん、でもやっぱり、地元はいいね。 |
北村君 | ああ、でもウチの親はなんかおれのこと、変わったっていってたよ。 |
しんじ君 | え、そうなの? |
北村君 | うん、なんかさ、ちょっと離れてるうちに、知らない言葉ばっかり使うようになったって……。 |
しんじ君 | あ、それ、僕もだよ。親に仕事のことを話したかったんだけど、全然通じなかった。 |
北村君 | やっぱり? おれなんか、墓参りのとき、ばあちゃんにも仕事のこと聞かれたけど、ITエンジニアとかいっても全然ピンとこないみたいだったよ。 |
しんじ君 | そうか……。僕らの業界って、横文字が多いし、専門知識もいっぱい必要だもんね。もっと分かりやすく説明できるといいんだけど。 |
北村君 | うん、親も同じ業界ならまだ分かってくれるんだろうけど、全然違う業界だしね。 |
しんじ君 | そうだね。まぁ、それはそれってことで。今日はじゃんじゃん飲もう! |
北村君 | おう! |
そして、あっという間にお盆休みの最終日が来てしまいました。目いっぱい遊んで、休んで、楽しんだしんじ君ですが、時がたつのが早過ぎて、まだまだ物足りない様子です。
しんじ君 | ああ、なんで休みっていつも時間のたつのがこんなに早いんだろう……。学生時代の夏休みの最後の日を思い出すなぁ。 |
しんじ君は再び、機上の人となったのでした。
■システムに詳しくない人と話すときには
空港から東京の自宅に戻る電車に乗りながら、しんじ君は故郷での出来事を思い出していました。楽しいこともたくさんあったのですが、帰省した最初の夜に両親と話した内容が気になっていました。
しんじ君 | 僕が一生懸命やってる仕事のこと、親にもっとうまく説明してあげたかったんだけどなぁ……。この業界は横文字とか専門用語が多いから、初めて聞く人には、そこから説明しないと、全然分からないんだろうな。いつもは周りもITエンジニアばかりだから、そういうことで困ることってないし、むしろ自分の方が知らない用語が多くて苦労しているくらいだけど……。 |
考えながらしんじ君は、あることに気が付きました。
しんじ君 | ん? まてよ。この感覚って、どこか別のところでも記憶があるな? |
しんじ君は目をつぶってしばし自分の記憶をたどってみました。そして、ある場面にたどり着いたのです。
しんじ君 | そうか! これって、お客さんと話すときの感覚と似てるんだ。お客さんにシステムのことを説明するとき、なんかうまく通じなくって、よく勘違いされたり、誤解されたりするんだよなぁ。ナレッジ商事の遠藤さんとか、結構そういうとき多いんだよなぁ。でも、僕って自分が分かっている概念や用語を、お客さんも知っているつもりで説明しちゃうことが多かった気がするから、それが原因だったのかも……。 |
しんじ君は今回の帰省を通じて、1つ学ぶことができたようです。ちょうど休み明けには、ナレッジ商事の遠藤さんと開発中のシステムについての打ち合わせが予定されています。しんじ君、今度は遠藤さんにもうまく説明できそうですね。
しんじ君 | 次の打ち合わせでは、考えなしに専門用語を使うんじゃなくて、遠藤さんに誤解されないように分かりやすく説明する……。よ〜し! 明日からまた頑張るぞ! |
電車に揺られながら、1人気合いを入れるしんじ君でした。
今回のインデックス |
新人しんじ君の夏休みその1――カニとイクラは勘弁してください |
新人しんじ君の夏休みその2――母さん、そのプログラムじゃないってば |
筆者プロフィール |
中越智哉●北海道出身。北海道大学大学院電子情報工学専攻修士課程修了。在学中はJavaとLinuxに熱中。卒業後、Javaの仕事にあこがれ、1999年にテンアートニに入社。Java の受託開発案件や教育事業、コンサルティングなどを幅広く担当した後、2006年2月に同社を退社。同年3月にナレッジエックスを設立。 JavaをはじめとするIT開発技術の教育に奔走する。趣味は自転車と草野球、そして毎日欠かさない耳かき。 |
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