鈴木麻紀
2006/3/28
転職という決断
先日、@IT自分戦略研究所の連載「転職。決断のとき」のインタビューに同席しました。この連載は、主にわたしの担当するサービスである@ITジョブエージェントを通じて転職したITエンジニアに取材をして、彼らの転職までの経緯や後日談、どんなことに悩み、喜び、そして何が「転職」という決断をさせたのか、といった軌跡を追うものです。
今回のインタビュー相手は、25歳の女性ITエンジニアでした。仕事を通じて成長したいという思いから転職を決意し、仕事をしながら勉強を続けて、未経験ながらIT業界に転職したガッツあふれる方でした。彼女の前向きな姿勢には、「あぁ、こういう方がチャンスをつかむんだなぁ」と納得させられる部分がありました。
そのとき印象に残ったのが、なぜITエンジニアを目指したのかという問いに彼女が答えた「ずっと働きたいから」という言葉です。彼女はまだ25歳なので「ずっと」のイメージは漠(ばく)としていたのですが、何となく「結婚してからも働き続けたい」というイメージのようでした。そこでふと思ったのですが、「ずっと働き続ける」とはどういうことなのでしょう。
「ずっと働き続けたい」とは
「ずっと働き続けたい」。最近の働く女性はよくこの言葉を口にしますし、自分でいわなくとも周りの人に聞かれます。わたしも親せきなどに、「いつまで働くつもりなのか」と聞かれることがよくあります。
男性には「ずっと働き続ける」という表現は、あまり使われません。定年退職した後の「生涯現役」みたいな意味合いでいうことはありますが、ある程度の年齢まで働くことは当たり前のことで、わざわざ宣言するほどのことでもない、とみんなが思っています。
対して女性の場合には、「ずっと働き続ける」という言葉が使われます。暗黙のうちに、女性が働くのはある程度の年齢までで、特殊な職業やシチュエーション以外で女性が「ずっと働き続ける」ことは、まだまだ社会では、特別なことととらえられているようです。男女雇用機会均等法制定からまだ20年余りなので、仕方がないことなのかもしれません。
働き続ける人のイメージ
皆さんは、「ずっと働き続ける」女性と聞いてどのような人を想像しますか。一般的なイメージとしては、一昔前のくくりでいうところの「総合職」と「一般職」が挙げられます。総合職は男性と同等にメインの仕事をして「ずっと働き続け」、一般職はアシスタント的な仕事をしてある時期がきたら(外では)働かなくなる。
では、実際の「ずっと働き続けている」女性はどのような働き方をしているのでしょうか。取引先の会社などを訪問すると、一般職といえる職務で働き続けている女性をよく見掛けます。彼女たちは職務的にはアシスタントですが、その中で自分の専門領域を確立し、その専門領域においては「誰にも負けない」自信とそれに伴った責任を持って働いているように見受けられます。
反対に、総合職のくくりに入る職位にあるもののその本質はアシスタント止まりで、その人ならではの部分がなく肝心なところの責任もないため「誰がやってもいい仕事」をしてしまい、いつか誰かに差し替えられる危険性を持った「いまのところ働いている」女性も多く見掛けます。
そこから考えられるのは、どんな職位であれ役割であれ、会社にとってどれだけ掛け替えのない人材となるか、その人でなければならないオンリーワンの存在になるかが、「ずっと働き続ける」か否かの線引きとなっているのではないか、ということです。オンリーワンの存在になるためには、自分の仕事の領域においてベストワンになることが必要で、ベストワンになるためには目の前の仕事に真剣に向き合う気持ちが必要。仕事に対しての強い意識、いうなれば覚悟が「ずっと働いている」人からは感じられます。
「自分らしく働く」の本質とは
女性誌などにはよく「自分らしく働く」という表現が使われます。それは「プライベートも仕事も充実」といったイメージで取り上げられ、若い女性のあこがれのワークスタイルだったりします。
しかし、この「プライベートも仕事も充実」は、「自分らしく働いた」結果であって、「自分らしく働く」ことの本質は前述の意識や覚悟を持って働くことではないかとわたしは思います。結果だけを求めようとすると、「自分らしく働く」ではなく、「自分本位に働く」になってしまい、オンリーワンの人材どころか、差し替えたい人材になりかねない危険があります
さて、先ほど男性には「ずっと働き続ける」という表現はあまり使われなかったと書きましたが、最近では、男性においても「ずっと働き続ける」ことが当たり前ではなくなってきました。代わりが利く仕事の仕方をしていると、本人が「ずっと働く」つもりでも「ずっと働かせてもらえない」日がやってくる危険性があるのです。
わたしは前職で人事採用をしていたころに、このような「ずっと働けなくなった」男性を何人も面接しました。会社というところでは、誰でも入社してすぐの時期はその人でなくても構わない、いい換えれば「差し替え可能」な仕事を与えられます。通常は、その中で日々意識を持って仕事をし、努力を続けることでその人ならではの位置を確立していくものなのですが、「ずっと働けなくなった人」は、その努力をする前に、職場環境などで嫌なことがあると会社を辞めてしまいます。
仕事の一瞬一瞬を大切にしたい
「差し替え可能」な求人は多々ありますので、再就職先を探すのは若いうちは簡単です。そして、新しい職場でも掛け替えのない人材になるチャンスはあったのに、同じような理由で簡単に辞めてしまいます。再就職、退職の繰り返し。「大丈夫、仕事はたくさんあるさ」と思っていると、その日は突然やってきます。ある一定の年齢になった途端に、「誰でもいい仕事だから若い方がいい。ご縁がなかったということで」と突き離され、どこにも就職できなくなるのです。熟練した技術も知識も、仕事に対する覚悟もない彼らには、行く場所がありません。
残念ですが、そういった方が面接にいらした場合はわたしも採用はしませんでした。もともと誰でもよいという採用の仕方はしていませんでしたし、たとえ多少の技術や知識があったとしても、いままでの仕事を大切にしてこなかった人が、これからの仕事を大切にしてくれるとは思えなかったからです。
男性にとっても女性にとっても「ずっと働き続ける」ことが当たり前ではなくなる時代がやってきます。それでも「ずっと働き続ける」ためには、仕事に向き合う真剣な気持ちが何より大切だと、わたしは思います。「ずっと働き続けたい」、だからこそ今目の前にある仕事を見つめ、一瞬一瞬を大切にしていきたい。その一瞬一瞬が「ずっと働き続ける」未来につながっていくのだと信じています。
筆者プロフィール:鈴木麻紀。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。ITサービス系人材ビジネス会社で、人事採用とキャリアカウンセリングに約6年間従事。2004年春、アットマーク・アイティ入社。現在@ITジョブエージェントを担当。 |
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